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あなたの大切な人になりたかった
しおりを挟む言葉足らずなときがある美形α×普段は憎まれ口を叩くけど本当は寂しがりやな平凡Ω
____________
「いったん頭冷やせ。俺はもう行く」
バタンっと扉が閉まる音がした。
榊さんに捨てられた。
だろうなって思った。
俺でもこんなやついたら捨てる
我が儘で失敗ばかりで、榊さんの役に立ったことなんて1つもない
わかってたことなのに扉の前から動けない。
俺は…一歩も動けなくなってしまった。
1歩も…踏み出すことができない。
ただでさえ、出来損ないなのに…どんどんダメな人間になっていく…
何もいらない、何もできない、何も…何も…
___________________
俺はあの日から眠れなくなった。
ただ、眠るだけ、それすらできなくなってしまった。
それからご飯も食べられなくなった。何を食べても味気なくて食べるのをやめてしまった。
我が儘で何もできない俺はついに本当に基礎的な人間生活すら送れないやつになったらしい
惨めだな、そう思いながらも扉の前でいつも待ってしまう…
意識がぽうっとしてきた頃、扉が開いた。
きっと夢だろう…
だってここには、もう、誰も来ないから…
「なんでこんな汚くなってんだ、それにクセェな、おい、生きてんのか」
たぶん幻覚だろうな…
だって目の前に榊さんがいるわけない
榊さんが会いに来てくれるわけない
なんて…幸せな夢なんだろう
あまりにも嬉しくて俺は涙を流していた…
「おい、泣いてんのか。どうした。おかしいな。はぁ、仕方ねぇ。家に連れて帰るか」
それから榊さん(仮)は俺を抱き上げた。
「なんでこんなに軽いんだ。おい!ご飯は食ってたのか」
「……………」
「返事しろよ」
「………」
「返事できねぇのか」
俺が答えずにいるとそのまま榊さんは歩き出した。
エレベーターで下まで降りると車に乗せられた。
「シートベルトはできるか?」
俺がシートベルトをつけずにぼうっとしていると榊さんが手を伸ばしてシートベルトをつけてくれた。
「おい。本当に大丈夫なのか?……」
榊さんは考え込んだ様子で車のドアをしめて、反対側に行き、車に乗った。
それから車を発進させ、目的地に着くまで車内は無言だった。
車が止まるとかなり大きな屋敷があった。
「着いたぞ。降りれるか……降りれねぇよな」
そう言って榊さんはシートベルトを外して俺を抱えて歩き出した。
入り口にいる人に声をかけられた。
「榊さん…その方は…」
「俺の連れだ。丁重に扱え。三好はいるか?」
「いらっしゃいますよ、いつもの場所に」
「そうか。」
また歩き出して少し経つと
「おい三好!こいつの様子がおかしいんだ。診てくれ」
「相変わらず人使いがあらいねぇ~仁くんは…とっ、冗談はそのくらいにして…その子大丈夫か?痩せすぎじゃないか…?」
「だからお前に診せにきたんだろうが…」
「前からこんなに痩せてる子なのか?検査するからここに寝かせてくれ」
「いや、痩せてはいたがここまでじゃない」
「君、大丈夫か?返事できるか?」
三好?さんが話しかけてくれるが何だか話す気分じゃなくてそのまま黙ってしまった。
「おい!こんなになるまで何で放っておいたんだ!」
「そんなに怒んなよ。普段はこんなんじゃないんだ。憎まれ口叩くような元気なやつなのに…」
「いったん検査するからお前はでてけ」
「別に俺がいても問題ないはずだ」
「問題大有りだ。お前がいるとこの子も話しづらいかもしれないだろ。診察が終わったらすぐに呼ぶからさっさとでてけ」
「わかった。終わったらすぐ呼べよ」
そう言って榊さんは出ていってしまった。
榊さんが部屋を出ていくと、俺はまた涙が止まらなくなってしまった。
「君大丈夫か…。少し身体を診るな…いつから食べてないんだ。しかも寝てないだろう?……仁に言いづらいんだったら俺にだけでも話してくれないか」
三好さんは優しく問いかけてくれたけど、話す気になれなかった。
俺は…榊さんがまた出ていったことが悲しくて涙もまだ止まらずに
「さ…さか…きさんに…あ…あい…たい」
か細い声で言うことしかできなかった。
「仁に会いたいのか…ちょっと待ってて。今呼んでくるから…」
そう言って三好さんも出ていくと俺は疲れて眠ってしまった。
_________
榊さんと出会った日のことは今でも鮮明に覚えている。
俺は会社帰りに疲れてフラフラしていると人とぶつかってしまった。
たちの悪い人でぶつかっただけなのに、骨が折れただの何だのと言いがかりをつけられてしまった。
「おい!てめぇがぶつかってきてこっちは骨が折れたんだから慰謝料渡すのが当然だろうが!ああ?!早く金出せや!!」
「困ります!ぶつかっただけなのに…」
俺が困っていても周りは見て見ぬふりだった
「しかもお前Ωかよ!こりゃついてるわ!Ωは具合がいいらしいからな…こっちこい!」
「やめてください!離してください!」
手をつかまれて逃げられもせずにいると後ろから声がした。
「おい、何やってんだお前ら」
低音のドスの効いた声がした。
「いや、何でもないです!!!」
そう言ってあんなに絡んできた奴らはそそくさとどこかに行ってしまった。
「おい…大丈夫か?」
「大丈夫です!助けてくださってありがとうございます。」
「ならいいが、気をつけろ。この辺りは治安が悪いからな…お前Ωか」
「そうですけど…何か?」
「いや、番がいないなら首輪はしっかりつけろ。あと抑制剤も飲め。フェロモンでてるぞ」
「え…?首輪は今日たまたま忘れてしまいましたけど、抑制剤はきちんと飲んでますよ。フェロモンもでてないはずですけど…」
「そんなわけないだろ。かなり匂うぞ。気を付けろ」
そう言ってどこかに行ってしまった。
この間発情期も終わったばかりだし俺は人よりフェロモンも少ないからβだと偽っても誰にもバレたことはないのに…
気を付けよう…
そう思って数日経ってまた榊さんに出会った。
なぜかわからないけど道でまた出会った時、榊さんはラットになってしまって俺も触発されて発情してしまった…。
俺は憎まれ口ばかり叩いて全然可愛くないし、きっとこんなにも素敵な榊さんには大切な人がいるだろうに俺が発情してしまったばかりに番になってしまった…。
でもそんな俺を榊さんは週に1回は少なくとも会いに来てくれて俺は嬉しかった。
ご飯を食べたり色んなところに出掛けたりと本当に楽しかった…。
事故から始まったけどそれでも俺は…榊さんにどんどん惹かれていって気づいたら好きになっていた。
でも榊さんは美形で仕事もできる感じだし、モテないわけがない。
この間喧嘩して出ていっちゃったし、もう二度と会えないんだろうな。
だからこんな夢なんか見ちゃってるんだろうな。
でもよかったのかもしれない。
本当に俺がΩでよかった。もし…榊さんに大切な人ができたら榊さんは俺を捨てることができる。
番を解除すればいいだけだから。
副作用や最後にはどうなるかなんてわかってる。
でも榊さんには幸せになってもらいたい。
最初から…間違いから始まってしまったのだから。
番を解除されればもっと体調が悪くなるのかな…。
でも…逆に楽になれるかな…
榊さんに会えないならもうどうでもいいや…
_____________
三好に呼ばれてすぐに向かった。
そしたらあいつは泣きながら眠っていた。
「寝ちゃってたか~、まあ疲れてるみたいだしここのとこ眠れてないみたいだしね。たぶんご飯も食べれてなかったんじゃないかな。栄養失調に近い状態になってたし、睡眠不足でかなり目の下にもくまがあるからしばらく寝かせて起きたら胃に優しいものを食べさせたら大丈夫だと思うよ」
「助かった。」
「それにしても何でこんな状態になっちゃったんだ?心当たりはないのか?」
「いや…もしかしたら最近会いに行ってなかったからかもしれない」
「どのくらい会いに行ってなかったんだ…」
「さあ?1ヵ月くらいじゃないか…?」
「普段はどのくらい会いに行ってるんだよ」
「週に最低1回は行ってる」
「もしかしたら番との関係で何か体に変化があったのかもしれないな…。それにしても何でいきなりそんなに会わなくなったんだよ。別に最近は忙しくもなかったろ」
「いや…それは…あいつと喧嘩して会いづらかっただけだ」
「喧嘩してたのか…?ならなんですぐに仲直りしなかったんだよ」
「あいつ…無防備だから…なのにフラフラ色んなやつのところ付いていこうとするからそれで喧嘩になったんだよ…」
「お前…もしかして出てく時に何か余計なこと言ってねぇよな」
「言ってねぇよ。ただ頭冷やせって言って出てっただけだ」
「絶対それだぞ…、あのなぁ、Ωはαに捨てられたと思ったら体調は崩すし普通の生活はおくれなくなったりするんだよ…。」
「おい、俺は番の解除も何も行ってないんだから大丈夫だろ…」
「こういうのは…精神的なもんなんだよ。しっかりしてくれよお前…」
それから三好にこんこんと説教された。
__________
夜になるとやっとあいつが目を覚ました。
「おい、起きたか」
榊さんがいる…。そう思ったらまた涙が出てきた。
「泣いてんのか…俺が悪かったよ。だけどお前の行動を制限しようと思った訳じゃない。ただ危なっかしいから心配になっただけだ」
「ほ…ほん…とう…?ゆめ…じゃ…ない?さか…きさん…なの?」
「ああ、夢じゃない。それより腹減ってるだろ。今持ってくるから待ってろ」
「い…い。いらない…。さか…きさんこっちきて…」
そう言って俺は抱きついた。
そしたら榊さんもしっかりと抱き締めてくれた。
「痩せたな…」
「俺…てっきり ヒクッ 榊さんに…捨てられたのかと思った…ううっ」
「お前…俺がお前のこと捨てると思ったのか…そんなことするわけないだろ。俺の運命で俺がこんなにお前に会いに行くのは好きだからだ」
「本当…?」と榊さんを見上げた。
「ああ、本当だ。」
「嬉しい…まだ…俺と一緒にいてくれる…?」
「ああ、お前が嫌だと言っても離さないぞ。それに…痩せすぎだお前は。しっかり食え」
「ふふっ、わかった。来てくれて…ありがとう、榊さん」
「それよりそろそろお前は俺を下の名前で呼べ」
「いいんですか…?」
「いいに決まってるだろ」
「仁さん…仁さん」
「なんだ?」
「ただ名前を呼びたかっただけですよ…。あと俺のことも名前で呼んでくださいよ…」
「凛…お前は可愛いな」
「俺が可愛いですか…ありえないですね」
「俺にはお前が可愛くて仕方ないがな」
「もうっ!からかわないでくださいよ!」
「からかってなんかない。それにお前が離れろって言ってももう二度と離れたりなんかしない」
「ふふっ、俺も離れたりなんかしませんよ!」
そうして2人は喧嘩しても何しても…ずっと、ずっと…しわくちゃのおじいちゃんになるまでずっと一緒にいた…。
お互いにとってかけがえのない大切な人なのだと伝え合いながら…。
おわり
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