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参の巻~平安美女と平成美男の恋話~

㊸息子の結婚~By園近(参)

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 私は、その夜、扶久子殿が義鷹を迎えると言う部屋の隣の部屋から密かに息を殺していた。
 亜里沙殿の指示でだ。
 天下の右大臣家当主の私が、まさかたかが姫付きの女房ごときに指示を出されるなぞ思いつきもしなんだが…。
 まぁ、この際そんなことはどうでも良い。ここから先の事が肝心なのだ。

 芙蓉もまた来たがったが、それは流石に私も亜里沙殿も反対した。
 いくら何でも芙蓉が動けば(十二単の)衣擦れの音だけでも人がいるのはバレバレだ。
 武芸を嗜んできた私のように気配を殺せる筈も無い。

 この部屋には亜里沙殿の用意したらしい即席の覗き窓があり(小さな小さな窪みから)中の隣の様子が窺えるようになったいた。

 いやしかし、冷静に考えると私は一体全体何をやっているんだか…。

 これは所謂、「覗き」というやつではないか?
 体よく亜里沙殿にのせられたとはいえ何とも情けない…ご先祖様には見せられぬ姿よ。とほほ。

 …とは言え、ここまで来ては引き下がれぬ。

 そう思っていた矢先である。
 何やら春一番の風が吹いたのか、突風が扶久子殿の部屋の御簾を跳ね上げた。
 小さな悲鳴と共に桜の花びらが散り、私がいる事もあずかり知らぬ扶久子殿は顔を隠すこともなく、舞い散る桜の花びらを手に取り微笑んだ。

 何と!私は初めて息子の想い人の素顔を見たのだ。

 驚きに思わず声が出そうになるのをかろうじて抑えた。

 それは、まるで夢の国の女性かと思われた。
 
 美しき我が妻ですら叶わぬ程の美しさ。
 可憐であどけなく清らかな…。
 髪は哀れなほどに(と、言っても背中にかかる程度には伸びているのだが)短いのにも関わらずその美しさは損なわれることがなく清楚で艶やかだ。

 ごくり…と息を飲む。
 まさか、この世にこれほどの方がおられるとは…。

 まさに『かぐや姫』と呼ばれるのも頷ける。
 正に月の国の姫君かの如き美しさに私は呆けてしまった。

 その時、亜里沙殿はてきぱきと風にあおられバタバタと暴れる御簾をたたみ込み、芙久子殿の元に義鷹を招き入れた。

 何と!和歌を詠む事もなく、招き入れるとは…。
 既にそんなにも心安き間柄だと思って良いのだろうか?

 そして、私は見た。
 見てしまった。
 扶久子殿の恥じらうような…それでいて嬉しそうな…うっすらと頬を染め義鷹を見つめるその表情かおを…。

 まさしくこれこそ芙蓉らの言っていた『恋する乙女』の表情そのものだった。
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