令嬢は故郷を愛さない

そうみ

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 夜の団欒が終わって、ロニーは寝室に向かい、子爵夫妻は母屋に戻っていった。わたしは客間で夜着に着替えながら、サヤに別邸での話を聞いていた。

 サヤとスレインにも客の使用人用の個室が与えられ、サヤにはわたしのドレスの説明や小物の手入れの仕方など、メイドとしての細かい指示があった。

 スレインは護衛騎士仲間と再会して、早速剣を合わせてお互いの成長を確かめたそうだ。スレインには普通の護衛ではなく、密偵のようなこともお願いしているから、真っ当に剣技だけを磨いてきた騎士達に劣る部分があったかもしれないと、申し訳なく思った。

 わたしについて来なければ騎士として研鑽を積んでいけたかもしれないのに。

 後でスレインには、そんなつまらないことより、お嬢様に付いている方が面白いに決まっていると笑われた。

 寝支度を済ませて、サヤも個室に下がった頃、扉がノックされた。

「アーシア、まだ起きているかしら」

 扉を開けると、一人でワインボトルとグラスを手にした母が立っていた。

「疲れているとは思うけれど、話しておきたいことがあって」

「大丈夫です。まだ眠れないと思っていたところなので」

「じゃあ、少しだけ付き合ってもらえるかしら」

 寂しげに母が、口の端を少し上げて笑顔をつくった。ソファに二人並んで座る。十年ぶりだ。

「あなたがさっき泣いていたのが気になって」

「あれは、本当に悲しかったのではなく……」

「わかっているわ。でも、あなたの知らない事があなたを苦しめているのかもしれないと思ったの」

「わたしの知らない事?」

「そうよ」

 母が自分でワインを注いで、グラス半分ほどをひといきに飲み干した。

「あなたはわたくしが辺境伯から逃げて離縁をしたと聞いていると思うのだけど」

「そう、聞いています」

 いつ、誰から聞かされたのかは記憶にない。シャガルでは常識のように語られていた。

「実は全く逆なの。閣下はわたくしのためを思って真実を伏せてくださっているだけなのよ」

「は?」

 夫から逃げた妻のため? 意味が分からずわたしは変な声をあげてしまった。
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