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四の巻~平成美女は平安(ぽい?)世界で~
89.定近の心情 By定近
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儂の耳が耄碌したのでなければ、亜里沙殿は、儂の事が嫌いではないらしい。
その口調や表情をみても嘘だとは思えない感じだ。
これがもしも、嘘なら大した悪女で詐欺師なのだが、この数日扶久姫に誠実に使える亜里沙殿をみても、彼女が清廉潔白で主思いの賢くも優しい(しかも料理上手の気配り上手)女性なのは間違いないと思う。
自分は他者から、この見た目故に侮られてきたからこそ、人の本質や考えを読むことに長けている…と自負している。
彼女が主人である扶久姫を見るまなざしはまるで親や姉のように慈しみがこもっていて見ていてとても微笑ましい。
今だって主人が所望という松茸を危険な山の中、愚痴ひとつ言うでなく一心不乱に松茸を採っている。
普通、貴族に使える侍女などは、それなりの家柄をもち気位も高く山でキノコ狩りなど下女にでも命じて採ってこさせるのが普通だ。
今、この屋敷には下女はいないが惟信にでも頼めばよいものを自ら…。
そんな所もとても好印象だった。
何よりもう隠居の身であり隠棲同然の暮らしをしている儂に対しても一目置いた上で、非常に人懐っこい笑顔を向けてくる。
本人は自分は醜女などというが、内から溢れるような輝きを自分では全く感じていないらしい。
たしかに宮中で美女とはやしたてられるような見た目ではないかもしれない。
色白で若干ぽっちゃり目がもてはやされる貴族間の流行り?とは違うかもしれないが…。
華奢でも健康そうではつらつとしている亜里沙殿は儂から見たら充分すぎるほどに魅力的だと思う。
短いとは言え髪は艶やかで光沢があり、これだけでも美女といっても差し支えないのではないかとさえ思う。(髪の美しさは重要だと乳母から聞いたことがあるのだ)
ただ、いつも一緒にいる扶久姫があまりにも貴族たちの思う美女に当てはまりすぎるから、それと比べると…と言ったところではないだろうか?
瞳には知性の輝きを感じるし、実際にその賢さは惟信や義鷹からも聞き及んでいる。
そして、屈託のない笑顔!この破壊力は凄まじい!
身内以外からそんな笑顔を向けられたことなどついぞなかった儂からしたらもうそれだけで、夢見心地なのだ。
正直、あまりにも好意的な言葉の数々にも胸が跳ね上がるような思いがした。
儂は、浅ましくも大きな期待を込めて聞いてみた。
「その…真だろうか?」
「は?」と聞き替えず亜里沙殿…くぅっ!その顔も可愛いぞ!
「儂のことを醜いとは思っていないというのは…」
そう、それが真実なら、儂は…儂は、亜里沙殿に伝えたい…。
「当たり前です!醜いどころか尊敬申し上げております」
とたんに、自分の思いを伝えたいと思う気持ちは期待に満ちたわずかながらの自信は失墜した。
それはもう急降下だ。
『尊敬』
尊び敬うと書いて『尊敬』
そうか…尊敬…か。
あくまでも義鷹の祖父としての自分を敬ってくれるのだなと、膨らんだ期待は一気にしぼんだ。
危うく妻乞いなどしそうになった自分に呆れた。
良かった…言わなくて。
どちらにしても嫌われていないのは幸せなことだ。
そう自分に言い聞かせた。
そして冷静になった頭で考える。
亜里沙殿にとっては、もしかしたら自分は『おっさん』を通り越して『おじいちゃん』といってもいい位の感じなのかもしれない。
実際は義鷹の父、園近の従兄であり、年も祖父という年齢ではないにせよ家督を譲るために園近を養子とした事で義鷹は孫となり義鷹も儂を『お祖父様』と呼んでいる。
扶久姫はもちろんの事、亜里沙殿とて儂を『義鷹の祖父』として見ているのだろう。
そう思うと今までの亜里沙の親しみの籠った眼差しにもようやく説明がついたような気すらした。
扶久姫は間違いなく義鷹の祖父、身内としての親愛の情をもって接してくれている。
亜里沙殿もそんな主人の思いと連動しての事なのだろうな…。
しかも、自分はおっさんである。
二十も年が違うのだ。
貴族社会では珍しくもないとは言え、自分はもう家督も譲り渡した隠居の身、貴族としての身分は低くはないが、実権もとうに手放した自分に嫁いだところで亜里沙殿のなんの得にもならないじゃないか…。
そんな考えが頭に浮かび、一瞬、浮かれて頭に上った血が下がってきた。
そして気づくと亜里沙殿の決して小さくはない竹の籠にはみっちりぎっちりと松茸がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
そして…『あ…いかん』
手伝うつもりが、一人で採らせてしまったと後悔した。
***
(義鷹と扶久子もそうであったが、亜里沙と定近もたいがい似た者同士であった)
その口調や表情をみても嘘だとは思えない感じだ。
これがもしも、嘘なら大した悪女で詐欺師なのだが、この数日扶久姫に誠実に使える亜里沙殿をみても、彼女が清廉潔白で主思いの賢くも優しい(しかも料理上手の気配り上手)女性なのは間違いないと思う。
自分は他者から、この見た目故に侮られてきたからこそ、人の本質や考えを読むことに長けている…と自負している。
彼女が主人である扶久姫を見るまなざしはまるで親や姉のように慈しみがこもっていて見ていてとても微笑ましい。
今だって主人が所望という松茸を危険な山の中、愚痴ひとつ言うでなく一心不乱に松茸を採っている。
普通、貴族に使える侍女などは、それなりの家柄をもち気位も高く山でキノコ狩りなど下女にでも命じて採ってこさせるのが普通だ。
今、この屋敷には下女はいないが惟信にでも頼めばよいものを自ら…。
そんな所もとても好印象だった。
何よりもう隠居の身であり隠棲同然の暮らしをしている儂に対しても一目置いた上で、非常に人懐っこい笑顔を向けてくる。
本人は自分は醜女などというが、内から溢れるような輝きを自分では全く感じていないらしい。
たしかに宮中で美女とはやしたてられるような見た目ではないかもしれない。
色白で若干ぽっちゃり目がもてはやされる貴族間の流行り?とは違うかもしれないが…。
華奢でも健康そうではつらつとしている亜里沙殿は儂から見たら充分すぎるほどに魅力的だと思う。
短いとは言え髪は艶やかで光沢があり、これだけでも美女といっても差し支えないのではないかとさえ思う。(髪の美しさは重要だと乳母から聞いたことがあるのだ)
ただ、いつも一緒にいる扶久姫があまりにも貴族たちの思う美女に当てはまりすぎるから、それと比べると…と言ったところではないだろうか?
瞳には知性の輝きを感じるし、実際にその賢さは惟信や義鷹からも聞き及んでいる。
そして、屈託のない笑顔!この破壊力は凄まじい!
身内以外からそんな笑顔を向けられたことなどついぞなかった儂からしたらもうそれだけで、夢見心地なのだ。
正直、あまりにも好意的な言葉の数々にも胸が跳ね上がるような思いがした。
儂は、浅ましくも大きな期待を込めて聞いてみた。
「その…真だろうか?」
「は?」と聞き替えず亜里沙殿…くぅっ!その顔も可愛いぞ!
「儂のことを醜いとは思っていないというのは…」
そう、それが真実なら、儂は…儂は、亜里沙殿に伝えたい…。
「当たり前です!醜いどころか尊敬申し上げております」
とたんに、自分の思いを伝えたいと思う気持ちは期待に満ちたわずかながらの自信は失墜した。
それはもう急降下だ。
『尊敬』
尊び敬うと書いて『尊敬』
そうか…尊敬…か。
あくまでも義鷹の祖父としての自分を敬ってくれるのだなと、膨らんだ期待は一気にしぼんだ。
危うく妻乞いなどしそうになった自分に呆れた。
良かった…言わなくて。
どちらにしても嫌われていないのは幸せなことだ。
そう自分に言い聞かせた。
そして冷静になった頭で考える。
亜里沙殿にとっては、もしかしたら自分は『おっさん』を通り越して『おじいちゃん』といってもいい位の感じなのかもしれない。
実際は義鷹の父、園近の従兄であり、年も祖父という年齢ではないにせよ家督を譲るために園近を養子とした事で義鷹は孫となり義鷹も儂を『お祖父様』と呼んでいる。
扶久姫はもちろんの事、亜里沙殿とて儂を『義鷹の祖父』として見ているのだろう。
そう思うと今までの亜里沙の親しみの籠った眼差しにもようやく説明がついたような気すらした。
扶久姫は間違いなく義鷹の祖父、身内としての親愛の情をもって接してくれている。
亜里沙殿もそんな主人の思いと連動しての事なのだろうな…。
しかも、自分はおっさんである。
二十も年が違うのだ。
貴族社会では珍しくもないとは言え、自分はもう家督も譲り渡した隠居の身、貴族としての身分は低くはないが、実権もとうに手放した自分に嫁いだところで亜里沙殿のなんの得にもならないじゃないか…。
そんな考えが頭に浮かび、一瞬、浮かれて頭に上った血が下がってきた。
そして気づくと亜里沙殿の決して小さくはない竹の籠にはみっちりぎっちりと松茸がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
そして…『あ…いかん』
手伝うつもりが、一人で採らせてしまったと後悔した。
***
(義鷹と扶久子もそうであったが、亜里沙と定近もたいがい似た者同士であった)
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