上 下
67 / 79
はじまり

65.それぞれの気持ち-02

しおりを挟む
そして二人は、黙って頭を下げ、兵達によって牢へと連れていかれた。

兵達は、かつての上司、軍部最高司令官である将軍を連行しながら複雑な心境で歩いた。
尊敬していた将軍をよもや自分達の手でとらえる事になるなんて…と。

身分など関係なく実力ある者は取り立ててもらえた。
辺境地区での部族同士の争いや、犯罪組織の壊滅にと共に戦った。

時には軽口をたたき、共に戦い、共に笑い、共に泣き、共に汗を流した。
将軍は言っていたのだ。

は同じ釜の飯を食っただ!』と…。

信じていた…。
そして…そんな心無い言葉で裏切られた…。

先ほどまでの身分を振りかざす数々の言葉は、たたきあげできた平民や下級貴族出身の兵達の心をえぐった。
兵の一人クルトは思った。

妹のサラは本気で将軍の事が好きだった。
将軍にとっては野営中に差し入れを持ってきただけの、ちょっとばかり見目の良い少女で、軽口をきいただけだろう。

「サラくらい美人なら、将来、嫁さんにしたいくらいだ」等と言ったらしい。

将軍にとっては単なる、リップサービスだったのだろうが、妹は本気にした。
憧れは本気の恋になり、妹は毎日のように将軍に差し入れを持っていっていた。

ほかにもを言われていたのだろう。

無垢だった妹は未だにそれを信じていた。
兄の俺がどんなに言い聞かせても聞きはしなかった。

公爵令嬢を取り合っているという噂にも耳をかさず、数回、気まぐれな言葉を交わしただけの将軍をひたすら想っていた。

自分も平民出身の妹がまさか妻になれるとも思ってはいなかったが、将軍ならひょっとして、そんな事もあるかのかも…などと少しばかり夢をみてしまっていた。

「婚姻ともなれば話は別だ!」と言う言葉は、明らかに自分達、爵位など持たぬ人間に境界線を引いた言葉だった。

そうだよな…王様の弟なんだものな…あたりまえだ。
そんな事はこの国の貴族社会で常識だった。

でも、現実にそうだとしても、言葉にされると結構きつかった。

あんなに我が国に支援してくれたルーク魔導士にも、ひどい言い様だった。
今回の捕物でも、あの方の力添えなくば、上手くはいかなかったというのに、侮るような言葉を何度も吐いて…。

ルーク魔導士が、将軍や王子殿下を叱りつけた時、正直、すかっとしたのは、俺だけではないだろう。

人の口に戸は立てられない。
これだけの人々の前で行われた茶番劇…。

この事は一両日中には広まるだろう。

ザッツ将軍のこれまでの信頼も栄光も、失った。
そして、もしかしたら命さえも…。

***

王の「極刑(死刑)もあり得る」という王の言葉は、周りを驚かせた。
王族とはいえ実の息子(しかも一人息子)と実の弟である。

しかし、この言葉はその場を収めるのに、大使達を納得させるに至るものでもあった。
世界平和の象徴とも言えるこのデルアータ園遊会での暴挙で真に王家の醜聞といえるこの事態である。

実際に極刑にまで行かなくてもそれに準じた処罰が下るであろうと予測されるし、少なくとも将軍と王子と言う立場は、あの時点で剥奪されている。

その時点で身分を重視する王侯貴族から見れば死刑よりも重い罰ともとれたからである。

「やり過ぎでは?」という声もあれば

「さすがは、賢き王は事の重大さを理解しておられる」と感心する者もいた。

しかし、そうなるとこの国での世継ぎ問題や将軍不在の問題に他国が付け込み何か仕掛けてきそうなものではあるが、ラフィリル王国が、それを許さないであろうことは、王妃を慰めるラフィリアード公爵夫人の対応や、この国の公爵令嬢を愛しむルークの眼差しに見て取れた。

そして各国の要人たちは、それほど愚かではなかった。
デルアータの行く末はまさにラフィリルの采配次第だろう。
それに異を唱える国などこの園遊会に出席する者たちの中にはいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...