25 / 71
第一章 国家機密を守り抜け
第25話
しおりを挟む
二時間後。
任務を無事に終えた建人たち三人は、眠っている女工作員に適宜麻酔薬を注入しつつ、内保局の本部に戻ってきていた。そのまま地下深くに設けられた尋問室へ女工作員を連行し、情報を吐かせるべく準備をする。
「さて、誰が尋問する?」
椅子に縛り付けられた女工作員を見下ろし、健人が抑揚のない声で問う。浅倉は替え玉という正体の発覚を防ぐため、内保局内の特別室に護衛付きで身を隠している。尋問室は完全防音で、あらゆる責め苦を与える道具は揃っている。
拷問は捕虜の人権を保護するためにジュネーブ条約によって禁じられているが、そんなものが建前であることは周知の事実。C国が少数民族に対して現在進行形で筆舌に尽くしがたい拷問を加えていることは、暗黙の了解事項。ましてやこの暗殺チームの連中は、日本へ正式なルートで入国していない。そんな連中に何の遠慮も配慮も必要であろうか。いわば「存在していない人間」がどうなろうと、日本国は一切関与しないしできない。公式非公式問わずにC国が抗議しようとも、入国した記録がない人間をどうしろというのか。
縛られても尚、反抗的な目をする女工作員を無慈悲に見下ろす。
「男性陣は却下よ。C国の女狐は、ハニートラップが常套手段。尋問の途中で、逆に骨抜きにされても困る」
有紗はそう言うと、二人を部屋の隅に下がらせた。睨みつけている女の頬を、いきなり左の裏拳で殴りつける。続けざまに掌底を顎に叩き込む。言葉を発する間もなく脳を揺らされた女が失神するが、有紗は構わず腹部に蹴りを入れた。空手の有段者であり合気柔術を修めている彼女の蹴りは、手加減していても相当に重い。女工作員は胃液を吐いて、強制的に目覚めさせられた。
「汚いわね。床を汚さないでくれる?」
言葉と同時に、今度は強烈な平手打ちが飛んだ。床にコンクリートで固められている椅子に縛り付けられているため、女工作員は衝撃を逃がすことも出来ない。
「聞きたいことは山ほどあるの。誰に王子暗殺を命じられた?」
素直に話すとは思っていない。有紗は拷問道具の中から、細い竹串を一本取り出し、椅子の背後に回る。握り拳を作っている女に構わず、腕に竹串を突き刺す。
「ぎゃあっ!」
思わず声を上げた女に、満足そうな笑みを浮かべる有紗。だが女工作員にとってそれは、悪魔の笑み。
「さっさと喋らないと、もっと苦しい目に遭うわよ」
流暢なC国の言葉を操って、有紗は古典的な拷問を始める。すなわち、爪の間に竹串を突き刺すというものだ。どんなに痛みに耐える訓練を受けていようと、人間が耐えられない痛みというものは必ず存在する。神経が集中している爪の間などは、その典型だ。
「さあ、どれだけ耐えられるかしら?」
竹串を爪の間に突き刺したまま、今度は乗馬用の鞭を手に取ると、容赦なく顔面を打ち据えた。女の頬が傷つき、血が流れる。
「ほら、質問に答えなさいよ」
容赦のない鞭捌きに、見ていた隆宏は思わず目を背ける。あまりの凄惨な光景に、見守っていた隆宏の顔色がどんどん悪くなっていった。
「なあ健人。有紗ちゃんって、サディストなのか?」
隆宏がおずおずと尋ねると、肩をすくめてC国の女工作員を一瞥する。
「有紗は自分が敵と判断した人間にしか、サディスティックにならないよ。男女問わずな」
あいつにSM嗜好はないから安心しろと続けられ、隆宏は安堵の息を吐いた。顔に似合わず有紗がサディスティックな一面を見せたので、彼女を口説くことを見合わせようと、一瞬だけ考えたからだ。女工作員は頑なに口を割ろうとしない。爪の間に竹串の本数が増えようと、顔が血だらけになろうとも。
「しぶといわね」
舌打ちをもらすと、撃ち抜かれた左膝を容赦なく蹴る。骨が砕かれた音が響き、女が悶絶する。
「有紗ちゃん、俺たちは席を外すよ」
「出て行きたかったら行けよ。俺は見届ける」
さすが兄妹というか、サディスティックな嗜好は共通のようだ。顔をしかめ首を振りつつ隆宏は例の部屋で待っていると残し、出て行った。
任務を無事に終えた建人たち三人は、眠っている女工作員に適宜麻酔薬を注入しつつ、内保局の本部に戻ってきていた。そのまま地下深くに設けられた尋問室へ女工作員を連行し、情報を吐かせるべく準備をする。
「さて、誰が尋問する?」
椅子に縛り付けられた女工作員を見下ろし、健人が抑揚のない声で問う。浅倉は替え玉という正体の発覚を防ぐため、内保局内の特別室に護衛付きで身を隠している。尋問室は完全防音で、あらゆる責め苦を与える道具は揃っている。
拷問は捕虜の人権を保護するためにジュネーブ条約によって禁じられているが、そんなものが建前であることは周知の事実。C国が少数民族に対して現在進行形で筆舌に尽くしがたい拷問を加えていることは、暗黙の了解事項。ましてやこの暗殺チームの連中は、日本へ正式なルートで入国していない。そんな連中に何の遠慮も配慮も必要であろうか。いわば「存在していない人間」がどうなろうと、日本国は一切関与しないしできない。公式非公式問わずにC国が抗議しようとも、入国した記録がない人間をどうしろというのか。
縛られても尚、反抗的な目をする女工作員を無慈悲に見下ろす。
「男性陣は却下よ。C国の女狐は、ハニートラップが常套手段。尋問の途中で、逆に骨抜きにされても困る」
有紗はそう言うと、二人を部屋の隅に下がらせた。睨みつけている女の頬を、いきなり左の裏拳で殴りつける。続けざまに掌底を顎に叩き込む。言葉を発する間もなく脳を揺らされた女が失神するが、有紗は構わず腹部に蹴りを入れた。空手の有段者であり合気柔術を修めている彼女の蹴りは、手加減していても相当に重い。女工作員は胃液を吐いて、強制的に目覚めさせられた。
「汚いわね。床を汚さないでくれる?」
言葉と同時に、今度は強烈な平手打ちが飛んだ。床にコンクリートで固められている椅子に縛り付けられているため、女工作員は衝撃を逃がすことも出来ない。
「聞きたいことは山ほどあるの。誰に王子暗殺を命じられた?」
素直に話すとは思っていない。有紗は拷問道具の中から、細い竹串を一本取り出し、椅子の背後に回る。握り拳を作っている女に構わず、腕に竹串を突き刺す。
「ぎゃあっ!」
思わず声を上げた女に、満足そうな笑みを浮かべる有紗。だが女工作員にとってそれは、悪魔の笑み。
「さっさと喋らないと、もっと苦しい目に遭うわよ」
流暢なC国の言葉を操って、有紗は古典的な拷問を始める。すなわち、爪の間に竹串を突き刺すというものだ。どんなに痛みに耐える訓練を受けていようと、人間が耐えられない痛みというものは必ず存在する。神経が集中している爪の間などは、その典型だ。
「さあ、どれだけ耐えられるかしら?」
竹串を爪の間に突き刺したまま、今度は乗馬用の鞭を手に取ると、容赦なく顔面を打ち据えた。女の頬が傷つき、血が流れる。
「ほら、質問に答えなさいよ」
容赦のない鞭捌きに、見ていた隆宏は思わず目を背ける。あまりの凄惨な光景に、見守っていた隆宏の顔色がどんどん悪くなっていった。
「なあ健人。有紗ちゃんって、サディストなのか?」
隆宏がおずおずと尋ねると、肩をすくめてC国の女工作員を一瞥する。
「有紗は自分が敵と判断した人間にしか、サディスティックにならないよ。男女問わずな」
あいつにSM嗜好はないから安心しろと続けられ、隆宏は安堵の息を吐いた。顔に似合わず有紗がサディスティックな一面を見せたので、彼女を口説くことを見合わせようと、一瞬だけ考えたからだ。女工作員は頑なに口を割ろうとしない。爪の間に竹串の本数が増えようと、顔が血だらけになろうとも。
「しぶといわね」
舌打ちをもらすと、撃ち抜かれた左膝を容赦なく蹴る。骨が砕かれた音が響き、女が悶絶する。
「有紗ちゃん、俺たちは席を外すよ」
「出て行きたかったら行けよ。俺は見届ける」
さすが兄妹というか、サディスティックな嗜好は共通のようだ。顔をしかめ首を振りつつ隆宏は例の部屋で待っていると残し、出て行った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
狼王の贄神子様
だいきち
BL
男性でありながら妊娠できる体。神が作り出した愛し子であるティティアは、その命を返さんとする生贄としての運命に抗うべく、側仕えである鬼族の青年、ロクとともにアキレイアスへ亡命した。
そこは、神話でしか存在しないといわれた獣人達の国。
「どうせ生贄になるなら、生きている神様の生贄になりたい。」
はじめて己の意思で切り開いた亡命は、獣人の王カエレスの番いという形で居場所を得る。
この国では何をしても構わない。獣頭の神、アテルニクスと同じ姿をもつカエレスは、穏やかな声色でティティアに一つの約束をさせた。
それは、必ずカエレスの子を産むこと。
神話でしか存在しないと言われていた獣人の国で、王の番いとして生きることを許された。
環境の違いに戸惑い疲弊しながらも、ティティアの心を気にかける。穏やかな優しさに、次第にカエレスへと心が惹かれていく。
この人の為に、俺は生きたい。
気がつけば、そう望んで横顔を見つめていた。
しかし、神の番いであるティティアへと、悪意は人知れずその背後まで忍び寄っていた。
神の呪いを身に受ける狼獣人カエレス×生贄として育てられてきた神の愛し子ティティア
お互いを大切にしすぎるせいで視野が狭くなった二人が、周りを巻き込んで幸せな家族になるお話。
※男性妊娠描写有り
※獣頭攻め
※流血、残酷描写有り
⭐︎20240124 番外編含め本編完結しました⭐︎
輝夜坊
行原荒野
BL
学生の頃、優秀な兄を自分の過失により亡くした加賀見亮次は、その罪悪感に苦しみ、せめてもの贖罪として、兄が憧れていた宇宙に、兄の遺骨を送るための金を貯めながら孤独な日々を送っていた。
ある明るい満月の夜、亮次は近所の竹やぶの中でうずくまる、異国の血が混ざったと思われる小さくて不思議な少年に出逢う。彼は何を訊いても一言も喋らず、身元も判らず、途方に暮れた亮次は、交番に預けて帰ろうとするが、少年は思いがけず、すがるように亮次の手を強く握ってきて――。
ひと言で言うと「ピュアすぎるBL」という感じです。
不遇な環境で育った少年は、色々な意味でとても無垢な子です。その設定上、BLとしては非常にライトなものとなっておりますが、お互いが本当に大好きで、唯一無二の存在で、この上なく純愛な感じのお話になっているかと思います。言葉で伝えられない分、少年は全身で亮次への想いを表し、愛を乞います。人との関係を諦めていた亮次も、いつしかその小さな存在を心から愛おしく思うようになります。その緩やかで優しい変化を楽しんでいただけたらと思います。
タイトルの読みは『かぐやぼう』です。
※表紙イラストは画像生成AIで作成して加工を加えたものです。
やんちゃ系イケメンに執着されて他に彼氏作ったように思わせたらブチ切れられた
ノルジャン
恋愛
大学のキャンパス内でひらりと舞い落ちてきたプリント用紙を拾ってあげた。そこから成撮先輩の執着は始まった。「みうちゃんは俺の彼女だから」と言う先輩に毎回「違います」と切り返すみう。それでもしつこく絡んできて、もうこれ以上は我慢の限界だと、苦肉の策でみうは先輩と離れようとするのだが……?
先輩に些細なきっかけでなぜか激重感情押しつけられる女の子の話。ムーンライトノベルズからの転載。
賞味期限が切れようが、サ終が発表されようが
wannai
BL
賞味期限が切れようが、サ終が発表されようが 〜VR世界の恋人が現実で俺を抱かない気らしいんですが、陰キャに本気の恋させといて逃げ切れると思ってます?〜
VRワールド『LOKI IN HAPPY WORLD』。
プレイヤーネーム・亀吉は、アバターを完璧に亀にしたい。
が、最後の砦である『スキントーン:緑』は対人ゲームモード『コロシアム』の勝利報酬でしか入手できず、苦手ながらプレイする毎日。
けれど、勝率を意識しすぎるあまり他プレイヤーから嫌われるプレイばかりしてしまい、ゲーム内掲示板では悪評を書かれている。
どうにかプレイスキルを上げる方法はないものかと悩んでいたある日、頼めば対人戦の稽古をつけてくれるギルドがある、と噂で聞く。
しかしそのギルド『欲の虜』は、初めてコロシアムでチーム戦をプレイした亀吉を、「お前、いるだけ邪魔だな」と味方なのに鈍器でキルしてきたプレイヤーが所属するギルドだった。
※ なろう(ムーンライト)でも並行掲載してます
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
衝撃で前世の記憶がよみがえったよ!
推しのしあわせを応援するため、推しとBLゲームの主人公をくっつけようと頑張るたび、推しが物凄くふきげんになるのです……!
ゲームには全く登場しなかったもふもふ獣人と、騎士見習いの少年の、両片想いな、いちゃらぶもふもふなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる