上 下
2 / 19
序章 暗殺者、異世界転移する

2.暗殺者、異世界へ転移したことに気付く

しおりを挟む
 目を開くと、ほんのりと発光している岩の天井が俺を見下ろしていた。明るさは夜明け? 逢魔が刻くらい? で、完全に視界を奪われてはいない。割と明瞭に周囲が見えるのは安心したが、疑問は盛大に主張する。俺は屋外にいたんだぞ、曇天で雨に打たれているならばともかく、岩肌に出迎えられるなんてどうなっているんだ? 恐る恐る両手を握ったり開いたりしてみると、正常に動く。両足も同様に確認するとちゃんと動く。どうなっているんだ? 俺はあのとき確かに雷に打たれたはずだ。いや待て、打たれた衝撃は感じていない。視界が真っ白になったまでは覚えている。

「ってか、ここは何処だ?」

 仰臥したまま目だけを動かし、周囲の状況を確認する。少なくとも俺の周囲に危険物はなさそうだ。ゆっくりと俺は上体を起こし、左側のショルダーホルスターに納めた愛銃のコルト・ガバメントを確認する。意識を手放す前に握っていたナイフは、すぐ傍に転がっていた。刃物を手に取り立ちあがる。その瞬間だった。今まで一切の音を遮断されていたかのような空間に、様々な音が洪水のように俺の耳に叩きつけられてくる。音だけでなく、地面が揺れている。

「な、なんだぁ?」

 左手にナイフを持ち替え、コルト・ガバメントを素早く引き抜きいつでも撃てるように警戒をする。突然、狼の遠吠え? 咆哮? が聞こえた。しかし反響するせいかどこから聞こえてくるのか判らない。野犬がいるのかとナイフを構え、近くの壁に背を付けて身構える。すると壁が後方に動き、俺は咄嗟に受け身を取ったものの坂を転げ落ちていく。

「うわあああっ!?」

 予想外のトラップに思わず声が出る。マズイ、俺の叫びを聞いて野犬が来たら不利だ。群れをなして攻撃されたら、いくら俺でも太刀打ちできない。長いような短いような距離を転がり落ちると、咆哮と揺れがさっきよりも激しくなった。素早く立ちあがり身構え、周囲の状況を確認すると。

「でっけぇ蛇と狼? しかしなんてデカさだよ、どっちも二メートルくらいあるじゃねぇか」

 正確に言えば蛇はとぐろを巻いており、鎌首をもたげた大きさが二メートルほどという意味だ。全長はざっと換算して三メートルほどか? 一方、真っ白な被毛が美しい狼は体高が二メートルほど。二足で立ちあがったら蛇と同じくらいかもしれない。どうやら二匹は争っているらしい。

 蛇は狼の首に巻き付こうとするが、純白の狼はさせまいと大口を開けて噛み付いていく。優劣は付けがたく。どちらかといえば、蛇がやや優勢か? 狼は攻撃よりも守勢に重きを置いているように見え、俺は狼の足下で何かが動くのを見た。

「もしかして、あの狼の子ども?」

 子狼は大型犬くらいの大きさだ。親と同じく真っ白でふわふわの被毛が、サモエドを連想させる。やべ、犬好きにはたまんねぇなオイ。今すぐあのサモエドもどきを撫で回したい。思い切り犬吸いしたい。俺は殺しの依頼完遂率100%の、自分で言うのも何だが一流の暗殺者だ。そんな俺の唯一の弱点が、犬だ。彼らがいると暗殺が出来ない。意識の半分以上を持ってかれるからだ。

 どうやら蛇が狙っているのは子狼らしい。執拗に親狼のガードを掻い潜って地面に近付こうとするが、猫パンチならぬ犬パンチも時おり飛んでくる。思い通りに行かないことに苛つくのか、うねうねと蠢く。

「ここが何処かわかんねーけど、可愛いわんこに仇なすものは俺の敵!」

 俺はコルト・ガバメントを構えると、蛇の頭に鉛玉を取り合えず三発ぶち込む。手応えあり。そう思ったのだが……蛇は蚊に刺されたかのような感覚なのか、鬱陶しげに俺の方を見た。

 嘘、銃弾が効いてないのかよ? 目覚めたときにチラッと嫌な考えが浮かんだが、どうやらそれは正解だったのかもしれない。

「まさかここって、異世界なのか? 俺、異世界に転移したって? はは、漫画やアニメじゃあるまいし」

 大蛇と巨狼、そして子狼の視線が俺に向けられた。この中で一番の弱者は多分、俺だ。やべ、真剣に死を覚悟した。一日に二度も死を身近に感じるなんて、夢なら醒めて欲しいよ、まったく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。 どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。 現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。 傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。 フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。 みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。 途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。 2020.8.5 書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。 書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第一章レンタルになってます。 2020.11.13 二巻の書籍化のお話を頂いております。 それにともない第二章を引き上げ予定です 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第二章レンタルになってます。 番外編投稿しました! 一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*) 2021.2.23 3月2日よりコミカライズが連載開始します。 鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。 2021.3.2 コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。

Weapons&Magic 〜彼はいずれ武器庫<アーセナル>と呼ばれる〜

ニートうさ@秘密結社らびっといあー
ファンタジー
魔法!努力!勝利!仲間と成長する王道ファンタジー! チート、ざまぁなし! 努力と頭脳を駆使して武器×魔法で最強を目指せ! 「こんなあっさり死んだら勿体ないじゃん?キミ、やり残したことあるでしょ?」 神様にやり直すチャンスを貰い、とある農村の子アルージェとして異世界に転生することなる。 鍛治をしたり、幼馴染のシェリーと修行をして平和に暮らしていたが、ある日を境に運命が動き出す。 道中に出会うモフモフ狼、男勝りなお姉さん、完璧メイドさんとの冒険譚! 他サイトにて累計ランキング50位以内獲得。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルピアにも掲載しております。 只今40話から70話辺りまで改修中の為、読みにくいと感じる箇所があるかもしれません。 一日最低1話は改修しております!

就職したらお掃除物件に放り込まれました

白野よつは(白詰よつは)
キャラ文芸
 大学四年の野々原三佳は、昔からプチ不幸を招きやすい体質の持ち主。バイト先ではことごとく厄介な客が現れるせいでクビになること二十数回で、卒業を間近に控えた時期でも就職先が決まらない。  けれど、ダメ元で面接を受けに行った『早坂ハウスクリーニング』では、なぜか自己アピールも無しに一発採用が決まって……?  しかも、所長の早坂慧の正体はオオカミのあやかし!?  あやかし、幽霊、動物霊……彼らの〝思い〟を〝掃除〟することを夜稼業としている職場は今日も危険と隣り合わせ。  オオカミのあやかし×憑かれ体質の一般女子コンビの、お仕事ライトホラー。

後宮の才筆女官 

たちばな立花
キャラ文芸
後宮の女官である紅花(フォンファ)は、仕事の傍ら小説を書いている。 最近世間を賑わせている『帝子雲嵐伝』の作者だ。 それが皇帝と第六皇子雲嵐(うんらん)にバレてしまう。 執筆活動を許す代わりに命ぜられたのは、後宮妃に扮し第六皇子の手伝いをすることだった!! 第六皇子は後宮内の事件を調査しているところで――!?

Ω令息は、αの旦那様の溺愛をまだ知らない

仁茂田もに
BL
旧題:ローゼンシュタイン伯爵夫人の王太子妃教育~不仲な夫と職場が同じになりました~ オメガの地位が著しく低い国、シュテルンリヒト王国。 その王国貴族として密やかに生活するオメガ、ユーリス・ヨルク・ローゼンシュタインはある日、新しく王太子の婚約者となった平民出身のオメガ、アデル・ヴァイツェンの教育係に任命される。 王家からの勅命を断ることも出来ず、王宮に出仕することなったユーリスだが、不仲と噂されるユーリスの夫兼番のギルベルトも騎士として仕えることになっており――。 不仲であるとは思わない。けれど、好かれているとも思えない。 顔を会わせるのは三か月に一度の発情期のときだけ。 そんな夫とともにユーリスはアデルを取り巻く陰謀に巻き込まれていく。 愛情表現が下手くそすぎる不器用な攻め(α)×健気で一途なだけれど自己評価が低い受け(Ω)のふたりが、未来の王太子妃の教育係に任命されたことをきっかけに距離を縮めていくお話です。 R-18シーンには*がつきます。 本編全77話。 完結しました。 11月24日より番外編を投稿いたします。 第10回BL小説大賞にて奨励賞をいただきました。 投票してくださった方々、本当にありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

機織姫の婚姻状〜婚姻状は運命を変える〜

𦚰阪 リナ
恋愛
賀国の王都、金常。 城下町には機織姫、と呼ばれる機織り職人がいる。 その者の名は韋 春玉。明るく、誰にでも優しい性格で機織りの技術も凄く、誰からも信頼されている。ここが自分の生き場所だ、と深く確信していたある日、春玉が働いている店にやんごとなき身分の者が現れた。その者は賀国の第三親王、賀翔だった。 賀翔は賀国で女人の官吏(役人)になってくれる者はいないか探しており、ふらりと立ち寄ったこの店で働く春玉に一目惚れし、婚姻状を届けに来たらしい。でもこの人と結婚したらもれなく王族の仲間入り。しかも、この国の官吏になってほしいなどと、無茶ぶりを言ってくる。 だが断れば即死刑。 これからどうなっちゃうのー? 機織姫×親王の中華風ラブファンタジー!

魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
 曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

処理中です...