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第3章 学園に通おう

98話 計画続行

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 バナくんが使用人室に帰ってから、半刻くらい経った頃。

 ユニさんとモレスくんがテーブルについて報告会の参加者全員――家臣4人衆とユニさん、イヴァンさん、そしてクラウスさんが揃った。

「それでは、全員揃いましたし、本日の報告会を開催します」

 ヴィンターさんがユニさんとモレスくんの前にお茶とお茶菓子を置いたところでミゲルくんが宣言した。

「まずは、主さま、エミール様のご様子をお願い致します」

「えっと、それなんだけど……」

 最初に僕に振られることは分かっていたので、頭の中でまとめていたとおり今日あったことを話す。

「ということで、エミールくんを甘やかす計画は一切進んでません。
 えっと、これからどうしたものか悩み中です。ごめんなさい」

 バナくんにかき回されたせいで計画通りにいかなかったのは確かだけど、バナくんは完全に善意しかないから文句をいうわけにもいかない。

 バナくんをうまく誘導できなかった僕の責任だ。

「これからどう修正したほうがいいか……それとも修正しないでいくかみんなの意見が聞きたいです」

 僕の話を聞いて、みんなも考え込んでしまっている。

 最初に手を上げたのはミゲルくんだった。

「主さま、『修正しないでいく』という方針も選択肢にあげてましたけど、そこら辺もう少し主さまの意見を聞かせてください」

「いや、そこがまだ悩んでるところなんだけどね。
 もしかしたら、甘やかすんじゃなくって、今日みたいな方向もありかなーってちょっと思ってて」

「今日みたいなって言うと、エミール様に主さまのお世話をしてもらうことですか?」

 手を上げて聞いてくるメファートくんに頷き返す。

「うん。なんか、バナくんに振り回されて大変そうだったけど、ちょっと楽しそうだったんだよね、エミールくん。
 だから、これはこれでありかな?ってちょっと思ったんだ」

「そうですね、実験のときにもバナと一緒にエミールがハルのお手伝いしてましたけど、たしかに少し楽しそうに見えました」

 そうなんだよね、僕と一緒に歩いたりしている時は、他の使用人さんを気にしてオドオドしてるんだけど、僕のお世話しているときはそれに頭いっぱいって感じで他のこと気にしている余裕ないみたいだし、ちょっと楽しそうにすら見えた。

「……確かに、エミール様は幼少の頃より年下の者や老齢の使用人などの世話をなさるのがお好きなお子でございました。
 自分が世話を焼かれるより、世話を焼く側に回ったほうが性に合うということはあるかも知れません」

 控えめに手を上げたクラウスさんも同意してくれてる。

「ただ、今日も最後の方は疲れて眠そうにしていたし、無理させるのもどうなのかなぁとは思う」

 寝る前は目がしょぼしょぼしてきてる感じだったからなぁ。

 隣にいたバナくんより眠そうだった。

「それについては、眠くなるということはそれだけ状況が改善していると考えることも出来ると愚考いたします。
 戦場帰りのもので心を痛めてしまったものなどは眠ることすらできなくなるものが多くおりました」

 そっと手を上げたイヴァンさんの話に、クラウスさんがウンウンと頷いている。

 イヴァンさんだけでなく、クラウスさんもどういう経験を積んできているんだろう……。

「確かに、エミールを預けていた家では『眠れなくなるほど反省している』と自慢気に話していましたね」

 ……いや、本当に大丈夫なのその貴族さん?どっか壊れちゃってない?

 ユニさんも苦笑いしてる。

 まあ、それはともかく、クラウスさんたち曰く、昨日はお香で眠るまでは寝る様子がなかったらしいし、いい傾向と言えばいい傾向なのかもしれない。

 でも、あんまり無理させるのはなぁ……。

 甘やかすのが専門な僕としては、どうにも踏ん切りがつかない。

「ハル、エミールをよく知るクラウスも賛成してくれてますし、ここはしばらくこのまま様子を見てみては?
 クラウスと、カミラにも話を通してエミールの様子に変化がないかよく見てもらうということで」

 ユニさんの言葉に、クラウスさんも僕を見て頷いている。

 ……なら、とりあえずこのままやってみるか。

「分かった、それじゃ、僕はこのまましばらくエミールくんにお世話してもらうね。
 なにかちょっとでも気になることがあったら言ってください」

「はい。もちろんでございます」

「みんなも、何か思ったことがあったらよろしく」

 僕の言葉を聞いて、しっかりとうなずいてくれる参加者たち。

「さて、では、続いて私の方から人材登用について」

 エミールくんの件にひとまず結論が出たので話を進めるミゲルくん。

 えっと、ミゲルくんは新しい使用人や家臣を探しに行ってくれてるんだよな。

 クラウスさんやカミラさんみたいな緊急の採用じゃなくって、一般的だけど時間のかかる採用活動をしてくれている。

「私の方ではクラウスに協力してもらい旧スカルドーニ家の元家臣や元使用人に声をかけてみています。
 当家がエミール様とクラウスを擁していることもあり、幸いなことに反応は良く、今日だけでも使用人2人、家臣1人の内諾を頂いています」

「え?もうそんなにオッケーくれた人いたの?」

 人集めはもっと時間がかかるものと思っていたから、1日で3人も集まるとか驚いた。

「えっと、それについて私の方からハルに報告が……」

 ユニさんが手を上げて発言するけど、僕とは目を合わそうとしてくれない。

 ははーん、悪い話だな、これ。

「あの……旧スカルドーニ領の村ひとつをサクラハラ家に加増させてもらいました」

 なにやってんのっ!?

 ……って、一瞬驚いたけど、話の流れからして。

「えっと、スカルドーニ家の人を雇いやすくするため?」

「はい、一部とは言え旧スカルドーニ領を領有しているかどうかはスカルドーニ家に仕えていた方々には大きな影響を与えますから。
 勝手ながら、私の方からユニコロメド様にお願いいたしました」

 ユニさんじゃなくって、ミゲルくんが答えてくれた。

 珍しくユニさんが申し訳無さそうにしていると思ったら、ミゲルくん発案か。

「……さっきの話からすると、結果はいい感じだったんだ?」

「はい、今日の方々も最初は渋っていましたが、旧スカルドーニ領を一部領有していることを話しましたら承諾をいただくことが出来ました」

 むぅ、効果が出ているなら仕方ないか。

「分かったよ。
 でも、これからは僕に報告してからにしてね?」

「承知いたしました」

「ごめんなさい、ハル」

 ユニさんもミゲルくんも素直に頭下げてくれるけど……どこまで本気で分かってくれてるかなぁ。

 ユニさんは『お家のためなら当主は我慢すべし』って考えの人だし、ミゲルくんはミゲルくんでそういうけがあるからなぁ。

 まだそこらへんの貴族様の感性はよく分からないや。

 まあ、僕のためにならないことはしない、っていうのは分かってるからそこまで深く気にしないけどさ。

 たまに知らないところで物事が動いててびっくりする。

「今後も、ひとまずは王都に残る旧スカルドーニ家の者たちを中心にあたっていくつもりです。
 私からは以上です」
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