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「辛い!」

 この燻月蝙蝠は臭いのではない。
 目も開けられないほどの辛さ。
 激辛のフィールドを創り出すのだ。

「キエエエエエエエエエ!」

 甘ったるい空気を一瞬にして爆発させる辛さ。

「少々アンズさんには辛かったかな?」

「辛い!
 辛い!
 今にも爆発しそう!」

 ツライカライ。
 極悪な環境だよ。
 幾栄にも重ねた布を持ってもこの肌にまで響く香りには逆らえない。
 防護服をさらに着るように杏さんに言いつつ。
 自分は目の前の食材に対して、どう調理しようかと迷っていた。

「アウトドアはカレーって聞くけど激辛?」

「これは全部煙の香りだからね。
 解毒して薄めれば、シナモン、コリアンダー、カルダモンと数千種類のスパイス、ハーブの香りに変化するけど、あの羽だけは味を変えることなく絶品のモノに成る。
 他にもうまみ成分を高めるアミノ酸などが肉体に含まれている。
 余すところなく使える食材だね。
 群れから離れたところを狩るのが一般的なところだけど。
 僕らは巣穴に向かうから気を付けてね。」

「ふぁーい!」

「キエエエエエエエエエ!」

 先ほどからうるさいが燻月蝙蝠自身の攻撃はスパイスによるものしか存在しない。
 それさえ克服できれば容易に洞窟内の攻略が可能なのだ。
 ではそれが何故か酷なのか。
 この世界の防護服という概念の技術が稚拙だからだ。

「ほいっと。」

 難なく狩りは終る。

「簡単ですが、もちろん彼らにはボスが存在します。
 ボスは羽が退化し、腕に変わっています。
 っていうかゴリラ?」

「なんで?」

「いやゴリラはゴリラだから。
 知ってる人が居ないから私が勝手に名前を付けているけど、簡単にゴリラ31と呼んでいるよ。」

「なんで31?」

「見れば解るよ。」

 防護服に着替えた。
 アンズさんはマスコット的な衣装に身を包んでいた。
 尚、防護服の開発者は私で、気密性を加味した結果そのようになってしまった。
 私自身慣れて、必要なくなったことから新しく作ることは無かったが、これを機に作ってもいいかもしれない。
 私の性癖を全開にするなら全身ライダースーツ型の某女盗賊風もしくは光る眼鏡のおじさんが作ったクローンの人造人間登場用スーツにするかだ。

「ほほう、その目は初めて三世を見た時の目ですな。
 もしや、僕のために新しく防護服を作ってくれるのかな?
 僕は今全身がエレンツォに包まれているんだよ。
 それはそれでエロくない?」

「エロいね。」

 グフフフ。
 陰キャが絡み合うとなんとなく互いの考えていることを言葉を欲することなく解ってしまう。
 片方ヤンデレが居るが、その甘ったれた空気が嫌いな蝙蝠たちはここぞとばかりに辛いスパイスをまき散らしにかかってきた。
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