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参の巻~平安美女と平成美男の恋話~

㊾行く末を見守り隊~By芙蓉

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 昨晩、義鷹むすこが、私の…いえ、正確には私に仕える楓と紅葉を訪ねてきたのには驚いた。

 その夜は、夫である園近様も我が部屋に来ていた。
 亜里沙殿にほのめかされ義鷹と扶久姫の様子を窺ってきた後の事である。

 そして、事もあろうか『凛麗の君の乱入』という信じられないような話を聞いた。
 殿上人とも思えぬ凛麗の君の暴挙に呆れるやら腹が立つやら…。

 私は怒りで卒倒しそうになったが、夫から扶久姫の誠実な義鷹への偽りのない愛情あふれた言葉の数々の話を聞き涙ながらに喜んだのだ。
 それなのに…。

 扶久姫との逢瀬は?今日は婚姻の三日夜のうちの二夜目ではなかったかと…。

 あの凛麗の君をけんもほろろに、袖にして義鷹の事だけが好きなのだと言いきった姫の気持ちを疑うべくもなかったが、今頃、仲睦まじくしていると思っていなのに一体どうしたのかと気をもんだ。

 聞けば、月のものが来てしまい、亜里沙殿が付き添い休んでいるとの事。
 それで薬湯を分けてほしいと言ってきたのだ。
 話によると予定の日にちより随分早く月のものが来てしまったらしく、お腹の痛みを伴って顔色も酷く悪いという。
 すぐにも私も夫も見舞いに行きたかったが、それは義鷹に止められた。

「父上、母上、お気持ちは分かりますが、今日は、あの凛麗の君が入ってきたこともあり姫はとても、驚いて心を乱されてそれで体調を崩されたのだと思います。今宵はゆっくり休ませてあげたいのです」

 そう言って微笑む義鷹に私も夫も只々、見守ることしかできないと思った。
 
 具合の悪い姫に気を使わせるの可哀想だと言う息子の優しさを誇らしく思い、息子の言う事に従い私達ははやる心を押さえ昨晩は部屋に留まった。

 実際、そのような事に至り、さぞかし姫は恥ずかしく肩身の狭いお気持ちにおなりだろう。
 そこに舅や姑が押しかけては如何ばかりにお辛い思いをされるか分からない。
 これは自分達が浅慮だったと反省するばかりである。

 そう思う至り、我らが義鷹むすこの素晴らしきことよ。
 
 本当に良き大人に成ったものよと嬉しさが込み上げる。

 婚儀が伸びた事に不平のひとつも言わず、只々、姫君の身や気持ちを案じている。
 そんな人の気持ちの汲める息子が誇らしい。

 見た目のせいでこれまで不遇であったが、そんなものを物ともせずに義鷹の心根を真っすぐに受け止め心から愛してくれるそんな姫が現れた。
 何と素晴らしき事か。

 そう、あの朱鷺羽ときは神社での落雷…人々の間ではあれこそが天がかぐや姫を地上につかわしたご来光では?とさえ噂されている。
 
 まさにあの姫は…あの子の為に使わされた天の神の恵みの姫ではなかろうか?

 誠実で優しくそのくせこれまで幸薄かった義鷹へ天が哀れと思召して使わして下さった天女ではなかろうかと私は半ば本気でそう思っていた。
 現実主義な夫ですらそう感じているようだ。
 
 さもありなん!あの姫の愛らしさ!可愛らしさ!もう私とて夢中ですもの。
 義鷹と結婚すれば、私の義娘となるのですから、何と素晴らしき事でしょう。

 楓や紅葉もあの姫君ならばと、諸手をあげて喜んでいる。
 さもありなん!さもありなん!

「あの姫様なれば若様もお幸せになれましょう!」楓がそう言うと紅葉もうっとりとした様子で言の葉を繋げる。
「ほんに!間違いございませぬ!あの姫の若様を見る穏やかで優しき眼差し!」
「ええ!ええ!あのお二人のご様子を見ればわかりますとも!お互いに想い合っていらっしゃるのは明らか!とても良きご夫婦になられましょう!」

「そ、そうよね?私もそう思っていてよ!」
 私も思わず満面の笑みでそう答える。

「「おめでとうございます」」
 まだ婚姻も成り立っていないのに二人がお祝いの言葉を告げてくる。

 婚儀が伸びたというのに右大臣家では一気におめでたい気運に満ちていた。
 少なくともここにいる私達は皆が二人の幸せを望み、見守りたいとねがっている。

 もちろん姫の体調は心配だったけれど。
 楓と紅葉の煎じるお薬湯は本当に良く効くのできっと姫にも良くきくであろうと義鷹にお薬湯を持たせると義鷹は満面の笑みでそれを姫の元に持っていった。

 いと、いとしきかないとしきかな。
 

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