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#7 誰かの光に

7-1 誰かの光に

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どれほど悩んでいても、陽だまりのような笑顔を見れば救われる。
敷地を取り囲む木々の中に、レンガ造りの正門は佇んでいた。インターホンを押すと、出迎えた保育士の案内で招き入れられる。家庭菜園を通り過ぎて、遊具のある中庭に足を踏み入れると、たくさんの園児たちが駆け寄ってきた。

「やったぁ、しおんお兄ちゃんが来たよ!」

一人の男の子が声を上げると、教室にいた子供たちもワッと顔を出す。紙袋を提げた紫音の周囲には、あっという間に人だかりができた。

「まちくたびれちゃった。ずっと会いたかったんだよ!」
「あたしもいっぱい、いーっぱい楽しみにしてたの!」

高らかな歓声の中、紫音は園児たちの目の高さに合わせてしゃがみこんだ。
一人の頭を撫でると、くすぐったそうに笑う。背中に抱きつく子もあった。

「みんな、ごめんね。今回は時間がかかっちゃったんだ」

保育士に紙袋を手渡して、中身を確認してもらう。
出てきたのは、完成したばかりのカラフルなぬいぐるみが数点。それぞれ違う色の洋服を着せて、個性を際立たせた。

「あら、可愛い子豚ちゃんだこと!いつもありがとうございます」

一匹ずつ微妙に違う表情に、すっかり顔馴染みの彼女も破顔した。
本の手本を見様見真似で、決して職人張りの仕上がりではなかったが、作り甲斐があった。

「ほら、みんなで好きな豚ちゃんを選んで。組代表の子はじゃんけんしましょうね」

ダンスや華道を極められるほど長けているわけでもない。家事が得意でも、他人にできるほどメイクが得意なわけでもない。これと言って特技が無い中、可愛い物好きが高じてテーマに選んだのが手芸だった。
動画撮影で制作したぬいぐるみはすべて、寄贈するようになった。部屋に飾っても増えていくばかりで、せっかくならと近所の幼稚園を訪れたのが始まりだ。それ以来、冴えないアイドルもここでは人気者だった。

外は冷えるからと、いつものように多目的ホールに移動してお遊戯会が始まる。降園の時間から保護者が来るまで、束の間のひと時。

「どんぐり ころころ どんぶりこ――おいけにはまって さあたいへん――」

手を繋いで輪になって合唱したら、ソロで新曲の歌とダンスを披露する。キラキラとした眼差しに包まれ、紫音は軽やかにステップを踏むことができた。
体育座りで鑑賞していた園児たちから、拍手が沸き起こる。元気いっぱいな彼らは、振付を真似てみたりと大はしゃぎだ。スローモーションで教えてあげていると、そのうちに次々とお迎えがやってきた。別れ際に一人の女児がとことこ歩いてくる。

「ねえ、お兄ちゃん。もうすぐおたんじょうびだからね、デートしてくれる?」

そうすると、他の子達まで抜け駆けはいけないと騒ぎ出す。

「ずるいぞ!おれがしおんとデートして、けっこんするんだ」
「いやっ!あたしが……あたしがけっこんするのぉっ!」
「みんな喧嘩しないで?また、近いうちに遊びに来るよ」

紫音は苦笑しながらも、残っている子供たちと指切りをした。その中の男児が得意げに言い張る。

「ちがうぜ。しおんはアイドルだから、みんなのものなんだ!」
「はやくおおきくなって、すぷらっしゅのライブにいきたいよぉ」
「いいなぁ!ぼくもっ、いきたあい!」

そこへ、離れた場所から伺うように見ていた女児が、ぽつりと口を開いた。

「あ…アイドルって……わたしたちもなれるの?」

大人しそうな彼女は、指をもじもじと動かしている。紫音は彼女の両手を握って、晴れやかな笑顔を向けた。

「もちろん!なれるよ、絶対」

この場所で、紫音は原点に立ち返ることができた。
子供達が観に来られる年頃になった時にも、ステージに立っていられるように。いつかは大きな舞台で、自分がかつて憧れていたような輝きを見せられたら。

誰かの光になりたい。
そんな願いから、この道を歩き続けた選択を振り返ることができた。傷つくことを恐れ、勉強に逃げて、人と関わり合うことを避けてきた自分を変えたかった。今なら舞台に立てば、勇気を奮い立たせることができる。
自分自身は一度心を閉ざしてしまったけれど、未来の子供たちの道を照らしてあげたい。紫音は密かにそう考えていた。
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