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第二章 トリックスターの暗躍

第36話

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 使用された銃弾の施錠痕ライフリングから、内保局に登録されていないコルト・ローマンと特定され徹底的に捜査がされたが、犯人の目星がつかないまま月日が流れた。そして三年の月日を経て、再び因縁のコルト・ローマンが使用された。これは何を意味するのか。

 結局、くだんの陸軍幕僚総長は間島の死後に秘密裏にされたが機密は漏れてしまい、混乱が起こり立て直しに少々の時間はかかったが現在は以前の水準に戻っている。

 三年前は遠矢も隆宏も半島のエージェントと決めつけ外部を疑ったが、香澄が同じ銃で殺害されたとなると、間島暗殺事件も内保局の人間だったのかもしれないとの疑念が湧いた。

「……俺はあの日、間島さんと約束があったんだ。任務が終わったら話があるから会おうって。だけど何時間経っても間島さんは来ず、代わりに訃報が届いた」

 あのときの記憶がよみがえったのか、隆宏は口惜くやしそうに太股の上で両拳を握りしめた。

「事前に何も聞かされていなかったんですか?」
「お前さんは間島さんのことをよく知らないんだっけな。あの人はプロ中のプロだった。秘密主義な人で、例え仲間でも滅多に秘密を話したりしない。そんな彼が、俺に何かを言いたそうにしていたんだ。……犯人の方が一枚上手だったんだよ」

 吐き捨てる隆宏の横顔を、浅倉は黙って見ることしかできない。

(しかし、あのときチーフ職を含め全ての幽霊ファントムセクションに籍を置く人間の家宅捜査も行いましたが、全員シロでした。では幽霊ファントムセクション以外の人間が個人的に所持している銃だとでも? それだと内保局の規定違反ではありますが、盲点でもありますね)

 遠矢は二人が退室し、広さと静けさを取り戻した室内でひとり思案に耽っていた。

(三年前から出てくるコルト・ローマン。この銃が全ての原因であることに間違いはないんですよね。……あの人はどこまで掴んでいるんでしょうか?)

 そしてある案件の裏取りをするために内線に手を伸ばすと、セキュリティ・セクションの桐谷きりたにと連絡を取る。

 チーフ専用の直通内線番号へかけると、在室していたらしくコール三回で桐谷は出た。

「おや遠矢サブチーフ……失礼、チーフでしたね。昇進おめでとうございます。どうかされましたか?」
「桐谷チーフ、お世話になっています。実は例の件で」
「あぁ、あれですね」
「えぇ、そうです。内線では何ですので、今からそちらへお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 相手から折り返し連絡するとの返事をもらい、会話を終えて受話器を置いた遠矢の顔は、妙に無表情であった。

 いつ連絡が来ても良いように仕事を片付けていると、きっかり五分後に桐谷から内線が入り、用意ができたとの連絡を受けた。遠矢は立ちあがると、人知れずセキュリティ・セクションへと足を向けた。

 内保局本部は人の気配などないのかと錯覚するほどに静まり返っている。だが壁一枚向こうには大勢のの人間が国家のために忙しく働いている。そんな大切な仲間が人知れず殺された。遠矢の眉間にはいつしか深い皺が深く刻みつけられていた。
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