Δ 爪痕を残して

黒野すごろく

文字の大きさ
上 下
28 / 44
仲間のカタチ

28

しおりを挟む
視線を感じて顔を向けるとコルンスさんがもっと食べるかい?と聞いてきた。うんうんと頷き、おかわりもしっかりと完食した。
「じゃあ診断するから、そこに座っててくれる?」
診断?と疑問に思いながら大人しく座っていると、足元に魔法陣のようなものが現れた。
それと同時にコルンスさんの目の前に画面が表示され、何かを確認しているようだった。
体感としては特に感じるものもなく、しばらくしたら魔法陣は消えてしまった。
「ステータスに異常はなさそうだけど……このエラーは何だろう…?」
一番最後の項目に“Error”と表示されているのが俺でも確認出来た。
もしかしたら俺がヴェンくんと入れ代わってしまったことが原因なのかな、とも思えた。
「ヴェン、もし異常が起きたらちゃんと伝えるんだぞ?」
どうやって、とも聞くことが出来ずに俺は眉をひそめた。それが悲しい表情になっていたのか、軽く抱擁された。
上手く意思表示を伝える事が出来ないままの状態に俺は複雑な歯痒さを感じ始めていた。

普段、ヴェンくんとコルンスさんは平和に過ごしているらしい。それはまあ、そうなのかもしれないけど。
この世界に来た俺に比べたら、あまりにも状況に緊張が解けかけていた。
公園のような広場でフリスビーをただただ追いかけ、口でキャッチしてコルンスさんにお返しする。
犬である本能なのかは不明だが、苦ではないし風を切って走っている最中はワクワクするような感覚もある。
「楽しかったか?ちょっと休憩しよう」


弱い、弱いけれどしっかりと感じる。早く捜し出さないと心配だ
体が思うように動かない上にアイツ、めちゃくちゃにしやがって
どうでもよくないけどそんなことはどうでもいい、既に悪い状況には変わりない
「ん?…どういうことなんだ?」
わずかに感じた感覚を頼りに向かうと、そこは公園だった。遊んでいる連中はまあまあいる。
「…あの犬?狼か?…どっちでもいいが、あれが……?」
ずんずんと近付いてみると、飼い主の男が俺に気付いて不信感を露わにしながらこちらを窺っている。
「その犬…一体何なんだ?」
犬も俺に気付き、不思議そうな表情で座っていた。この犬が本当に…?
「いきなり何なんですか」

俺とコルンスさんの前に現れたこの男は耳からしてエルフなのだろうということは分かった。
しかしややチャラいというのかガラが悪いのか、そんな雰囲気だった。
犬から見ても背が高いというのは分かった。一部露出している衣服の隙間からは細身ではあるが筋肉もしっかり見える。
(なんだろう、また嫌なタイプのエルフだったりするのかな…)
コルンスさんの足元へ隠れるようにしてそのエルフを窺った。人間の時もそうだったけど、自分がいかに非力だということを実感させられる。
するとそのエルフはコルンスさんに向けて膝をついて頭を垂れた。
「悪ィ、その犬…いや、狼…さん……について、聞きたいことがあった」
「この仔はヴェンだ」
コルンスさんは俺を紹介しながらも俺の顔を撫で回した。気持ちはいいけど、ちょっとだけ複雑な思いになるのは否めない
「……最近おかしな事態に巻き込まれていたりしてないか?…オレはレイル、最近起きている奇妙な現象について調査している」
(レイル……レイル…!?…でも、こんなだったっけ……?)
彼は、レイルは俺が作った2人目のキャラクターだ。でも、こんな性格や見た目にはしていなかったような気がする。
もっと飄々とした印象で、俺とは正反対のイメージでキャラメイクしたはずだった。
「……やっぱりそうか」
俺を見てレイルは確実にそう言った。何かを感じ取ったのだろうか、俺には犬になったことですら理解出来ていないのに
それでも俺が彼らの云う主人プレイヤーとして認識したなら、この状況をどうにかしてくれるかもしれない
「すまないが説明してくれ、あとこの仔は渡さないぞ」
キッとコルンスさんは彼を軽く睨む、レイルは苦笑しながら顔を振った。
「オレは全てを知っている訳じゃないが、1つだけ確実な事がある」
今度は彼がコルンスさんを睨んだ。間を置いて、彼は息を吐いた。
「中身はそのヴェン、とやらではないってことだ」
「……何をふざけたことを言っている?からかっているのか」
「テメェこそバカにしてんのか?…俺の主人を犬にしやがって」
今にもブチ切れそうな様子のレイルに俺は間に入って軽く鳴いた。どうして仲裁ばかりする場面になるんだ!?
(それにしても短気すぎない…!?俺だって意味分かってないのにコルンスさんが分かる訳ないじゃん)
コルンスさんは首を傾げた。何を言っているんだ?と不機嫌そうに答える。
「おっと悪ィ、アンタもこれを見ただろ?」
俺のステータスが表示され、コルンスさんが疑問に思っていた“Error”という項目を指差した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄ですか? 無理ですよ?

星宮歌
恋愛
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」 そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。 「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」 それはそれは、美しい笑顔で。 この作品は、『前編、中編、後編』にプラスして『裏前編、裏後編、ユミル・マーシャルというご令嬢』の六話で構成しております。 そして……多分、最終話『ユミル・マーシャルというご令嬢』まで読んだら、ガッツリざまぁ状態として認識できるはずっ(割と怖いですけど(笑))。 それでは、どうぞ!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

処理中です...