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四の巻~平成美女は平安(ぽい?)世界で~
81.滝に打たれながら…By定近
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儂(定近)は、隠れ屋からほど近い滝つぼに来て一人、汗を流していた。
亜里沙殿が持たせてくれた『ぼでぃそうぷ』という手作りの『せっけん』なるものを使ってみたが、驚くほど体がさっぱりとし、汚れも綺麗におちた。
もこもこと泡だつのが面白かった。
実に興味深い。
髭を剃るときにもこの泡をつけてから剃れば綺麗に肌も痛まず剃れるのだと言われたので試してみた。
そしてまたまた驚いた。
いつも無精髭を剃った後は肌がかさついた感じになってたのだが、つるつるすべすべになったのだ。
何だか若返った気分である。
亜里沙が用意してくれた着替えと手ぬぐいに目をやると丁寧に折りたたまれて、皺もきっちりとのばされていた。
風呂敷の包み方も丁寧で隅々まで気を使ってくれているのを感じた。
正直、殿上人だった頃でもこんなに細やかな心配りをされた事等皆無だった自分に取って亜里沙殿の心遣いに戸惑うばかりである。
自分を世話をする女房達も乳母や側近の一部の馴染みの者以外は、決して自分とは目をあわせようとしなかったし、城にあがっているときにも自分が文句を言わないのを良い事に(まぁ、言わない自分も悪いのだが)あからさまに雑に扱われていた。
殿上での行事で着なければいけない衣装を手渡された時もこれほど綺麗にたたまれてはいなかった。
そして何より嫌悪感の欠片も感じられないあの屈託のない笑顔。
見た目の美しさなら世間一般の基準(※平安的世界の基準)で言えば義鷹の嫁に遠く及ばないかもしれないが、あの優しい笑顔はまるで女神の如き神々しさだったと思う。
その笑顔を思い浮かべ一瞬、カッと体が熱くなるのを感じ、再び滝から打ち付ける大量の水を頭から浴びて、頭と体を冷やした。
自分は一瞬何を考えた?
あのように若い女性に。
懸想?いや、まさか!無い無い!
いやいやいや、儂はもう隠居の身だぞ!年の差だけじゃない。儂みたいな大きな醜いおっさんに懸想などされたら亜里沙殿が気の毒だ。
せっかく嫌われていないのだ。嫌われるような事だけはすまい!
少なくとも今現在は嫌われていない。
むしろ尊敬さえしてくれているような目を向けられて自分に対して、それはそれは丁寧に接してくれる。 それだけで何と嬉しく幸せなのか。
充分だ。
充分なのだ。
そう思うとじんわりと胸の内が温かくなった。
よもや夢ではあるまいな?そんな事を思うのだった。
そして、水浴びを終えて亜里沙殿の用意してくれた着替えに袖を通した儂は、幸せな心地で足取りも軽く屋敷に戻ったのだった。
亜里沙殿が持たせてくれた『ぼでぃそうぷ』という手作りの『せっけん』なるものを使ってみたが、驚くほど体がさっぱりとし、汚れも綺麗におちた。
もこもこと泡だつのが面白かった。
実に興味深い。
髭を剃るときにもこの泡をつけてから剃れば綺麗に肌も痛まず剃れるのだと言われたので試してみた。
そしてまたまた驚いた。
いつも無精髭を剃った後は肌がかさついた感じになってたのだが、つるつるすべすべになったのだ。
何だか若返った気分である。
亜里沙が用意してくれた着替えと手ぬぐいに目をやると丁寧に折りたたまれて、皺もきっちりとのばされていた。
風呂敷の包み方も丁寧で隅々まで気を使ってくれているのを感じた。
正直、殿上人だった頃でもこんなに細やかな心配りをされた事等皆無だった自分に取って亜里沙殿の心遣いに戸惑うばかりである。
自分を世話をする女房達も乳母や側近の一部の馴染みの者以外は、決して自分とは目をあわせようとしなかったし、城にあがっているときにも自分が文句を言わないのを良い事に(まぁ、言わない自分も悪いのだが)あからさまに雑に扱われていた。
殿上での行事で着なければいけない衣装を手渡された時もこれほど綺麗にたたまれてはいなかった。
そして何より嫌悪感の欠片も感じられないあの屈託のない笑顔。
見た目の美しさなら世間一般の基準(※平安的世界の基準)で言えば義鷹の嫁に遠く及ばないかもしれないが、あの優しい笑顔はまるで女神の如き神々しさだったと思う。
その笑顔を思い浮かべ一瞬、カッと体が熱くなるのを感じ、再び滝から打ち付ける大量の水を頭から浴びて、頭と体を冷やした。
自分は一瞬何を考えた?
あのように若い女性に。
懸想?いや、まさか!無い無い!
いやいやいや、儂はもう隠居の身だぞ!年の差だけじゃない。儂みたいな大きな醜いおっさんに懸想などされたら亜里沙殿が気の毒だ。
せっかく嫌われていないのだ。嫌われるような事だけはすまい!
少なくとも今現在は嫌われていない。
むしろ尊敬さえしてくれているような目を向けられて自分に対して、それはそれは丁寧に接してくれる。 それだけで何と嬉しく幸せなのか。
充分だ。
充分なのだ。
そう思うとじんわりと胸の内が温かくなった。
よもや夢ではあるまいな?そんな事を思うのだった。
そして、水浴びを終えて亜里沙殿の用意してくれた着替えに袖を通した儂は、幸せな心地で足取りも軽く屋敷に戻ったのだった。
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