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二人は、西に向かって山を下りた。
しばらく行くと、斜面の下に細い沢があった。冷たい水で喉を潤し、枯葉の吹きだまりになった斜面の窪地に腰を下ろして一息ついた。
羽白は、久丹が苦しげに顔を歪めているのに気がついた。身体をそらし、長い手で背中のあたりをさすっている。
「どうした?」
「さっきから背中が痛いんだ。子供たちに容赦なく潰されたからな」
久丹は、無理をして明るい声を出しているようだった。
「骨がどうかしたのかもしれない」
羽白は言った。
「見てやろう」
「いや、大丈夫だ」
久丹は首を振った。
「じきに治るさ」
しかし、久丹の顔がだんだんと青ざめてくるのがわかった。肩を動かしたり、身体を丸めたり、痛みにじっとしていられないようだ。
「だめだ、見せてみろ」
羽白はとうとう久丹の後ろにまわりこんだ。背中に触れ、はっとした。
肩の下あたりが異様に腫れている。打撲くらいでこんなに腫れるものだろうか。ひどい内出血をしているのかもしれない。
羽白は有無も言わさず久丹の上衣を脱がせた。そして、息をのんだ。
二つの肩胛骨が盛り上がっていた。見ている間にもそれはさらに盛り上がり、薄くなった青白い皮膚は、血管を透かし、今にもはち切れんばかりだ。
何かが、皮膚の中で激しく脈打っている。久丹はあえいで両手を地面についた。指を地面にくい込ませ、悲鳴を上げた。
それが、ついに久丹の皮膚を突き破った。久丹の体液にまみれたそれは、ぬめりのある濃い枯葉色で、久丹の背中に張り付いていた。生あるもののように伸び続け、腰のあたりまで広がった。
羽白は、目を見開いてそのさまを見つめた。
久丹は気を失い、ぐったりと動かなくなっていた。
久丹の背中のものは、しだいに容積を増していた。
羽白はそっと手を伸ばし、それに触って息をのんだ。
羽だ。
まぎれもない羽が、久丹の背中を覆っていた。
我に返った羽白は、久丹をうつぶせのまま、なんとか楽な姿勢に横たえた。久丹は、もう苦しげな表情は見せず、安らかにこんこんと眠り続けている。
羽白は久丹の側に座って、じっと見守りつづけた。
羽はしだいに乾き、輝きを帯びた明るい色になっている。
いまや、はっきりと翼とわかる形で久丹の肩の上に折りたたまれている。
これも地霊のせいなのか。
羽白は考えた。豊かすぎるこの世界の地霊が、羽白や久丹を変えている。
羽白はもともと龍の一門だ。
久丹は?
翼の生えた一門など、聞いたこともない。
しかし、あるいは……。
久丹が身動きした。羽白はほっと息をはき出した。
「おれは?」
久丹は両手をついて起き上がった。
背中のものがばさりとして、久丹はぎょっと身体を硬くした。おそるおそる背中の方に首をめぐらす。
「翼?」
「痛まないか?」
「ああ、もう痛くない」
「動かせるか?」
久丹はのろのろと立ち上がり、不安げに両腕を組んだ。翼が肩からもちあがり、大きく広がった。
久丹は一度羽ばたきをした。風であたりの木の葉がざわめいた。
「思い通りに動かせるようだ」
久丹は翼で自分の痩せた身体を包み込むようにした。
「おれは──」
「鳳凰の一門」
「らしい」
しばらく行くと、斜面の下に細い沢があった。冷たい水で喉を潤し、枯葉の吹きだまりになった斜面の窪地に腰を下ろして一息ついた。
羽白は、久丹が苦しげに顔を歪めているのに気がついた。身体をそらし、長い手で背中のあたりをさすっている。
「どうした?」
「さっきから背中が痛いんだ。子供たちに容赦なく潰されたからな」
久丹は、無理をして明るい声を出しているようだった。
「骨がどうかしたのかもしれない」
羽白は言った。
「見てやろう」
「いや、大丈夫だ」
久丹は首を振った。
「じきに治るさ」
しかし、久丹の顔がだんだんと青ざめてくるのがわかった。肩を動かしたり、身体を丸めたり、痛みにじっとしていられないようだ。
「だめだ、見せてみろ」
羽白はとうとう久丹の後ろにまわりこんだ。背中に触れ、はっとした。
肩の下あたりが異様に腫れている。打撲くらいでこんなに腫れるものだろうか。ひどい内出血をしているのかもしれない。
羽白は有無も言わさず久丹の上衣を脱がせた。そして、息をのんだ。
二つの肩胛骨が盛り上がっていた。見ている間にもそれはさらに盛り上がり、薄くなった青白い皮膚は、血管を透かし、今にもはち切れんばかりだ。
何かが、皮膚の中で激しく脈打っている。久丹はあえいで両手を地面についた。指を地面にくい込ませ、悲鳴を上げた。
それが、ついに久丹の皮膚を突き破った。久丹の体液にまみれたそれは、ぬめりのある濃い枯葉色で、久丹の背中に張り付いていた。生あるもののように伸び続け、腰のあたりまで広がった。
羽白は、目を見開いてそのさまを見つめた。
久丹は気を失い、ぐったりと動かなくなっていた。
久丹の背中のものは、しだいに容積を増していた。
羽白はそっと手を伸ばし、それに触って息をのんだ。
羽だ。
まぎれもない羽が、久丹の背中を覆っていた。
我に返った羽白は、久丹をうつぶせのまま、なんとか楽な姿勢に横たえた。久丹は、もう苦しげな表情は見せず、安らかにこんこんと眠り続けている。
羽白は久丹の側に座って、じっと見守りつづけた。
羽はしだいに乾き、輝きを帯びた明るい色になっている。
いまや、はっきりと翼とわかる形で久丹の肩の上に折りたたまれている。
これも地霊のせいなのか。
羽白は考えた。豊かすぎるこの世界の地霊が、羽白や久丹を変えている。
羽白はもともと龍の一門だ。
久丹は?
翼の生えた一門など、聞いたこともない。
しかし、あるいは……。
久丹が身動きした。羽白はほっと息をはき出した。
「おれは?」
久丹は両手をついて起き上がった。
背中のものがばさりとして、久丹はぎょっと身体を硬くした。おそるおそる背中の方に首をめぐらす。
「翼?」
「痛まないか?」
「ああ、もう痛くない」
「動かせるか?」
久丹はのろのろと立ち上がり、不安げに両腕を組んだ。翼が肩からもちあがり、大きく広がった。
久丹は一度羽ばたきをした。風であたりの木の葉がざわめいた。
「思い通りに動かせるようだ」
久丹は翼で自分の痩せた身体を包み込むようにした。
「おれは──」
「鳳凰の一門」
「らしい」
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