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はじまり
35.決戦前に浮かれる父
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カルムは、屋敷につくと、マルガリータのいる離れを横目にイリューリアのいる本館へ向かった。
明日の闇取引を抑え証拠をあげたら、マルガリータの処遇も決まる。
只では済まさないと心に誓うカルムだった。
ふと、そう言えば以前、イリューリアを学園に通わせないとマルガリータが言いだした時、怒って、あの離れに乗り込んだ。
その時も何か段々、頭がぼやけた様になって、イリューリアの為だという言葉にまるで暗示をかけられたようになった…。
そもそも自分は、そんなに甘い人間だったろうか?
あの時、私はマルガリータを断罪し放り出すつもりだったのに…。
そんな事を考えながらも本館に足を踏み入れると、二階のイリューリアの部屋から何やら楽し気な声が聞こえてきた。
「おかえりなさいませ。旦那様」家令のジェームズが、出迎える。
「何やら二階が騒がしいようだが?」
「はい、お嬢様とメイド達が何やらはしゃいでいるようで…先ほど、わたくしも、不審に思って様子を伺ったら、つい先ほどまで魔法使い様が来ていたなどと、楽し気にわたくしをからかって…」
「なにっ!魔法使い?まさか、ルーク殿がきたのか?」
「は?」
「魔法使い殿が、来たのか?と聞いているんだ?」
「は?まさか、旦那様…魔法使いなんているはずが…」
「いるのだ!ああっもう、いい!イリューリア!イリューリア!」とカルムは、慌てて二階へ駆け上がりルミアーナの部屋に向かった。
バンッと扉を開け放ちカルムがイリューリアの部屋へと乗り込む。
ジェームズも慌てて、主人の後を追い、入ってくるが意味が分からない。
ふさぎがちだったお嬢様が、メイド達と楽しそうに魔法使いが来たなどと可愛らしい事を言ってふざけているのを微笑ましいと思い、大して気にもせず喜んでいたのだが…旦那様のこの慌てようは、何なのだ?何か自分は思い違っていたのかと怪訝そうな顔になるジェームズだった。
「まぁ、お父様、お帰りなさいませ」
いきなり入ってきた父に驚きつつも、満面の笑みで迎えるイリューリアはいつもにも増して可愛らしい。
「はうっ!可愛いっ…っじゃないっ!イリューリア!魔法使い殿が、来られたというのは本当か?」
「まぁ、お父様、ええ、え~と…ルーク様が来ていましたわ。私に”お守り”を持ってきて下さったのですわ!このお守りがあれば、どんな呪いからも私を守ってくれるから…と!それに私が危険になったらルーク様に分かるのだそうですわ!」と、イリューリアは、ルークにかけてもらった月の石のペンダントをそっと手で包み頬にあて、柔らかに、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「おお!おお!それは!何と有り難い事だ!かのラフィリルの魔導士のルーク殿なら、それくらい御力はあるのだろうな!うん、それは良かった!」
父のこの手放しの喜びようにイリューリアは少し驚いたが、少し良かったとも思った。
「ま、まぁ、よかった。私、ひょっとして、こんな夜更けに、ほんの少しの時間とはいえ男の方を自室に招き入れてしまうなんて…お父様に怒られてしまうのではないかと心配してしまいましたわ」ほっと息をつきながらイリューリアが言うと父は笑った。
「はははっ、まぁ、それは、そうだな。いや、でもルーク殿は特別だ!剣も楯もきかぬ相手からもルーク殿ならきっとお前を守って下さる!」
「まぁ、お父様、私もそう思いますわ!」とイリューリアは、父に駆け寄りハグした。
「おお?うれしいな、どうした?イリューリアの方からこの父に抱き着いてくれるなど、小さい頃以来ではないか?」
「うふふ、ルーク様に言われましたの。朝晩、お父上にハグしてさしあげるようにと」
「なんと!そんな事を!」
「家にいる時はできるだけお父様と一緒にいるようにもおっしゃってましたわ!」
「そうか!そうか!」とカルムは破顔した。
(なんとっ!良い男ではないかぁ~っっ!うむ!うむ!)
(やはり…イリューリアの婿にはルーク殿以外、考えられんな!)と密かに思うカルムだった。
ルークとしては、マルガリータの夫であるカルムにも纏わりついていたマルガリータの呪いをカルムの頭や肩を励ますふりや、糸屑をとるふりをしてポンポンはたいて払ったものの、マルガリータが日々、黒魔石に祈っているのならこまめに祓わないととダメだろうな?と考えた故の事だった。
そして月の石を持たせたイリューリアが父に降れる事で呪いを祓う効果があるからそう言っただけに過ぎなかったが…。
思いがけず年頃の我が娘にハグしてもらえるという幸せに恵まれた父カルムは浮かれまくっていた。
明日の闇取引を抑え証拠をあげたら、マルガリータの処遇も決まる。
只では済まさないと心に誓うカルムだった。
ふと、そう言えば以前、イリューリアを学園に通わせないとマルガリータが言いだした時、怒って、あの離れに乗り込んだ。
その時も何か段々、頭がぼやけた様になって、イリューリアの為だという言葉にまるで暗示をかけられたようになった…。
そもそも自分は、そんなに甘い人間だったろうか?
あの時、私はマルガリータを断罪し放り出すつもりだったのに…。
そんな事を考えながらも本館に足を踏み入れると、二階のイリューリアの部屋から何やら楽し気な声が聞こえてきた。
「おかえりなさいませ。旦那様」家令のジェームズが、出迎える。
「何やら二階が騒がしいようだが?」
「はい、お嬢様とメイド達が何やらはしゃいでいるようで…先ほど、わたくしも、不審に思って様子を伺ったら、つい先ほどまで魔法使い様が来ていたなどと、楽し気にわたくしをからかって…」
「なにっ!魔法使い?まさか、ルーク殿がきたのか?」
「は?」
「魔法使い殿が、来たのか?と聞いているんだ?」
「は?まさか、旦那様…魔法使いなんているはずが…」
「いるのだ!ああっもう、いい!イリューリア!イリューリア!」とカルムは、慌てて二階へ駆け上がりルミアーナの部屋に向かった。
バンッと扉を開け放ちカルムがイリューリアの部屋へと乗り込む。
ジェームズも慌てて、主人の後を追い、入ってくるが意味が分からない。
ふさぎがちだったお嬢様が、メイド達と楽しそうに魔法使いが来たなどと可愛らしい事を言ってふざけているのを微笑ましいと思い、大して気にもせず喜んでいたのだが…旦那様のこの慌てようは、何なのだ?何か自分は思い違っていたのかと怪訝そうな顔になるジェームズだった。
「まぁ、お父様、お帰りなさいませ」
いきなり入ってきた父に驚きつつも、満面の笑みで迎えるイリューリアはいつもにも増して可愛らしい。
「はうっ!可愛いっ…っじゃないっ!イリューリア!魔法使い殿が、来られたというのは本当か?」
「まぁ、お父様、ええ、え~と…ルーク様が来ていましたわ。私に”お守り”を持ってきて下さったのですわ!このお守りがあれば、どんな呪いからも私を守ってくれるから…と!それに私が危険になったらルーク様に分かるのだそうですわ!」と、イリューリアは、ルークにかけてもらった月の石のペンダントをそっと手で包み頬にあて、柔らかに、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「おお!おお!それは!何と有り難い事だ!かのラフィリルの魔導士のルーク殿なら、それくらい御力はあるのだろうな!うん、それは良かった!」
父のこの手放しの喜びようにイリューリアは少し驚いたが、少し良かったとも思った。
「ま、まぁ、よかった。私、ひょっとして、こんな夜更けに、ほんの少しの時間とはいえ男の方を自室に招き入れてしまうなんて…お父様に怒られてしまうのではないかと心配してしまいましたわ」ほっと息をつきながらイリューリアが言うと父は笑った。
「はははっ、まぁ、それは、そうだな。いや、でもルーク殿は特別だ!剣も楯もきかぬ相手からもルーク殿ならきっとお前を守って下さる!」
「まぁ、お父様、私もそう思いますわ!」とイリューリアは、父に駆け寄りハグした。
「おお?うれしいな、どうした?イリューリアの方からこの父に抱き着いてくれるなど、小さい頃以来ではないか?」
「うふふ、ルーク様に言われましたの。朝晩、お父上にハグしてさしあげるようにと」
「なんと!そんな事を!」
「家にいる時はできるだけお父様と一緒にいるようにもおっしゃってましたわ!」
「そうか!そうか!」とカルムは破顔した。
(なんとっ!良い男ではないかぁ~っっ!うむ!うむ!)
(やはり…イリューリアの婿にはルーク殿以外、考えられんな!)と密かに思うカルムだった。
ルークとしては、マルガリータの夫であるカルムにも纏わりついていたマルガリータの呪いをカルムの頭や肩を励ますふりや、糸屑をとるふりをしてポンポンはたいて払ったものの、マルガリータが日々、黒魔石に祈っているのならこまめに祓わないととダメだろうな?と考えた故の事だった。
そして月の石を持たせたイリューリアが父に降れる事で呪いを祓う効果があるからそう言っただけに過ぎなかったが…。
思いがけず年頃の我が娘にハグしてもらえるという幸せに恵まれた父カルムは浮かれまくっていた。
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