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エピローグ~覚悟
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この会話は警官の一人に腕をねじ上げられているアンズの耳にも届いた。
(…そうだ…あの人に言うとおりだ。私がここで逮捕されたら誰がアリサの仇をうつの?…私しかいないっ…アリサの仇をうつために私は…お父さん、お母さんごめんなさい…もう、家に帰れないかもしれない…)
『…はなしてください』
『…なに?』
グググッ
アンズは捻(ねじ)られている腕の力を更に強める。
『ぐっ、…無駄な抵抗をして罪を増やすんじゃないっ』
予想だにしなかった少女の力に警官は驚愕しながらも何とか押さえ込もうと力を込める。
『…もう一度だけいいます…はなしてください』
アンズは静かにトーンをおとして言った。
しかし、警官は一向に放す素振りを見せない。
『一応、警告はしましたからっ』
アンズはそう言い放つと後ろにいる警官に後頭部頭突きを見舞う。
ゴッ、ミシャッ
警官の胸の辺りの骨が砕ける音。
『がっはぁっ』
ゴバァッ
口から吹き出る血が床に広がる赤い池を更に広げる。
『が…あぁ…ぁ』
胸を押さえうずくまる警官を背に、アンズは他の警官達に寂しそうな視線をおくるとゆっくりと口を開いた。
『…私はアリサを殺してなんかいない…でもまだ、私を捕まえようとするなら…』
アンズの目が殺意に彩られ鋭さを増す。
『容赦はしないっ!!』
アンズは部屋の入り口に向かって歩き出した。
警官は恐怖からか、蛇に睨まれた蛙状態のまま微動だにできない。
『…アンズせんぱい…』
コウは震えた声でアンズの名前を呼んだ。
『…コウちゃん』
警官達に向けたものとはまったく別の、普段の優しい目、声。
『…ごめんね…私行かなくちゃ…』
『アンズせんぱぁい…うわあぁ』
コウが感情をおさえきれずアンズの胸に飛び込む。
『……。』
アンズの無言で絵里の頭を撫でるその姿は母親のような暖かさを感じさせた。
『…皆さんもありがとうございました』
そしてアンズはノエル、スズフミ、ジェネ、イフの四人に頭をさげると泣きじゃくるコウをゆっくりと離し、外に向かって駆け出した。
地から離れてゆくアンズの両足。頬を伝う涙の輝きが覚悟を現していた。
それからアンズはあっという間に夕焼けの空へと姿を消した。
誰一人として、口を開くものはいなかった。ただ、ただ、アンズの消えた空の一点を眺めていた。各々(おのおの)の心に飛来する気持ち、その答えを求めて…。
『強大な力を感じきてみたが…まさか俺が昨日助けた嬢ちゃんだったとはな…びっくりだぜ』
陸上部の屋根の上、腕組をしながら考え込む一人の男の姿があった。サングラスをかけ、背中に龍の刺繍をせおう。通称…龍の男。
『…だが、あの憎悪の力じゃ、奴はたおせねぇ…利用されるのがおちだ。…黒い影か…目的は俺だしな…俺が殺るか…まぁ、今は用事を済ますのが先だな』
一人納得すると龍の男は自ら作り出した空の狭間にきえた。
(…そうだ…あの人に言うとおりだ。私がここで逮捕されたら誰がアリサの仇をうつの?…私しかいないっ…アリサの仇をうつために私は…お父さん、お母さんごめんなさい…もう、家に帰れないかもしれない…)
『…はなしてください』
『…なに?』
グググッ
アンズは捻(ねじ)られている腕の力を更に強める。
『ぐっ、…無駄な抵抗をして罪を増やすんじゃないっ』
予想だにしなかった少女の力に警官は驚愕しながらも何とか押さえ込もうと力を込める。
『…もう一度だけいいます…はなしてください』
アンズは静かにトーンをおとして言った。
しかし、警官は一向に放す素振りを見せない。
『一応、警告はしましたからっ』
アンズはそう言い放つと後ろにいる警官に後頭部頭突きを見舞う。
ゴッ、ミシャッ
警官の胸の辺りの骨が砕ける音。
『がっはぁっ』
ゴバァッ
口から吹き出る血が床に広がる赤い池を更に広げる。
『が…あぁ…ぁ』
胸を押さえうずくまる警官を背に、アンズは他の警官達に寂しそうな視線をおくるとゆっくりと口を開いた。
『…私はアリサを殺してなんかいない…でもまだ、私を捕まえようとするなら…』
アンズの目が殺意に彩られ鋭さを増す。
『容赦はしないっ!!』
アンズは部屋の入り口に向かって歩き出した。
警官は恐怖からか、蛇に睨まれた蛙状態のまま微動だにできない。
『…アンズせんぱい…』
コウは震えた声でアンズの名前を呼んだ。
『…コウちゃん』
警官達に向けたものとはまったく別の、普段の優しい目、声。
『…ごめんね…私行かなくちゃ…』
『アンズせんぱぁい…うわあぁ』
コウが感情をおさえきれずアンズの胸に飛び込む。
『……。』
アンズの無言で絵里の頭を撫でるその姿は母親のような暖かさを感じさせた。
『…皆さんもありがとうございました』
そしてアンズはノエル、スズフミ、ジェネ、イフの四人に頭をさげると泣きじゃくるコウをゆっくりと離し、外に向かって駆け出した。
地から離れてゆくアンズの両足。頬を伝う涙の輝きが覚悟を現していた。
それからアンズはあっという間に夕焼けの空へと姿を消した。
誰一人として、口を開くものはいなかった。ただ、ただ、アンズの消えた空の一点を眺めていた。各々(おのおの)の心に飛来する気持ち、その答えを求めて…。
『強大な力を感じきてみたが…まさか俺が昨日助けた嬢ちゃんだったとはな…びっくりだぜ』
陸上部の屋根の上、腕組をしながら考え込む一人の男の姿があった。サングラスをかけ、背中に龍の刺繍をせおう。通称…龍の男。
『…だが、あの憎悪の力じゃ、奴はたおせねぇ…利用されるのがおちだ。…黒い影か…目的は俺だしな…俺が殺るか…まぁ、今は用事を済ますのが先だな』
一人納得すると龍の男は自ら作り出した空の狭間にきえた。
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