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序章 第三話 特性変異人
しおりを挟むありさは薄れゆく意識の中で、獲物を変え、あんずに襲いかかる二匹の獣の気配を感じとっていた。それは勿論あんずにも。
だが人間の視力で追えない相手への対処方など知るよしもない。そして考える時間も今はない。
(・・ならこれしかっ!)
少女はゆっくりと目を閉じる。よく格闘技を学んだ者が気配を察するために使う方法。だが限りなくゼロに近い可能性。・・失敗それは即ち死を意味する。
(・・チャンスは一度。失敗したら私だけじゃなくてありさも死んでしまう・・
そんなのは絶対にイヤ・・守りたい。あの笑顔をっ!もし、ほんとうに人以上の力が私にあるというのならっ)
『・・今この場でその可能性にかけるっ!!』
カッっと見開く両の目。自分の身体が軽くなり全身にみなぎる様なエネルギーを感じる。それらはあんずに勝利を確信させていた。
・・一瞬の出来事だった。おそらくは彼女自身も覚えていないだろう。サイレントの一匹は宙を舞い、もう一匹はアスファルトの上で沈黙を保っていた。
ドサッ
やがて宙を舞っていた物体が地面に叩きつけられる。即死だった。
『・・やったの?』
二体の身体から液体が流れ出る。辺りの暗さのせいで色は確認できないが、人でいうところの血液なのだろう。人でならざる物の亡骸。
それを静かに眺めているあんずの心境は複雑だった。大事な人を守ることができた。でもそれは自分が特別な人間の証明、めぐ、るり、ありさとは異なる・・存在。
ふぅっと力が抜けるのを感じる。今まで一度も使ったことのない常人離れした動きが身体に大きな負担をかけていたのだ。力のコントロールができない今のあんずにとっては諸刃の剣だった。こらえきれず膝をつく。
『・・さすがは特性変異人。やるなっと言いたいところだが、もうエネルギー切れとはな。拍子抜けだ。これでは次も堪えられるか疑問だがサイレント!!』
黒い影の声に答えるように先ほどの魔狼が暗闇から姿を現す。その数5。
『・・うそ・・ま・・た・・立ち上がら・・なくちゃっ・・』
少女はおぼつかない足取りで立ち上がり後ろを振り向く。そして視線を下げると、気を失っている親友の顔をみた。
(・・ありさだけは何とか守りたい・・でも、この動かない身体でどうすれば・・)
『・・はっ!!』
あんずが気づいた時にはもう、5匹の魔狼は獲物(自分)に向かい走り出していた。
『ぐっ・・もうだめ!!』
瞼を閉じて死を覚悟する。
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