重なる世界の物語

えんとま

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ギルド"猟犬の牙"

"舞い姫"アリス・アルベティ

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「始め!!」

その掛け声と同時に、アリスはこちらへは走ってきた。

早いっ!!

ふと気づけば、アリスは木刀を振り下ろしている。意識よりも先に、クラインは体を動かした。

カァンと木刀がぶつかり合う音がする。思ったより重い攻撃ではない。

アリスの木刀は弾かれた…がしかし、小柄な体をぐるっと回転させ、弾かれた反動すら利用しさらに勢いを乗せて攻めてくる!

「はぁっ!」

「くぅぅ!」

アリスの剣撃は止まらないどころか加速していく。もはや木刀が打ち合う音より、アリスの木刀が風を切る音の方が大きいくらいだ。

「うぉっ…とぉ!」

かろうじて受けきれてはいるが、このままではいずれ押し切られる。
アリスの一撃を思いきり弾くクライン。
流石に受けきれなかったのか、アリスは態勢を崩した。その隙にクラインは一旦距離を置く。

凄まじい剣速だ。弾かれた木刀の反動を利用して次の攻撃に繋げるなんて…それもあの速度で。
一撃そのものはさほど重くないが、そのうち捌き切れなくなるのは明白だな。

ようやく一息つけたところで、クラインは分析を始める。

剣速もそうだが何より驚異的なのはあの身のこなしだ。体全体で力の流れを掴み利用する事であの剣速を実現している。驚異的な身体能力あっての技術だ…。

いや、身のこなしだけではないな?あの剣撃の中、木刀に触れる瞬間には次の攻撃につなげるため重心を移動し始めていた…。
反射神経と言うよりは…そうか!

クラインはある結論にたどり着く。

これならば反撃の余地はある、試してみる価値は十分だ!

・・・・・・・・
・・・・・
・・・


まさか、私の連撃を受け切るだけでなく、距離まで置かせてしまうとは。

普段使い慣れない一刀流ではあるが、多少自信のあったアリスは内心驚いていた。

いや、相手はあの継承する魂の宿主マスターソウルホルダー。舐めてかかった私の甘さが招いた結果だ、反省しなくては。

深呼吸をして、木刀を握りしめる。

問題ない。ハッキリと
木刀の当たるその瞬間、クラインさんの腕に力が入る時の筋肉の動き、足の運び。


アリスの最大の武器は剣速でも、それを実現する身のこなしでもない。異常とも言える動体視力にあるのだ。

突出した動体視力は、相手の動きを正確に捉えることにとどまらず、見える世界をスローにさえしてしまう。

「流石は"舞姫"、継承する魂の宿主マスターソウルホルダー相手に慣れない武器で牽制するとは、その名は伊達じゃねぇな」

「ダンさん、やめてください。その名前恥ずかしいんです」

アリスは頭の中でイメージする。
私の攻撃スタイルは知られている。一方的に攻められまいと、今度は向こうから仕掛けてくるはず。そのタイミングで決める!

ジリジリと互いに距離を詰めていく。
次の瞬間、クラインが動いた!

やはり攻めてきた!

垂直に振り下ろされた木刀。なるほど、水平に薙ぐと受けた反動を回転で利用されるから、縦に振り下ろしてきた訳ですね。
甘いですよ!

アリスは木刀を両手に持ち攻撃を受ける。否、クラインの木刀の勢いを推進力に、そのまま勢いをつけ、そのまま木刀を振り下ろす!

この勢いなら木刀を弾き飛ばせる、私の勝ちだ!

サッと防御の姿勢を見せるクライン。互いの木刀が激突する…!

……。
…!?

アリスは異変に気付いた。
おかしい、木刀は確かに当てているはずなのに。いや、それどころかぶつかり合う

まるで空を切る感覚。そこにいるのに、視えているのに手応えがない。
なんだこれは!!

足は地についていない。たまらずバランスを崩し手をついて着地するアリス。
振り向こうとしたその瞬間、首から頬にかけて風を感じた。見ると首筋には木刀が添えられている。

あぁ、私は負けてしまったのか。
不思議と悔しくはない、それどころか清々しさすら感じる。

「…参りました。強いですね、クラインさん」

その様子を見ていたシリエは高らかに宣言する。

「そこまで!勝者クライン君!」

シリエはクラインの前まで歩いてきて、にっこりと微笑んだ。

「おめでとう、あなたの加入を認めるわ。そしてよろしくね、猟犬の牙ハウンドファング8人目の冒険者、クライン・アスコート」

グッと拳を握り控えめなガッツポーズをするクライン。

今この瞬間、一歩自分の目的に近づいたのだ。
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