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過去編

最低と最高と②

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◇◆◇◆


別れて扉に入ってから、しばらく経つと響いた機械仕掛けの様な受付嬢の声に案内され、参加者たちは時間差でホールへと出た。


妻側の控室からも同じぐらいの人数が出てくる。


そこから意気投合すれば、何部屋かある別室へと入っていくようだ。


そこに来て急に現実感が湧いてきたが、引き返す扉は閉ざされている。
周りは楽しそうに談笑をはじめ、身体を寄せ合い始める。


甘い香に思考を阻まれながらも、彼女が怖がっているのではないかとホールを探す。


〈…夫婦が同じ時間帯で案内される筈がないだろう――め。〉


「…あの」


緑の仮面を着けた夫人から声をかけられた。


「ああ、人を探していて…」

礼儀を欠いた態度だが、早く進みたかった。

「奥様ならこちらに…」


その夫人から探し人を言い当てられ、普通ならおかしく思うだろう。
何故か僕は渡りに船だとその夫人に着いていってしまった。


個室へ誘導され、素直に入る。
見渡して、妻がいないことに気づく。


「…妻は?」
「いやですわ、ここの誘い文句でしょう?」


自分の身体に巻き付いてくる腕に、ゾッとする。

(セレスの感触じゃない…!)

拒否反応が身体を固くする。


「参加は初めてですか?ふふ、直に効いてまいりますわ。楽しみましょう…」


何が効いてくるのか、聞かずとも分かった。
こんなにも頭は感触を嫌悪しているのに、身体は異様に熱い。
自身の雄が反応しているのが分かった。



(嘘だ…いやだ…彼女じゃない。ゾッとするほどイヤな匂いの女だ…気色悪い)



身体の熱とは裏腹に、頭が、肌が、セレスティアを欲して喚きだす。


女の指が僕の中心を服の上から撫で上げる。
そうして、自ら服を脱いで、私を押し倒そうとした。


(自由に過ごす、頭ではこういう事も入るだろうと分かっていた。だがここまで性急で下品だとは…!気色の悪い…セレス…泣いているのでは…)


〈――その――だ〉



泣いているセレスティアが脳裏に浮かんで、僕はハッとする。
身体を押し付けてくる女を強い力で押し返した。

「どいてくれ」



思ったよりも嫌悪感に満ちた低い声が出た。
僕の声に怯んで女が後ずさったのを狙って、扉からホールへと戻る。

気色の悪い匂いを纏っている自分を早く洗い流したい。
セレスティア、早く一緒に帰ろう。

(こんな汚らしい場所へ連れてきて本当に申し訳ない。)




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