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第五章 腐った林檎の行方
第69話
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鉄柱に縛り付けられた塚原は、目隠しをされ上半身を裸に剥かれて立たされていた。その場所は長澤が殺された射撃場である。普段設置されている人型の射撃的の代わりに、生きたままの塚原が立たされていた。幽霊セクションの訓練生は、卒業試験として生きた人間を撃つ。人を撃った経験なくして、どうして暗殺専門の幽霊セクションに在籍できようか。
そう、訓練生の卒業課題の射撃的に、塚原は生きたままされる。捕らえた他国の工作員が的になることが大多数だが、今回のように見せしめにされることも、たまにある。
「血に慣れることよ。初めては誰でも怖い。でも乗り越えなければ、幽霊セクションには所属できないわ」
立会人として有紗は緊張している男二人、女ひとりの訓練生に発破をかける。幽霊セクションに所属するなら、誰もが通る道。怖いが、ここで怯んでは大切な人を――ひいては国家など護れない。いざ戦争となると民間人は、老若男女を問わず人間としての尊厳を蹂躙され無残に命を奪われる。
自分たちはもう戸籍上は死人だ。しかし残してきた大切な人たちは法の下で生きている。そんな人たちを影ながら護るために、死人として国家を護る存在になったのだ。訓練生は既に、いくら法を犯そうとも法では裁けない立場。訓練生たちは散々それを叩き込まれてきたはず。最後に、その覚悟を示すだけだ。
「最後に言い残したいことはあるか? 言いたいこと全部言ってから楽にしてやるよ」
建人の非情な声が射撃場に冷たく響く。目隠しをされたままの塚原は、にやりと口元を歪めると嘲笑った。
「真理子は俺を愛してると何度も言った。俺の腕の中で、嬌声を上げながらな! お前たちの母親はとんだ淫乱だ、父親は間抜けだ。俺に妻を寝取られた可哀想な男だよ! それから建人、お前の婚約者――いや妻か。あの女はお前のために、俺のコルト・ローマンのメンテナンスを請け負った。お前の命を守るために、結婚を認めて貰うためにな! それから長澤。あいつは愚かな男だ。真理子の愛人と疑われて、誤解を解く間もなく死んでいった。最高に間抜けな奴だ。お前らの父親のようにな!」
次の瞬間、塚原は狂ったように笑い出し兄妹の怒りを余計に煽った。有紗は怪我のために銃の所持を禁じられ、建人は隆宏によって羽交い締めにされ動きを封じられている。
――できるならば、自分たちで殺してやりたい!
兄妹の胸に去来する思いは、これに尽きた。しかし有紗は左肩を負傷している上に、長澤に重傷を負わせた罪の処分がまだ下されていない。建人は微妙なところだ。裏切り者を始末したが、それは実母。その辺の事情をどう考慮して処分を下すか、まだ上層部は決めあぐねている。ここで兄妹が暴走すれば、重い処分を下されてしまう。
どうにもならない、やり場のない感情を持て余しつつ刑の執行を今か今かと待ち望む。ようやく笑い終わった塚原は、覚悟を決めたように静かになった。
「訓練生たち、よく狙って撃ちなさい」
同じく立会人の中田が、静かに処刑命令を出した。銃声が何発も響き、塚原の身体が跳ねる。兄妹は何の感情も浮かばない目で、ただそれを眺めていた。
ただ拳を固く握りしめて。胸の奥には、激しい怒りを滾らせて。
そう、訓練生の卒業課題の射撃的に、塚原は生きたままされる。捕らえた他国の工作員が的になることが大多数だが、今回のように見せしめにされることも、たまにある。
「血に慣れることよ。初めては誰でも怖い。でも乗り越えなければ、幽霊セクションには所属できないわ」
立会人として有紗は緊張している男二人、女ひとりの訓練生に発破をかける。幽霊セクションに所属するなら、誰もが通る道。怖いが、ここで怯んでは大切な人を――ひいては国家など護れない。いざ戦争となると民間人は、老若男女を問わず人間としての尊厳を蹂躙され無残に命を奪われる。
自分たちはもう戸籍上は死人だ。しかし残してきた大切な人たちは法の下で生きている。そんな人たちを影ながら護るために、死人として国家を護る存在になったのだ。訓練生は既に、いくら法を犯そうとも法では裁けない立場。訓練生たちは散々それを叩き込まれてきたはず。最後に、その覚悟を示すだけだ。
「最後に言い残したいことはあるか? 言いたいこと全部言ってから楽にしてやるよ」
建人の非情な声が射撃場に冷たく響く。目隠しをされたままの塚原は、にやりと口元を歪めると嘲笑った。
「真理子は俺を愛してると何度も言った。俺の腕の中で、嬌声を上げながらな! お前たちの母親はとんだ淫乱だ、父親は間抜けだ。俺に妻を寝取られた可哀想な男だよ! それから建人、お前の婚約者――いや妻か。あの女はお前のために、俺のコルト・ローマンのメンテナンスを請け負った。お前の命を守るために、結婚を認めて貰うためにな! それから長澤。あいつは愚かな男だ。真理子の愛人と疑われて、誤解を解く間もなく死んでいった。最高に間抜けな奴だ。お前らの父親のようにな!」
次の瞬間、塚原は狂ったように笑い出し兄妹の怒りを余計に煽った。有紗は怪我のために銃の所持を禁じられ、建人は隆宏によって羽交い締めにされ動きを封じられている。
――できるならば、自分たちで殺してやりたい!
兄妹の胸に去来する思いは、これに尽きた。しかし有紗は左肩を負傷している上に、長澤に重傷を負わせた罪の処分がまだ下されていない。建人は微妙なところだ。裏切り者を始末したが、それは実母。その辺の事情をどう考慮して処分を下すか、まだ上層部は決めあぐねている。ここで兄妹が暴走すれば、重い処分を下されてしまう。
どうにもならない、やり場のない感情を持て余しつつ刑の執行を今か今かと待ち望む。ようやく笑い終わった塚原は、覚悟を決めたように静かになった。
「訓練生たち、よく狙って撃ちなさい」
同じく立会人の中田が、静かに処刑命令を出した。銃声が何発も響き、塚原の身体が跳ねる。兄妹は何の感情も浮かばない目で、ただそれを眺めていた。
ただ拳を固く握りしめて。胸の奥には、激しい怒りを滾らせて。
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