267 / 307
書籍該当箇所こぼれ話
SS ある雨の日
しおりを挟む
シーリンの街に着いてしばらく経った頃のお話です。
**********
街での生活に慣れてきたある日。
朝起きて宿の部屋から外を眺めると、外はしとしとと雨が降っていた。
「あ~。今日は雨か……」
「「……うぅ~」」
天気を見て僕がそう呟くと、アレンとエレナがとてもわかりやすく落ち込んでいた。
何故かというと――昨日の晩、寝る前に「明日は街の外に行って遊ぼうか」と約束していたからだ。
アレンとエレナは、それをとても楽しみにしていたのだ。
「「うぅ~」」
僕が悪いわけではないが、ここまでガッカリした様子を見せられるとさすがに罪悪感が湧いてくる。
ん~……。
「……小降りだし、外套を羽織れば大丈夫かな?」
ちゃんと着込んでさえすれば、多少は濡れてもずぶ濡れになる心配はないだろう。
「どうする? 行く?」
「「いくー!」」
曇っていた表情を一転させ、アレンとエレナは笑顔で僕の足に抱きついてきた。
「よし! じゃあ、まずは朝ご飯を食べよう!」
「「うん!」」
他人がいるところではまだあまり感情を表に出さない二人だが、僕達だけの場所だと無邪気な様子を見せるようになってきた。
そんなアレンとエレナの様子に、頬を緩めながら朝ご飯を食べるために僕達は部屋を出た。
食堂で朝ご飯を済ませた僕達は、頭から外套をすっぽりと被って街の外――南の草原へとやって来た。
「「うきゃ~」」
街を出た途端、アレンとエレナはぴしゃぴしゃと水溜まりを踏みながら思いっきり走り出した。
「転ぶなよー」
「「はーい」」
走り回っていると思ったら、アレンとエレナは突然しゃがみこんだ。
ん? 何かを見つけたかな?
僕はしゃがんでいる二人のもとへ行き、上から覗き込んだ。
すると、そこにはカエルの姿が見えた。魔物ではない、手のひらよりも小さな普通のカエルだ。
「これはカエルだよ」
「「かえるー」」
アレンとエレナは飛び跳ねるカエルの動きが気に入ったようだ。
「ぴょんぴょん」
「けろけろー」
二人は飛んで移動するカエルの後を追って、飛び跳ねる真似しながら追いかけていく。
うんうん、こういう風にはしゃぐ姿を見ると、雨でもわざわざ遊びにきた甲斐があったってもんだ。
カエルを追い回した後は、二人の気の向くままにあちこちと移動し、興味を示したものを観察して歩いた。
「「おにーちゃん! あっちにいくー」」
「はいはい」
森の中を散策し、今度は街の近くの草原へ戻るようだ。
お、雨も止んできたな。
「ほら、アレン、エレナ。虹が出てるよ」
雲の隙間から太陽が顔を出すと、空に大きな虹が架かった。
僕はすぐにアレンとエレナに空を見るように声をかける。
「にじー、すごーい」
「にじー、きれー」
初めて見る虹にアレンとエレナは指をさしながら大はしゃぎしていた。
「「おにーちゃん、これもにじー?」」
「ん?」
下に……虹?
空を見上げていたはずなのアレンとエレナが、今度は地面を指さしていた。
「……え?」
二人の指す方へ目を向けると、七色の花弁の花――「彩虹花」が地面いっぱいに咲いていた。
彩虹花は雨が降った後、虹が出る瞬間に咲き、虹が消える瞬間に枯れてしまうという花だ。しかも咲く場所はランダム。何処に咲くのか全く予想ができない花なのだ。
発見条件が難しいため、当然レア素材だ。
「これは彩虹花。薬草だよ」
陽の光が当たり、花びらがキラキラと光っている。
これにお目に掛かれるなんて、とんでもなく幸運のはずだ。
「「やくそう!!」」
「アレン、とるー」
「エレナもとるー」
「え?」
薬草と聞くなり、アレンとエレナは彩虹花の採取をし始めた。
貴重な薬草だから採っておくことにこしたことはないが、今日は遊びに来たはずなんだけどなぁ……。
まあ、薬草採りも楽しそうにしているから、二人がそれでいいのなら……いいか? うん、いいことにしよう。
それじゃあ、僕も採ろうか。
「「あれー?」」
充分な量の花を摘んだ頃、虹が消えると同時に彩虹花は一瞬で枯れ果て、草原はもとの姿へと戻った。
「「なくなっちゃったー」」
「本当に何にもないな……」
摘み取った花はそのままの状態で残っているというのに、それ以外は枯れた残骸すら見当たらない。
摘んだ花を持っていなかったら、今まで見ていたのは幻だったんでは? と疑っていただろう。
「不思議だねー」
「「ねー」」
「今日は楽しかった?」
「「たのしかったー」」
最後の最後で素材採集となったが、アレンとエレナは充分に楽しんだようだった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「「うん」」
◇ ◇ ◇
「きゃーーー!!」
貴重な薬草である彩虹花を《無限収納》の肥やしにしておくのはもったいないかなぁ~と思い、少し売却しようとギルドに寄ることにした。
そこで、取りだした彩虹花を見たルーナさんが絶叫した。
しかも、叫びすぎて「げほげほっ」と咽せている。
「これ、彩虹花じゃないですかっ!? 凄い凄いっ!!」
「あ~……これを売却でお願いできますか?」
「喜んでー!!」
喜ぶんじゃないかなぁ~とは思っていたが、あまり多くない量であるのにもかかわらず予想以上の喜びようであった。
アレンとエレナはルーナさんの激しい反応に、若干怯えて僕の足に張りついていた……。
**********
街での生活に慣れてきたある日。
朝起きて宿の部屋から外を眺めると、外はしとしとと雨が降っていた。
「あ~。今日は雨か……」
「「……うぅ~」」
天気を見て僕がそう呟くと、アレンとエレナがとてもわかりやすく落ち込んでいた。
何故かというと――昨日の晩、寝る前に「明日は街の外に行って遊ぼうか」と約束していたからだ。
アレンとエレナは、それをとても楽しみにしていたのだ。
「「うぅ~」」
僕が悪いわけではないが、ここまでガッカリした様子を見せられるとさすがに罪悪感が湧いてくる。
ん~……。
「……小降りだし、外套を羽織れば大丈夫かな?」
ちゃんと着込んでさえすれば、多少は濡れてもずぶ濡れになる心配はないだろう。
「どうする? 行く?」
「「いくー!」」
曇っていた表情を一転させ、アレンとエレナは笑顔で僕の足に抱きついてきた。
「よし! じゃあ、まずは朝ご飯を食べよう!」
「「うん!」」
他人がいるところではまだあまり感情を表に出さない二人だが、僕達だけの場所だと無邪気な様子を見せるようになってきた。
そんなアレンとエレナの様子に、頬を緩めながら朝ご飯を食べるために僕達は部屋を出た。
食堂で朝ご飯を済ませた僕達は、頭から外套をすっぽりと被って街の外――南の草原へとやって来た。
「「うきゃ~」」
街を出た途端、アレンとエレナはぴしゃぴしゃと水溜まりを踏みながら思いっきり走り出した。
「転ぶなよー」
「「はーい」」
走り回っていると思ったら、アレンとエレナは突然しゃがみこんだ。
ん? 何かを見つけたかな?
僕はしゃがんでいる二人のもとへ行き、上から覗き込んだ。
すると、そこにはカエルの姿が見えた。魔物ではない、手のひらよりも小さな普通のカエルだ。
「これはカエルだよ」
「「かえるー」」
アレンとエレナは飛び跳ねるカエルの動きが気に入ったようだ。
「ぴょんぴょん」
「けろけろー」
二人は飛んで移動するカエルの後を追って、飛び跳ねる真似しながら追いかけていく。
うんうん、こういう風にはしゃぐ姿を見ると、雨でもわざわざ遊びにきた甲斐があったってもんだ。
カエルを追い回した後は、二人の気の向くままにあちこちと移動し、興味を示したものを観察して歩いた。
「「おにーちゃん! あっちにいくー」」
「はいはい」
森の中を散策し、今度は街の近くの草原へ戻るようだ。
お、雨も止んできたな。
「ほら、アレン、エレナ。虹が出てるよ」
雲の隙間から太陽が顔を出すと、空に大きな虹が架かった。
僕はすぐにアレンとエレナに空を見るように声をかける。
「にじー、すごーい」
「にじー、きれー」
初めて見る虹にアレンとエレナは指をさしながら大はしゃぎしていた。
「「おにーちゃん、これもにじー?」」
「ん?」
下に……虹?
空を見上げていたはずなのアレンとエレナが、今度は地面を指さしていた。
「……え?」
二人の指す方へ目を向けると、七色の花弁の花――「彩虹花」が地面いっぱいに咲いていた。
彩虹花は雨が降った後、虹が出る瞬間に咲き、虹が消える瞬間に枯れてしまうという花だ。しかも咲く場所はランダム。何処に咲くのか全く予想ができない花なのだ。
発見条件が難しいため、当然レア素材だ。
「これは彩虹花。薬草だよ」
陽の光が当たり、花びらがキラキラと光っている。
これにお目に掛かれるなんて、とんでもなく幸運のはずだ。
「「やくそう!!」」
「アレン、とるー」
「エレナもとるー」
「え?」
薬草と聞くなり、アレンとエレナは彩虹花の採取をし始めた。
貴重な薬草だから採っておくことにこしたことはないが、今日は遊びに来たはずなんだけどなぁ……。
まあ、薬草採りも楽しそうにしているから、二人がそれでいいのなら……いいか? うん、いいことにしよう。
それじゃあ、僕も採ろうか。
「「あれー?」」
充分な量の花を摘んだ頃、虹が消えると同時に彩虹花は一瞬で枯れ果て、草原はもとの姿へと戻った。
「「なくなっちゃったー」」
「本当に何にもないな……」
摘み取った花はそのままの状態で残っているというのに、それ以外は枯れた残骸すら見当たらない。
摘んだ花を持っていなかったら、今まで見ていたのは幻だったんでは? と疑っていただろう。
「不思議だねー」
「「ねー」」
「今日は楽しかった?」
「「たのしかったー」」
最後の最後で素材採集となったが、アレンとエレナは充分に楽しんだようだった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「「うん」」
◇ ◇ ◇
「きゃーーー!!」
貴重な薬草である彩虹花を《無限収納》の肥やしにしておくのはもったいないかなぁ~と思い、少し売却しようとギルドに寄ることにした。
そこで、取りだした彩虹花を見たルーナさんが絶叫した。
しかも、叫びすぎて「げほげほっ」と咽せている。
「これ、彩虹花じゃないですかっ!? 凄い凄いっ!!」
「あ~……これを売却でお願いできますか?」
「喜んでー!!」
喜ぶんじゃないかなぁ~とは思っていたが、あまり多くない量であるのにもかかわらず予想以上の喜びようであった。
アレンとエレナはルーナさんの激しい反応に、若干怯えて僕の足に張りついていた……。
1,680
お気に入りに追加
38,082
あなたにおすすめの小説
異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ
真義あさひ
ファンタジー
俺、会社員の御米田ユウキは、ライバルに社内コンペの優勝も彼女も奪われ人生に絶望した。
夕焼けの歩道橋の上から道路に飛び降りかけたとき、田舎のばあちゃんからスマホに電話が入る。
「ユキちゃん? たまには帰(けぇ)ってこい?」
久しぶりに聞いたばあちゃんの優しい声に泣きそうになった。思えばもう何年田舎に帰ってなかったか……
それから会社を辞めて田舎の村役場のバイトになった。給料は安いが空気は良いし野菜も米も美味いし温泉もある。そもそも限界集落で無駄使いできる場所も遊ぶ場所もなく住人はご老人ばかり。
「あとは嫁さんさえ見つかればなあ~ここじゃ無理かなあ~」
村営温泉に入って退勤しようとしたとき、ひなびた村を光の魔法陣が包み込み、村はまるごと異世界へと転移した――
🍙🍙🍙🍙🍙🌾♨️🐟
ラノベ好きもラノベを知らないご年配の方々でも楽しめる異世界ものを考えて……なぜ……こうなった……みたいなお話。
※この物語はフィクションです。特に村関係にモデルは一切ありません
※他サイトでも併載中
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。