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【第四章:エデン第三区画/旧総合医療技術研究施設棟】

【第42話】

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『お前の方から私を呼ぶとは……どうしたと言うのだ我が娘よ?』
 ゴソウカン全体に共鳴するようにどこからともなく響く声でサン博士の直談判に応じるミクラ・ブレイン。
「どうしたもこうしたも無いわよ!! なぜこんな恐ろしい物を実用化させてしまったの!? しかもこんなにたくさんの子供まで既に量産可能にまでしてどうするつもりだったの……?」
『私はミクラ・フトウの頭脳を完全コピーした物であり、チンゲンとも良き友であったが故にお前の言わんとする事は分からないでもない。
 だが……これは人間と言う不完全な生物を救済するにはどうしても欠かせない必要悪とでも言うべき実用化されなばならない技術なのだ』
「必要悪……?」
『うむ、世界的に有名な児童文学『鏡の国のアリス』のキャラクターの台詞で有名な『赤の女王仮説』。
 これは生存競争下にある生物種が行き載るためには常に持続的な進化をしなくてはならないと言う概念だが、ホモ・サピエンスの種としての進化に必要とされるのは神の気まぐれで生まれる『天才』。
 だがそのような天才的頭脳を持つ人間が生まれたとしてもその生物個体としての活動可能期間はどうあがいても40年~50年。
 しかもその優れた遺伝形質や能カが次世代に継承され、人類の継続的発展に寄与するかはゼロに限りなく近い確率と言っても差し支えないレベルの確立でしかない。
 かの大天才ミクラ・フトウの遺伝子を奇跡的に引き継いだ者としてそこまでは分かるな、娘よ?』
「ええ、分かるわ」
『エデン建造当初、世界の多くの国家が直面していた体制維持に必要な人口減少問題と国家の発展に欠かせない優秀な頭脳人材確保と言う為政者からの依頼を解決する手段の1つとしてミクラ・フトウはチンゲンと共にこのニンジンカの原型となる技術……いわゆる試験管ベビーの実用化に向けた研究を進めた。
 だが、それは悪用されずとも生命倫理と人間の尊厳に関わる大問題となり、議論を巻き起こすのは必須。
 それがエデンの存続と信用に甚大な影響を及ぶ事は不可避と判断した2人はその基礎技術を世に公表することなく全ての研究データを破棄し資料は焼却。
 かくしてエデンは人類の繁栄のためにアンドロイド技術及び人工知能技術に注力する方向に舵を切った』

 エージェント・サンの直談判に対し児童文学を引き合いに出しつつ生命の宿命たる死を語り、さらにはエデン史へと話を論理的に切り替えて行くミクラ・ブレインの言葉に一介のソルジャーでしかないマツモトはけむにまかれそうになりつつも気を保つ。

『我が娘……いや、敢えてこの場では呼び方を変えよう。
 サン・フトウよ、我はその共同研究で副次的に見出された電脳化技術でミクラ・フトウの天才的頭脳を完全複製する事でこの世界に作り出された人工知能。
 それ故にそなたら人間とは相容れぬ思考と倫理価値観を持つのは分かっているであろう?
 同意は求めぬが我が考える人類に対する究極の救済とは『死』 を完全に乗り越える事であると考えている。
 もしそなたが年老いて肉体の死を迎える前にその天才的頭脳を電脳化と言う形で完全バックアップし、その肉体の遺伝情報を元にこのニンジンカで作成しておいた予備肉体にインストールできるとすれば?
 もし生物学的な老化と死をもたらすDNAや細胞の損傷そのものをを医学的に補修できる技術を確立させることが出来るようになれば……どう思うかな?』
「ふふっ、懐かしいわねその喋り方……人工知能のコピーとは言え生前の父にそっくりだわ。
 ねえ、サリー……10年前、ミクラ・ブレインがアンドロイド戦争を引き起こしたのはこれが原因なのかしら?」
『はい?』
 ミクラ・ブレインとサン博士の問答の最中、いきなり問いかけられたガイドアンドロイドのサリーは戸惑いの表情を浮かべる。

【MMS 第43話に続く】
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