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参の巻~平安美女と平成美男の恋話~

⑭この世界で生きる為に

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 無事に出会えた扶久子と亜里沙。
 亜里沙はまず、義鷹と義鷹の母君(芙蓉の方)に深々と頭を下げて扶久子を助けてくれた事のお礼を述べた。(※女優顔負けの名演技をかます亜里沙である)

「右大臣家の皆様におかれましては此の度、我が主人あるじ、芙久子姫をお助け頂き真にありがとうございます。何分浮世離れしたの事、いずれの悪党どもに捕まってはおらぬかと肝を冷やしつつ探し続けておりました」と、亜里沙はその下女の身なりには不釣り合いな堂々とした態度で言った。

 今の下女のような姿があくまでも仮の姿で実は名のある家中の教養のある側使えであると思わせるようないい様で…である。
(※勿論、扶久子が箱入りのやんごとなきだという事もあからさまになのも織り込み済みな口上である)

「まぁ…何と!やはり姫君はよほどの大家の姫君だったのですね?何か曰くありげと思い聞くのも憚れましたが…最初に二百名もの供の者がいたというのに今は其方一人と言うのは余程辛い旅だったのでしょうね?」

「まぁ、我が姫はそのような事まで芙蓉の方様に申し上げましたか?余程、姫は若様やお方様をご信頼されたのでしょう?この旅の最中、すっかり人間不信になられておりましたのに…よよよ」と嘘泣きをする亜里沙に驚き扶久子は一体何が始まったのだ?と思いつつ扇で口元を隠しつつ凝視した。

』の始まりだった。

(人間不信テ誰ノ話ソレ?)と、思う扶久子である。
(※実際は人間不信どころか芙久子と来たら亜里沙の心配どおり、警戒心も何も初対面の義鷹にほいほい付いてい程の警戒心皆無のぽやっとしたうっかりさんである。義鷹が悪者だったら今頃芙久子は大変な目にあっていた筈だ!)

「まぁ、やはり深い訳がおありだったのですね?私達で何か力にはなれませんか?」
 義鷹の母芙蓉の方がそう言うと息子の義鷹も亜里沙に言葉をかけてきた。

「良ければ話してみないか?私も力になろう」

「勿体なく…詳細は…申し上げられませんが…実は…姫様は義理の母君から命を狙われ、元城主であったお祖父様によって助けられ、床に伏している父君の平癒祈願を名目に国元を旅だったのでございます」

「「なんと!命を!」」
 これには義鷹も芙蓉の方も驚き声をあげた。

「はい…家の恥にもなる事ゆえ、姫君はその名を捨て京におります祖父方の親戚筋を頼って参りましたが、尋ねたお方は流行り病でなくなられていたらしく挙句に一家離散されていて行き方しれず…途方に暮れる中、あの神社にたどり着き、健気にも姫様はご自分を助けてもくれなかったお父上の平癒祈願がしたいと申されて…路銀もわずかばかりでしたが、最後にお父上だけでも健やかになってほしいと…最後までとっておきました姫様の元の着物に着替え、本来の姿であの朱鷺羽神社でお参りしていたのでございます」

「なんと!では、芙久子姫の名乗られた”大多”という家名は?」

「それは、”仮の姓”でございまする。申し訳ありません」

「詫びる必要など無用!それで合点がいった。どおりで聞き及びがないと…いや、遠い讃岐の国の大家のお名前を全て知る訳ではないが…。命まで狙われて髪まで切って男姿にまでなられていたとの事、姿だけではなく名を変えるのも当然なこと!」

「しかし、路銀もつきかけておられたのに、その後一体どうされるおつもりだったのですか?まさか!」

「はい…。死を覚悟した姫様は自分の命を捧げるから、せめてお父上の病気を治してほしいと祈願され…よよよ…私も平癒祈願の後、姫様のお供をしてこの世を後にしようと覚悟していたところでございました」とまぁ、扶久子が呆気に取られるような嘘八百を『お涙頂戴ばり』にノリノリで語った。
 嘘泣きでも本当に涙を出せる亜里沙は本当にすごい。

 扶久子は亜里沙の名(迷?)演技に正直ちょっと引いた!いや、訂正!きだった。
(うわぁ~、嘘くさい~!死のうなんて一ミクロンも考えてなかったしあり得ないし~そんなん誰が信じるの?)と扶久子は焦ったが、その話を聞いた義鷹や母上様、女房達の方を振り返ってもっと驚いた。

『なっ!泣いてる~っ!?なんでっ?嘘っ!今の信じる?』と扶久子は心の中で叫んだ!

「「なんと、おいたわしい!」」と、義鷹さまと母上様は泣いている。流石、親子だ!泣き顔が似ている!さらに振り返ると、「「なんと健気な…」」と、女房達も号泣である。
(まじかっ!あ、鼻水たれてる)…と、扶久子は呆れながらも右大臣家の面々のお人好しさ加減に感心さえしてしまった。

「姫君!亜里沙殿。ご心配召さるな!この義鷹、命に代えてもお二人の事はお守り申します!」
「よくぞ言いました!それでこそ私の息子!この右大臣家の跡取りです!姫も亜里沙殿も此処を我が家と思召していつまでもいらっしゃってくださいな!」

 そして最後に亜里沙は用心深くこう言った。

「有り難きお言葉…。姫君も私も命を救われ再び生きる気力を得た思いにございます。何分、国元よりこの京へとまかりこした身、決して卑しき身分ではない姫君ですが家の名も捨て国元を出た身。姫がここに居る事もできれば伏せて頂きたくお願い申しあげます」

 暗に、姫君の氏素性を調べたり触れ回して国元に知られるとまた命狙われるかもしれないから『しないでにしてね』と釘を指した亜里沙であった。

 さすが亜里沙だと扶久子は唯々、感心したのだった。
 そうして、なんとか、衣食住を確保できた二人だった。

 ほとんど詐欺じゃん?と思わなくもない扶久子だったが、携帯もなければ車も飛行機も便利な家電製品もないこの平安世界で少女二人が誰の保護も受けずに生きていける筈もなく、亜里沙プロデュースよろしく『設定』を受け入れるほか無く流されるがままの扶久子だった。

 一方、亜里沙はと言えば、何気にこの状況を楽しんでいるふしさえあるのが実にたくましいやら恐ろしいやらである。

 幼馴染で親友の亜里沙の底知れない程の豪胆っぷりに畏怖なる感情さえ抱きつつも頼りにしまくる扶久子だった。

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