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挿話 内閣保安情報局の工作員たち
第13話
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やわらかな春の陽射しが、夏の気配を感じさせるようになった五月上旬。
この時間は、出勤前にランニングをする市民が増える時間帯だ。市が運営する運動公園にも、早朝だというのに既に幾人もの男女が、ジョギングやウォーキングに汗を流している。黒地に白の縦ラインが、四肢の外側に入ったジャージを着込んだ、三十代半ばの男。運動を主目的に造られた公園ではあるが、朝の早い年寄りが飼い犬を連れて、または夫婦連れでのんびりと散策する憩いの場でもある。老若男女を問わず、この時間帯に十数名ほどが公園内に居た。男はちらと腕時計に目を走らせ、あと二十分走ったら終わりにしようと決めた。
ジョギングやウォーキングをする集団の顔触れは、ほぼ毎朝決まっている。そして例外なく園内を時計回りに動き歩く者は内側を、走る者は外側をという暗黙のルールが出来上がっていた。男は公園中央に広がる芝生に、新顔の男を見つけた。二十代後半か三十代前半の、目元が涼やかで整った顔立ちをしている。身体つきも、しっかりと筋肉が付いている。ジャージのせいでハッキリとは判らないが、おそらく相当に鍛えているのだろうと推測された。
新参者は入念にストレッチを始め、身体を目覚めさせていた。男は新参者を目の端で捕らえつつも、次の瞬間には存在を忘れ去っている。毎日ほぼ決まったメンバーが公園内にいるため、新顔は珍しいが、早朝ランナーに一人加わるだけのことだと気にも留めなかった。
一周して同じ場所に戻ってきたときには、新参者は陽射しを避けるため濃紺色のキャップを被っていた。端整な顔立ちを隠したために、さっきまで新参者に投げかけられていた女性陣の熱い視線は回避された。あれだけの美男が付近で走ったら、若い女性は気もそぞろになるだろうと男は己の平均的な顔立ちを少しだけ恨めしく思った。
新顔は、ちょうど人の波が途切れた男の後ろに滑り込んだ。十数メートル前方に、数人のグループが走っている。
ウォーキングをしていた者たちは疲れたのか、芝生へと移動を始めた。植え込みには満天星や各種つつじがあり、蝶や蜂が蜜を求めて飛び回っている。男は以前にスズメバチに刺されたことがあった。あの時の激痛を思い出すだけで、身震いが出る。出来るだけ植え込みから距離を置いてジョギングをしているが、それでもやはり気持ちのいいものではない。ましてや今日は、よりによって黒地のジャージを着てきた。
(これ以上、蜂が増える前に帰ろう)
男がそう思った刹那、うなじの辺りで異変を感じた。ほんの一瞬だけ、痛みを感じたような気がして手で確認する。だが、何も刺さってはいないし、血も出ていない。新顔が男を外側から追い越していった。新顔の足が長いせいか、軽い調子で走っているように見えて、あっという間に前方にいる集団まで追いついている。
(早いな)
その頃には首に感じた微かな痛みなど、意識の片隅に追いやっていた。
この時間は、出勤前にランニングをする市民が増える時間帯だ。市が運営する運動公園にも、早朝だというのに既に幾人もの男女が、ジョギングやウォーキングに汗を流している。黒地に白の縦ラインが、四肢の外側に入ったジャージを着込んだ、三十代半ばの男。運動を主目的に造られた公園ではあるが、朝の早い年寄りが飼い犬を連れて、または夫婦連れでのんびりと散策する憩いの場でもある。老若男女を問わず、この時間帯に十数名ほどが公園内に居た。男はちらと腕時計に目を走らせ、あと二十分走ったら終わりにしようと決めた。
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新参者は入念にストレッチを始め、身体を目覚めさせていた。男は新参者を目の端で捕らえつつも、次の瞬間には存在を忘れ去っている。毎日ほぼ決まったメンバーが公園内にいるため、新顔は珍しいが、早朝ランナーに一人加わるだけのことだと気にも留めなかった。
一周して同じ場所に戻ってきたときには、新参者は陽射しを避けるため濃紺色のキャップを被っていた。端整な顔立ちを隠したために、さっきまで新参者に投げかけられていた女性陣の熱い視線は回避された。あれだけの美男が付近で走ったら、若い女性は気もそぞろになるだろうと男は己の平均的な顔立ちを少しだけ恨めしく思った。
新顔は、ちょうど人の波が途切れた男の後ろに滑り込んだ。十数メートル前方に、数人のグループが走っている。
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(これ以上、蜂が増える前に帰ろう)
男がそう思った刹那、うなじの辺りで異変を感じた。ほんの一瞬だけ、痛みを感じたような気がして手で確認する。だが、何も刺さってはいないし、血も出ていない。新顔が男を外側から追い越していった。新顔の足が長いせいか、軽い調子で走っているように見えて、あっという間に前方にいる集団まで追いついている。
(早いな)
その頃には首に感じた微かな痛みなど、意識の片隅に追いやっていた。
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