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第四章 本懐を遂げる

第38話

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「帝国軍に降って、大法螺を吹きに舞い戻ったのですか? 公子殿下」 

 近衛騎士団長のエミリオが、腰の剣を抜いて大公の前に立ちふさがった。彼の表情は明らかにロベルトを見下している。行方知れずになったかと思えば、帝国の皇帝と共に現れた裏切り者。剣術の腕も半人前以下の少年が、父親の首を取るという大言壮語を吐くとは片腹痛いと、エミリオは酷薄な笑みを浮かべる。

「大公殿下の首を取ると申しましたね。近衛騎士団長として、その言葉は謀反の証と受け取りました。よって、殿下に代わり殿下を誅します」
「近衛騎士とは名ばかりで、ずっと酒色に耽り剣術の修行を怠っていたのは、そちらの方じゃないのかエミリオ、僕は知っているんだよ。姉上の婿になろうと、あれこれ工作していたことをね」

 一瞬だけエミリオの顔色が青ざめた。背後にいるオリンド大公の視線が痛い。

「何を仰せですかな公子殿下。わたしごときが、そのような大それた事を」
「まぁいいさ。それよりもエミリオ、騎士の証である甲冑はどうしたの。胸当てに籠手だけなんて、軽装歩兵じゃあるまいし。あぁ、そのお腹じゃ全身甲冑はキツイか」

 先ほど揶揄したように、酒色におぼれていたエミリオの腹は弛みきっており、少し動いただけで波打つほどだ。まだ三十代半ばのはずなのに、こんな不摂生な男が近衛騎士団の団長という重職にあり且つ、姉イザベラの婿になろうと画策していたとは、どちらが片腹痛いのだとロベルトの全身が物語る。

「どうやら言葉を交わすだけ時間の無駄のようですな、殿下」
「そのようだね。僕の目的は、妻と息子を毒殺しようとした、そこに居る人の皮を被った妖魔を斬ることだ」

 二人は剣を構え、間合いを詰めていく。大公は眼前に帝国の新皇帝がいることを思いだし、ここで若造の首を取ろうとこちらも剣を構えた。すかさず前に出て庇う近衛騎士団長のマクシミリアン、格闘家のフランツ、暗殺者のクリストフ。高司祭のベネディクトは少し後ろに下がり、万が一に備えて防御結界を味方全体に張り巡らせた。フィオリーノも細鞭ウイップを構え、いつでも救援に回れるようロベルトの付近にいる。

「下がれ下郎めが。これは騎士の一騎打ちだ、推参な真似をするな」

 フィオリーノを一喝し動きを鈍らせると同時に、エミリオは斬りかかってきた。身体は弛み酒色に耽っていたとはいえ、さすがはこの騎士団の団長を務めているだけはある。的確な斬撃が繰り出された。

(ぬるいな)

 クレメンスの斬撃に比べたら、児戯に等しい。相手の呼吸を計り目で追うことはせず、先を読んで攻撃する。半日前にクレメンスが指導した言葉を思い出しながら、ロベルトはエミリオの剣を受け流し、そのまま下から右手首を切り落としてやった。

 信じられないといった表情を浮かべるエミリオ。見下していた相手から思いもかけない手痛い反撃を受け、冷静さを欠いた。彼の絶叫が響く中、間髪を入れずに咽喉を掻き斬って確実に絶命させる。
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