上 下
30 / 107
参の巻~平安美女と平成美男の恋話~

㉚亜里沙の正体 (壱) By亜里沙

しおりを挟む
 神様が本当にいて、何かしらのお考えがあってこの世界や他の世界、この世のすべてを治めていると言うのなら正直『何、考えてんのよ?』と問うてみたい。
 いや、相手は神様なのだから『何、考えてらっしゃるんですか?』だろうか。うん。

 じつは、私のこの『タイムスリップ』は二回目だ。
 今回は時代を遡り平安の時代へ来てしまったが、私はわずか三歳の頃に、自分が平安時代に生きた人間であった事を悟った。

 え?そんな小さい頃の記憶が何であるのかって?
 聞いて驚け!
 私には何と3歳からの記憶どころか今の私に至る前の記憶まであるのだ!

 私が前世の記憶を呼び覚ましたのは忘れもしない、芙久子との出会いだった!
 三歳の頃、初めてお隣の芙久子とご対面したときに私は強い衝撃を受けたのだ!
 それはもう、頭の中にピシャーンと雷が落ちた如く!
『私は、このを私は知っている!』と!


 ちなみに、0~2歳までの記憶はあまりない。
 まあ、ミルクを飲んじゃ寝るの繰り返しだったせいだろうか?

 私の一回目のソレ(タイムスリップもどき)は、『タイムスリップ』と言うよりは『』というものだっただろう。
 そう、それが正しい。


 ***


 前世…私は、私は宮中で女東宮にょとうぐうに仕える尚侍ないしのかみというお役を賜っていた。
 女東宮にょとうぐうとは、女性でありながら次の帝になるご予定の御方おかたである。
 当時の帝になかなか男子が誕生せず、帝のお血を唯一ひいておられた姫が男子誕生までの間に着かれていたのだ。
 私は、そんな女東宮様の家庭教師兼、お世話係…もしくはお話相手と、言ったところだった。

 私が前世で命尽きたのは女東宮をお守りしての事だった。
 女ながらに東宮に立たれた姫はいつもお寂しそうにしておられた。
 帝に男御子が誕生されるまで婚姻すらもままならず、その身分の高さ故、気軽に外に出る事すらままならなかった孤独なあの御方は、それでも周りを妬む事もなくどこまでもお優しかった。
 ご自分の側近たちに良縁があれば宿下がりをさせる事も厭わず心から祝福をされていた。

 ご自分は、そのお立場から恋人を作ることすら叶わないのにである。

 気づけば昔からの側近は私一人だけになっていた。
 女東宮はそんな私の事まで心配して下さり「望む御方があらば自分が何とかとりなそう。
 どうか、私の分まで幸せになっておくれ」といつもおっしゃられていた。
 そんな女東宮を私は尊敬し崇拝もしていた。
 そのお姿は心根に等しく真に天女と見紛うお姿だった。

 むろん、私は、そんなお気遣いは無用だと御伝えした。 
 私は心から女東宮をお慕いしていた。
 未来永劫、この御方に仕えたいと心底願っていたのだ。

 私が齢三十を過ぎようかという頃、姫君も二十歳におなりだった。

 その年、帝の宣旨があった。
 帝の弟君に男御子がお生まれになり、女の東宮では心もとないという重鎮たちの声もあり、女東宮はそのお立場から降ろされ東宮から一の皇女のお立場に戻されたのだった。
 重鎮たちの推挙により帝の甥御様が東宮に立てられたのだ。

 なんと勝手な事をと私は憤った。
 普通なら十四や十五で婿を取るのが普通の貴族社会で二十歳はすっかり『行き遅れ』の年齢だった。

 どうせ、東宮を下ろさせるならばもっと早くにしてくれれば!十年…せめて五年早くにしてくれれば、姫様ももっと自由を楽しんだり恋することもできたろうに!
 夢か幻かと思えるほどに美しい姫様を望む公逹は数多くいたが、姫様に釣り合う高位貴族には既に正妻や側室がいて、争いの火種になりたくはないと心優しき姫君は数多ある求婚を退け、何と二十歳という若さで尼となり仏門に入られた。

 無論、私も姫様に付き従い一緒に仏門に入った。
 姫様は私が無理をしているのではと随分と気にされていたが、姫様と共にある事こそが私の幸せだった!

 私は生まれつき不器量ブスで、産みの親…特に母から疎まれていた。
 そんな中でも幸い私は女ながらに学問好きで学者だった父に習い精進することができた。
 自分自身、鏡を見るより書物を読み漁る方が好ましかった。

 父は不器量な私に良い縁談よりも良い職を与えてくれた。
(父は私の顔が自分に似ていることを気にして下さって何かと母からかばってくれていた)
 それなりに身分も地位もあった学者の父は私をまだお小さかった女東宮の尚侍ないしのかみというお役に推挙してくれたのである。

 そして、初めてお会いした姫様は私の夢と憧れを全て集めて凝縮したような御方だった。
 白く滑らかな肌、涼やかな瞳。
 控えめなお鼻に、淡い桜色の薄い唇。
 露かな黒髪は豊かで、まるで美の化身だった!
 それなのに姫様は、ご自分が男御子でなかったばかりにちちぎみに申し訳ないと沈んでらした。

 ご自分の事よりまず周りの幸せを優先される。
 そんな御方だった。
 そんな姫様が、私にはお気の毒で仕方なかった。
 私のような醜女しこめにも優しく心からの信頼を寄せてくれた姫を私は一生!否!叶うものなら来世までもお守りしたいと数多の神々に祈り募ったものだ!

 そして、わたしのその執念とも思える(呪い?)は、

 それは、あの日、あの時!
 尼となり日々、平安の世の安寧を祈り、写経と読経の日々を送っていた私たちに、天命ともいえるあの閃光が私たちを包んだのた!

 そう、あの稲光!
 落雷である。

 うらららかな春の日、昼の日中に、いきなり空がかき曇り雷が建屋を襲ったのだ!
 突然の稲光にとっさに私は女東宮を庇い一緒にその閃光に身を包まれた。

 私は心の底から姫様だけはお守りせねばと強く強く、とても強く思い願った。

 そのせいだろうか、私は生まれ変わった?その瞬間からの記憶があるのだ。
 そこは、私の知る世界とは異なる世界だった。

 そう、そこは後に知る『平成の世』だったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

処理中です...