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本編

470.またも貴石の迷宮7

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《このくらいあれば、何かあっても問題ないわね》

 緑色の小さな蝶は、あれから時間を掛けて何とか追加で十匹ほど見つけたところで、フィートは満足してくれたようだ。

「……思ったよりも擬態が凄くて見つけるのが難しかったな~」
「「むずかしかったね~」」
《たおすのはかんたーん》
「そうだな。指で突くだけで倒せるもんな~」

 グラスバタフライは攻撃力、防御力がほとんどない魔物だが、ただひたすらに見つからない。
 まあ、だからといって無害ってわけではなく、血を好む魔物らしい。

《この迷宮は面白いわね~。とても綺麗なものが多くて嬉しいわ~》
《わたしもそう思うの! 綺麗なのいっぱいで素敵なの!》
「つぎはあかいろだね!」
《そうね。緑よりも赤い蝶のほうが可愛いと思うから、頑張って探しましょうね》
「うん!」
《頑張るの!》

 これから今いる階層の攻略を始めるところだが、女の子組は既に次の階層に気持ちが行っている。

「……とりあえず、先に進もうか」
「あ、そうだったね」
《あらあら、そうね》
《早かったの!》

 僕が少し先走っていると伝えると、女の子組はてへっ……と揃って首を傾げた。
 これがあざと可愛いってやつだろうか?

「「いこーう!」」
《いこ~!》

 気を取り直して、僕達は改めて二十三階層の攻略を開始することにした。
 とはいっても、グラスバタフライを探しつつも先に進んでいたため、まったく手つかずと言うわけではない。

「「あっ!」」

 開始早々、アレンとエレナが何かに気がつき、駆け出していく。

「「てい!」」

 走る流れのまま飛び蹴りでも繰り出すとかと思いきや、木の前で立ち止まると屈んで何かを突いていた。

「グラスバタフライがいた~」
「二ひきもいたよ~」

 ……蝶のガラス細工が追加されたようだ。

「だいぶ遠かったけど、よくグラスバタフライが見えたな~」
「「なれたー?」」
「……いやいや、あの擬態に慣れるのは、難しいと思うぞ」
「「そうかな~?」」

 アレンとエレナは首を傾げているが、何メートルも先にある同系色の背景に紛れたコインサイズのものを見つけるのは、かなり難しいと思う。

《てい!》
「ラジアン!?」
《グラスバタフライみつけた~》
「…………この階層でのグラスバタフライ狩りは終わったはずなのに、ガラス細工が増えていくのは何でなんだろうな~?」

 近場でラジアンがグラスバタフライを仕留め、これで蝶のガラス細工は全部で三つ追加された。

◇ ◇ ◇

《さあ、次は赤のグラスバタフライ探しよ!》
「フィート、フィート! おはなも!」
《あら、そうだったわね。ガラスのお花も集めるのを忘れないようにしないといけなかったわね》
「うん!」

 二十三階層をさっくり攻略して二十四階層に辿り着くと、フィート主導のグラスバタフライ探しが即座に開始されることになった。

《お~、フィート、張り切っているね~》
「かなり蝶のガラス細工が気に入ったみたいだな」
「どの種族でも女性のこだわりは、激しいものだな~」
「え、カイザー、凄くしみじみ言っているけど……何かの経験談?」
「…………昔、いろいろとな」

 カイザーは視線を逸らして表情を曇らせていたので、何か苦い思い出でもありそうだ。
 まあ、詳しくは聞かないほうが良さそうなので、そっとしておくことにした。

「さてと、僕達もグラスバタフライ探しに協力しないと怒られるから、そろそろ探し始めるか~」
《そうだね~。頑張ろうか~》
《では、ぼくはあちらのほうを見てきますね》
《オレはグラスバタフライ以外の魔物を倒してくるね~》
「では、我はあちらを見てこよう」

 女の子組、アレン、ラジアンはまず花集めをしているので、僕達はグラスバタフライを探し始める。

「おっと、いたいた」

 赤い木の幹に擬態しているグラスバタフライを見つけると、突いて倒してドロップアイテムに変える。グラスバタフライのドロップアイテムは、今のところガラス細工だけである。

「……本当に儚いな~」

 指で突いて倒せる魔物が、上級迷宮の二十階層を越えたところにいてもいいのだろうかと、本気で思ってしまう。

「「おにぃちゃん! おはな、あつめたよ~」」
「お、もう籠一杯に集めたのか」
「「うん!」」
「じゃあ、あとはさくさくグラスバタフライを見つけて、先に進もうか」
「「さくさくみつける!」」

 子供達は宣言通り、次々とグラスバタフライを見つけ出していく。

《兄ちゃん!》
「ベクトル、どうしたんだ?」

 予定数のガラス細工が集まった時、ベクトルが慌てたように駆け込んできた。

《見て! 見てみて!!》
「うわっ!」
「「おぉ~」」

 ベクトルが慌ててマジックリングから取り出したものを見て、僕と子供達は驚きの声を上げてしまう。

「……これもガラス細工か?」
《そうだよ! 凄いでしょう!》

 ベクトルが採り出したものは、今まで僕達が手に入れていたガラス細工の十倍はありそうな、僕の顔の大きさくらいあるガラス細工だった。

《うわ~、何これ。ずいぶんと大きいけど、これもグラスバタフライのドロップアイテム?》
《まあ、凄いわ~。大きいけれど、これはこれで綺麗ね》
《ベクトル、凄いです!》
《ベクトル、良くやったの!》
《ベクトルおにーちゃん、すご~い》
「これはまた稀有なものを手に入れたな~」

 僕達の驚く声を聞きつけて? いや、ベクトルが騒ぎながらこちらに駆け込んできたのを聞きつけて、ジュール達も集まって来てベクトルの取り出した戦利品を驚きながら眺めていた。

「別の魔物じゃなくて、グラスバタフライのドロップアイテムなのか?」
《そうだよ。倒したのは今まで見てきた小さいのだった! で、倒したら、これがドロップしたんだよ!》
「じゃあ、レアアイテム的なものかな?」

 枝葉の細工に蝶が止まっている感じの、完全に置物仕様である。

「……え、何? どうした?」

 凄いものが手に入ったな~……と置物を見ていると、アレンとエレナが何かを訴えるように見つめてきた。

「「……おみやげ」」
「あ、これをお土産にしたい? もちろん、いいよ」
「「もっとさがす」」
「ん? んん!?」
「え、もしかしなくても……これを複数個集めたいって言わないよね!?」
「「あつめる!」」

 確認する時に嫌な予感はしたが、子供達は既に心は決まっているかのような返答だった。

「えぇ!? いやいやいや、これは難しいんじゃないかな?」
「がんばる!」
「だめー?」
「……みんなもやる気みたいだな」

 しかも、ジュール達もわくわくしたような表情をしていたので、反対する理由も薄れてしまった。というわけで、僕達は徹底的にと言っていいほど、二十四階層を捜索して歩いたのだった。




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