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黒い霧

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『・・・くっ・・・何?』
『アンズせんぱい・・・恐い』

  黒い影がアンズとコウを包み込んでゆく。

『こうちゃんっ!!』

  完全に霧に呑み込まれる前に、コウを守るべく手を握ろうと声をかける。

『・・・・・・。』

  しかし、返事はない。そして辺りは完全に黒い霧に覆われる。

『くっ・・・何もみえない。こうちゃんっ、こうちゃんどこなのっ!、こうちゃん!!』

 アンズは何度もコウの名前を呼びながら、黒い霧の中を急ぎ探しまわる。

『こうちゃんっ、こう・・・ちゃん・・・こう・・・けほっ・・・かはぁ・・・くる・・・しい』

 アンズは自分の身体が何かに侵食され弱っていくのを感じた。

『・・・さすが、というべきか。それだけの毒を吸い込みながらも歩きまわれるとは・・・普通の人間ならばすぐに絶命するものを

・・・ふははっ・・・だがそれも、もう限界のようだな』

 上空から聞こえる。苦しさを嘲笑うかの声。

『ど・・・く・・・あぁ』

 アンズの体力が黒い霧の言うように、限界に達し、膝からがくりと崩れおちる。

(こうちゃん助けられなくて・・・ごめんね・・・アリサ・・・約束守れなかった・・・ごめん・・・なさい)

 色々な者たちへの想いが少女に涙を流させた。しかし無情にもその優しい輝きを放つ涙は絶望の黒い霧によって喰らわれる。

バタンッ

 地面へと完全に崩れ落ちたアンズの体。それを宙を漂う黒い霧が、手足にまとわりつき起こさせる。

『・・・くぁ・・・』

 体全体が毒に侵され、動くこと、喋ることもままならなくなったアンズ。黒い影は言葉を投げかける。

『・・・一応教えておいてやろう・・・もう一人の特性変異人の霧には毒が混じっていない・・・

まぁ、この私をあのような目にあわせたやつだ・・・更なる恐怖と苦しみを味あわせてやる為だがなっ』

(・・・こうちゃんは生きてる・・・よかった・・・)

 毒で弱りきっていたアンズの口元が優しく微笑む。

『ふふふ・・・そうだな。もうひとつ良いことを教えておいてやろう。』

(もうひとつ・・・よいこと?)

『アリサは死んだ・・・まぁ、魂を戴くことはできなかったが、私が殺した』

(えっ・・・アリサが・・・死んだ・・・う・・・そ)

『私のマントで貫いてできた穴という穴から、血が吹き出しあたりを赤く染めていく様はなかなか見物だったぞっ・・・ふははっ・・・はーはっは!!』

(なんで・・・なんでアリサが死ななくちゃならないの・・・なにも悪いことなんてしてないのに・・・ひどいっ)

『すぐに貴様も奴の元に送ってやる・・・いや、残念だがあの世とやらでもアリサに会うことはできなかったな・・・なぜなら』

ブゥゥンッ

 黒い影の右手に禍々しいレリーフの漆黒の槍が現れる。

『このブラッドランス(血の槍)によって魂とともに貫いてくれるっ・・・ふははっ。身近な人間の死。そんな姿を身近でみた貴様の後輩か、

あの女の姿が楽しみだ。人間の心は脆い、壊れてしまうかもしれんなぁ』
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