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第五章 腐った林檎の行方

第67話

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 約一ヶ月前に倉科兄妹がC国の女工作員を拷問したあの地下室に、後ろ手に手錠をかけられ、胴体は太い鉄柱に拘束された塚原の姿があった。亡き長澤が、そして大平チーフが提出した証拠の数々を突きつけられて、彼は唇を震わせていた。佐々木との最後の夜。その際に発したやり取りまで再生され、屈辱で顔を赤くするもどうすることもできない。

「内調時代からの関係だそうだな。倉科英人ひでと氏の妻だった佐々木真理子を含む三人は、東大時代からの仲。親友だった倉科英人さんを裏切って、佐々木とねんごろになったのは嫉妬か?」

 尋問官となった赤坂あかさかチーフが、容赦なく殴りつけながら問う。ふてぶてしい態度を崩さない塚原は、脳裏に若き日の自分たち三人を思い起こしている。

 明るく美しい佐々木真理子。頭脳明晰で容姿端麗な倉科英人。二人は周囲も認める美男美女カップルとして、キャンパス内でも注目の的だった。英人とは中学時代からの親友だが、真理子に一目惚れしても叶わぬ恋と諦めていた。

(だが、あいつは警察の一員になり多忙を極め、俺たちは内調へ。そこから俺たちの道が交わった)

 手に入らないと思っていた相手。二人の子をもうけたとは思えない、相変わらずの美貌に塚原は焦がれていく。真理子の方も二児の母になり女としての輝きを失っていく恐怖から、いけないと思いつつも塚原の思いに応えてしまった。寂しいから、というありきたりな言い訳をしながら夫と子どもたちを裏切った真理子は、段々と罪悪感も覚えずに塚原との関係に溺れ込んでいった。

「佐々木を丸め込んだことは、一旦おいておくとして。どうして内調や内保局に籍を置いておきながら、この国を裏切るような真似をした。それを吐いてもらおうか」

 後ろ手に拘束されたまま、目の前に準備された三角形の鉄板がいくつも並べられた上に正座させられる。すねの骨が自重によって折れるのではないかとの錯覚が、塚原の脳を混乱させる。足首も拘束されているので、逃げることも叶わない。

「江戸時代の拷問に、石抱いしだきってあるのを知っているか?」

 シンプルだが苦痛は見た目以上の過酷な拷問。こんな古典的な拷問も、時に内保局内では平気で行われる。

 石ではなく分厚い鉄板を乗せていく。一枚あたり四キロあり、それを膝の上に乗せられ塚原は脛に食い込む三角の稜線に苦しめられる。どんなに絶叫をあげようと、脛が折れそうになろうと誰も助けてはくれない。様子を見ながら枚数を増やされ、地下室には苦悶の声が反響する。時には乗せてある鉄板を左右に揺らして、更なる苦痛を与える。脛が潰れないよう見計らい、鉄格子が冷たい留置場に放り込み足の回復を図る。数日掛けて回復したら、また同じことを繰り返す。真実を吐くまで地獄の責め苦は続く。

 日数をかけて塚原は責め苦を味わった。その間に吐かせられた裏切りのきっかけは、単に佐々木を独り占めしたいという歪んだ欲望。彼女にも国家を裏切らせて、共犯者として自分に縛り付ける。英人への罪悪感も日に日に薄れて、欲望を満たす日々。反日国家への情報漏洩は、金銭面でも条件が良かった。ハニートラップで若い女も抱かせて貰える。どんどん深みに嵌まり底なし沼に落ちていった。

「倉科兄妹を配下において手放さなかったのは、どうしてだ?」
「英人への嫌がらせと同時に、手許に置いておくことでいつか危険な任務に就かせ、殉職させるため。真理子の記憶を消したのは、そのためだ」

 だが気付かれて、有能な部下を保身のために殺した。

「俺は英人あいつが憎かった、同時に羨ましかった! 真理子を手に入れても、あいつがもっと嘆き悲しむ姿を見たかったんだ。高田香澄は、俺が真理子の本当の愛人と知られたから口を封じた。……それだけだ」
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