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第3章 学園に通おう

88話 顔合わせ

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 クラウスさんたちに奴隷印を施してもらって、今回も奴隷商さんちの馬車で送ってもらった。

 一応ユニさんと打ち合わせ済みとはいえ、スカルドーニ家の人を買ったってことをどこまで大っぴらにして良いのかわからなかったから、念のためだ。

 バナくんの時もバナくんに犯罪者印が付いてるからって送ってもらっちゃったし、毎回迷惑かけてしまって申し訳ないって言ったんだけど……。

 おかげでモノケロス家出入りの奴隷商というイメージがついて、かえってありがたいと言われてしまった。

 ユニさんに迷惑かけてるかもしれない……。

 あとで謝っておこう。

「ところで、クラウスさん」

 馬車の中で取り急ぎ必要で外でできる説明は終わらせて、そろそろ屋敷に着くということでちょっとした雑談タイム。

 色々クラウスさんやカミラさんのことを聞いている。

「はい、なんでしょう、ご当主様」

 『ご当主様』とは僕のことだ。

 ハルと呼んでと言ったんだけど、これだけは頑なに固辞された。

 ミゲルくんたちもツヴァイくんたちも、お仕事のときは『主さま』『お館様』だしそういうものなんだろう。

「エミール様ってどういう方なんでしょうか?」

 ユニさんだけは会ったことあるらしいけど、サクラハラ家の誰一人としてエミールくんを直接知らない。

 ミゲルくん達、もともとユニさんちの使用人だった子たちは名前くらいは知っているらしいけど、それだけだ。

 まあ、すぐに会うことになるんだけど、せっかく小さい頃から知っている人達がここにいるんだし少し聞いてみよう。

「若様……いえ、エミール様でございますか」

「別に若様でかまいませんよ」

 呼び慣れてるんならそれで全然ない。

 そう思ったんだけど、クラウスさんは首を横に振った。

「思わず出てしまいましたが、これはけじめでございますので。
 気をつけます」

 まあ、そういうものか。

「さて、エミール様でございますが、身内びいきとなってしまいますが、幼い頃から大変可愛らしく、とても活発でハツラツとしていらっしゃって、聡明で、お優しく、スカルドーニ家家臣一同自慢のご子息でございました」

 自分の子供か孫のことのように誇らしげに話すクラウスさん。

「しかし、あまりに活発すぎて少しやんちゃと言えるところが玉に瑕でございます」

 そういうカミラさんも嬉しそうに笑ってる。

 家臣の人たちにこれだけ愛されているんだ、きっといい子なんだろう。

 ユニさんも言ってたけど、可愛い子らしいし。

 うん、まあ、その。

 楽しみですっ!

 その後は屋敷に着くまでエミールくんのやんちゃエピソードを聞かせてもらった。

 本当に会うのが楽しみだ。



 ――――――



 屋敷について、エミールくんとの顔合わせと言うことでおめかししてユニさんとエミールくんの帰りを待っている。

 夕食前には帰ってくるって話だったのに、なかなか帰ってこない。

 僕のおめかしも、クラウスさんたちの着替えも済んで、それどころかもう夕食まで食べてしまったのに2人はまだ帰ってこない。

「まだかなぁ……」

 僕のつぶやきももう何度目か分からない。

 もしかしたら歓待されて遅くなっているのかもしれないけど……予定が遅れるときはたいてい悪いことが起こってる。

 クラウスさんたちをはじめサクラハラ家の面々も不安げだ。

 また不安の声が漏れそうになったところで、ドアが開いてドア番のノインくんが入ってきた。

「お館サマ、ユニが帰ってきたようデス」

 ようやく帰ってきた。

 思わず出迎えに行こうと腰を上げかけちゃうけど、ここは我慢だ。

 エミールくんを預かる側としては、今のところ唯一の『サクラハラ家』であるこの部屋で出迎えたほうが良いらしい。
 
「ありがとうノイン。
 そのうちここに来るだろうから、そのときはお通ししてね」

「かしこまりマシタ」

 頷いてドアの外に戻っていくノインくんの背中を見送る。

 さていよいよとなって緊張してきたぞ。

 本当になんで遅くなったんだろう?

 良い事ならいいんだけど……。

 その事も緊張をさらに増させる。

 まあ、とにかくユニさんとエミールくんが訪れるのをまとう。



 ……。

 遅いな。

 ユニさんたちが帰ってきたって聞いてからもう3刻位経った。

 そろそろ寝る時間も近づいてきている。

 着替えとかで身だしなみを整えているのかもしれないけど、流石に遅すぎる。

 今日のところは中止するならするでユニさんから連絡があるだろうし、一体どうしたんだろう?

 部屋には不安が満ちていてみんな小声で話したり、顔を見合わせたりしている。

 始めのうちはなんとか無表情を保っていたクラウスさんとカミラさんも今はオロオロと狼狽えてしまっていて、見ていてこちらが心苦しいくらいだ。

 いい加減、こっちからユニさんに聞いてこようか。

 そう思ったところで、ドアが開いてノインくんに続いてユニさんとイヴァンさんともう一人が入ってくる。

 ユニさんに促されるようにして入ってきた彼がエミールくんなんだと思う。

 短い明るい茶髪をした、よく日に焼けた肌をしている子で、可愛いとかっこいいの中間みたいな整った顔をしている。

 僕よりちょっと大きいくらいの身長で、ヒューマン種だって言うから多分大きくも小さくもないんだと思う。

 特徴は聞いていた通りのエミールくんなんだけど……。

「ハル、彼がハルに預かっていただくエミール・スカルドーニです。
 エミール、この人がハルマサ・シヴ・サクラハラ卿です。
 ご挨拶を」

 ユニさんに紹介されて、挨拶を促されたエミールくんだったけど、キョロキョロと視線を彷徨わせるだけで僕のことを見ようともしない。

「エミール、ご挨拶を」

「はいっ!申し訳ありませんっ!!すみませんつ!すみませんっ!」

 再度ユニさんから優しく挨拶を促されたエミールくんは、今度は口は開いたけど、ただひたすらユニさんに謝るだけだ。

 こ、これは……?

 ちらりと見ると、クラウスさんたちも呆然とした顔をしていた。

「エミール、私は良いですから、ハルにご挨拶を」

「は、はいっ!も、申し訳ありませんっ!」
 
 ユニさんに優しい声で3度促されてようやく僕のことを見るエミールくん。

 だけど僕と目が合うと、すぐに大きく目をそらしてしまう。

 そうして、斜め下、地面の方を見ながら口を開く。

「エ、エミール・スカルドーニと申します。
 この度は皆様に御迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。
 父母の罪を誠心誠意償っていきますので、なにとぞなにとぞご寛恕の程を……」

 早口で言い切ると、深く頭を下げて、そのまま上げようとしない。

 ハツラツとして活発、悪く言うとやんちゃ。

 クラウスさんたちから聞いていたイメージが欠片もない。

 常におどおどキョロキョロとしていて笑顔なんてひとつもない。

 思わずユニさんの顔を見ると、ユニさんは沈痛な面持ちでエミールくんのことを見てた。

 どうしちゃったの?この子?
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