上 下
13 / 20

奇跡 ~エピローグ~

しおりを挟む
『おかえり・・・ノエル』
『ただいま・・・すず』

 そんな時、思いもよらないことがおきた。

『おかえり・・・なさい・・・ノエルさん』
『お・・・かえり・・・なさい』

 もう目を覚まさないと思われていたジェネ、イフの二人が息を吹き返したのだ。おかえりなさいの意味もわからないであろう口ずさんでいる。

 スズフミ、ノエル、二人の目から大粒の涙が溢れでる。すぐに後輩二人を優しく、そして強く抱きしめるスズフミ。

 ノエルはカマイタチの子どもを腕に抱いていたため、そうすることはできなかったが、スズフミと同じ気持ちだった。

・・・しかし最悪の最悪の事態は避けられたというものの、イフ、ジェネの二人の顔は数ある深い切り傷影響で所々むくみ、爛れていた。

 首から下もきっと、同じ状態だろう。・・・まるで怪物のような風貌に成り果ててしまっていたのだ。

・・・回癒策などあろうはずもなかった。顔や身体中の傷を手術で縫い合わせたとしても、痕跡は残る。そして今の日本の科学では、ここまで面影の残ってない二人の愛らしい顔を元の状態に戻すことはできない。

・・・もしかしたら二人はそんな自分の姿に耐えられなくなって自害してしまうかもしれない。

 そう思うと、スズフミは痛たまれない気持ちになる。

『・・・ごめんね・・・ごめんね・・・こんなとき私に回復魔法みたいな力があったら助けることができたのにね・・・無理・・・だよね・・・そんなの』

 しかしそんなスズフミの現実逃避した思いは実現する。

 二人を抱きしめているスズフミの身体が白く輝きだす。まるで天使のように神々しく、そして暖かく。少女の相手を思う慈悲の心がここに奇跡を呼び起こす。

 少女の身体から放たれる聖なる光に照らされて、イフ、ジェネの醜く変わり果てた姿が元の通りに修復復元されてゆく。

・・・そして力なくスズフミに身体を預けていた二人の目に生気が戻る。

 ノエルはそんな目を疑うかのような奇跡の光景に目を奪われ、世の中では多くの人間たちに幻想、空想と思われている神という存在に生まれて初めて感謝を捧げていた。

 やがて完全に復元されるイフ、ジェネという名の人間。

『あれっ・・・どこも痛くない・・・えっ、嘘。傷がなくなってるっ』

 イフは切り傷だらけで凹凸(おうとつ)だらけだった筈の自分の顔を手で触り、同じく傷だらけだった親友の顔がもとの自分のよく知る姿を取り戻したのを目のあたりにし、(信じられないっ)といった驚きの表情となる。

『・・・わたしもイフちゃんも身体中が傷だらけだったはずなのに・・・もしかして・・・夢だったのかなぁ』

 ジェネは空を見上げ、キョトンとした表情で誰に尋ねるわけでもなく、一人呟いた。

『・・・ううん、夢じゃないよ』
『・・・えっ?』

 その声に振り返るジェネ。隣のイフも自然と振り向く。二人の視線の先にはノエルがいた。

『奇跡だよ・・・奇跡がおきたんだ・・・等の本人は気づいてないみたいだけどね』

 泣きつかれたのか、はたまた・・・人以上の能力に急に目覚めそれを使ってしまったからなのだろうか・・・。

『この子頼むね』
『・・・うん』

 ノエルはそういってジェネにカマイタチの子どもをあずけると、小さく寝息をたてているスズフミの肩をゆっくりとさすった。

『すず、おきて・・・』

 ゆさゆさ

『うっ、う~ん・・・あれっ・・・のえる?』

 寝起きで、まだ目の焦点の合わない瞳にノエルの姿が映しだされる。

『おはようっ、すず』

 のえるは優しい笑顔で親友の目覚めをむかえる。

『ふぁ・・・おはよう・・・ノエルってぇっ・・・ええっ・・・私寝ちゃってたのぉっ!?』

 驚きと後悔で、虚ろだったスズフミの目蓋が大きく見開かれる。だがすぐに寂しそうな表情でうつむいた。

『ノエル・・・ごめん・・・二人が大変なときに・・・寝ちゃったりして・・・私最低だよね・・・』
『・・・最低なもんか・・・最高だよ・・・スズはっ』

 ノエルは両目にたくさんの涙を溜めて言う。でもその顔は笑顔だった・・・。

『・・・んっ?』

 不意にスズフミの視界に見覚えのある可愛い二人の後輩の姿が入ってくる。驚きに目を丸くし、身体を震わせるスズフミ。高ぶる感情が露になる。

『うそ!?・・・ジェネちゃんっ、イフちゃんっ・・・顔が・・・あっ、あれっ、こ、これは夢?』
『・・・ううん、ちがう・・・夢なんかじゃないよ。現実だよ・・・それに、二人を治したのはスズなんだよ』
『・・・えっ・・・私が?』

 ノエルの言葉の意味がわからないスズフミは、イフ、ジェネの身体や顔をもう一度交互にみる。

『・・・えっ?・・・ええと』

 スズフミはノエルに振り返る。なにがなんだかわからないといった表情だ。珍しくあたふたするスズフミの姿を目にした三人は揃って笑いだす。

 聖なる光が導きだしたひとときの休息に四人の少女は身を委ね、胸を踊らせた。

 
唸れ風神剣っ!!悲しみを乗りこえて!!

 完
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀
ファンタジー
36歳無職、元高校中退の引きこもりニートの俺は、ある日親父を名乗る男に強引に若返らされ、高校生として全寮制の学校へ入学する事になった。夜20時から始まり朝3時に終わる少し変わった学校。その正体は妖怪や人外の為の施設だった。俺は果たして2度目の高校生活を無事過ごすことが出来るのか。

おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
 教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。  前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。  元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。  しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。  教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。  また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。 その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。 短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。

異世界で黒猫君とマッタリ行きたい

こみあ
ファンタジー
始発電車で運命の恋が始まるかと思ったら、なぜか異世界に飛ばされました。 世界は甘くないし、状況は行き詰ってるし。自分自身も結構酷いことになってるんですけど。 それでも人生、生きてさえいればなんとかなる、らしい。 マッタリ行きたいのに行けない私と黒猫君の、ほぼ底辺からの異世界サバイバル・ライフ。 注)途中から黒猫君視点が増えます。 ----- 不定期更新中。 登場人物等はフッターから行けるブログページに収まっています。 100話程度、きりのいい場所ごとに「*」で始まるまとめ話を追加しました。 それではどうぞよろしくお願いいたします。

The change~入れ替わった魂~

紫苑
ファンタジー
登場人物 主人公...遠藤 加奈子(エンドウ カナコ) 加奈子が入れ替わった女性... 榊原 愛瑠(サカキバラ アイル) 榊原家の執事... 鏑木 耕三(カブラギ コウゾウ) 榊原家のメイド... 一之瀬 胡桃(イチノセ クルミ) カコジョのkiraraのファン... 西園寺 貴彦(サイオンジ タカヒコ) 不遇の人生を送っていた加奈子だったが、ある出来事をきっかけに彼女の人生は一変した... 不定期更新です。

プリンセスクロッサー勇と王王姫纏いて魔王軍に挑む

兵郎桜花
ファンタジー
勇者になってもてたい少年イサミは王城を救ったことをきっかけに伝説の勇者と言われ姫とまぐわう運命を辿ると言われ魔王軍と戦うことになる。姫アステリアと隣国の王女クリム、幼馴染貴族のリンネや騎士学校の先輩エルハと婚約し彼女達王女の力を鎧として纏う。王になりたい少年王我は世界を支配することでよりよい世界を作ろうとする。そんな時殺戮を望む壊羅と戦うことになる。

処理中です...