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第3章 学園に通おう

83話 子供

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「ごめん、僕の考えが足りなかった」

 イヴァンさんの言葉で頭が冷えたので、ユニさんとイヴァンさんに頭を下げて座りなおす。

「いえ、私も酷いことやってるなーとは自分で思いますから」

 濃い苦笑いを浮かべながらそういうユニさん。

 そうだよな、ユニさんだってやりたくてやってるわけじゃないよな。

 ほんと、ごめん。

「しかし、それでなぜ当家でご子息を預かることになるのでしょう?
 一応、話は解決しているように聞こえますが……」

 自分の考えの至らなさにションボリしてしまった僕の代わりに、話を引き継いでくれるメファートくん。

 ありがとう。

 そして、情けないところ見せてごめん。

「まず、サクラハラ家に預けるひとつ目の理由ですが、ご子息の待遇改善の為です」

 待遇改善?

 遠いとは言え親族に預けられてるって言ってたけど……。

「……あー……厄介者扱いされてるとか?」

 苦笑しながらうなずくユニさん。

 ユニさんの怒りを買っている家の子って状況だからなぁ。

「今後のことを考えて私への忠誠心の高い家に預けたのですが……。
 預けた家自体遠縁とは言え反逆者扱いされている家の親族であることと、私への忠誠心が変なふうに作用しちゃってみたいで、ご子息は今ほぼ軟禁状態だそうです」

 あらら。

 それはまた可哀想なことに。

 ただでさえとばっちりに近いのに、いくらなんでもそれは……。

「ええ、私もそう思います」

 顔に出ていたのかユニさんも頷いてる。

「確かに反逆を企てた者の一族と考えれば軟禁も妥当ではあります。
 ただ、取り潰し自体私の本意でなかったことですし、流石に心苦しくって……」

 スカルドーニさんちについてはちょっと話が悪い方に転がりすぎてるもんなぁ。

「そこで我らの救世主、愛するハルの出番です。
 ご子息の待遇改善のために、サクラハラ家で預かってください。
 お願いします」

 テーブルに手をついて頭を下げるユニさん。

 その子のことは可哀想だし、ユニさんも困ってるみたいだし、引き受けるよ。

 そう言おうとしたところをモレスくんに手で制された。

 どしたの?

「モノケロス卿にお伺いします。
 スカルドーニ家のご子息をお預かりするのは、当家にとっても負担が大きいですが、その補填はどうお考えでしょうか?」

 そ、そうか、このままじゃ僕はユニさんに厄介事を押し付けられるだけだ。

 僕個人としてはそれで全然問題ないけど、サクラハラ家としてはそうはいかない。

 厄介事を引き受けるからにはなにか対価を貰わないと、迷惑をかける家臣たちにお詫びも出来ない。

 さすがモレスくん、ありがとう。

「まずは十分な額の養育費をお約束いたします」

 なるほど、養育費か。

 当然色々お金がかかることになるからそれはありがたい。

 ……ユニさんの言う『十分な額』がちょっと怖いけど。

 額次第では、もう対価はこれだけでもいい気がする。

「そして、ご子息を預かることはサクラハラ家にとっても利点のあることだと思います」

「利点?」

「まずひとつ目の利点として、スカルドーニ家の跡取りと忠誠心あふれる家令であったクラウスを擁することで、元スカルドーニ家の家臣や使用人を集める名分が立ちます」

 あー、ご子息とクラウスさんいるからうちで働かない?って誘うのか。

 なるほど、人手不足のうちとしてはありがたい。

「しかし、それではサクラハラ家がスカルドーニ家に乗っ取られてしまうのではないですか?」

 ……確かにメファートくんの言うことも一理ある。

 人数の少ないサクラハラ家に、スカルドーニ家の人ばっかり集めたら実質的にスカルドーニ家になっちゃうような……。

「ある意味それが狙いであり、2つ目の利点でもあります」

 はぇ?

 乗っ取られるのが狙いで利点ってどういう事?

 僕と4人衆全員が不思議な顔でユニさんを見てる。

「いや、これはイヴァンの発案なんですけどね」

 なるほど、イヴァンさんの案なのか。

 愛する家臣たちの顔を見回す。

 みんなおんなじ意見のようでうなずき返してくれる。

「「「「「分かりました」」」」」

「いや、話くらい聞いてからにしてくださいよ」

 苦笑しているユニさん。

 えー、だってイヴァンさんの案だよ?

 問題があるはずがない。

「いや、まあ、私もいい案だと思いますけど、一応話は聞いてください」

 そこまで言うってことは相当大事な話なんだろう。

「それじゃ……。
 乗っ取られるのが狙いで利点ってどういうことですか?」

 たしかに不思議な話ではある。

「まず乗っ取りに関してですが、実のところそれほど心配は有りません。
 雇うのは当主を諌めた者たち……私に対する忠誠心の厚い者たちですから、ハルの家を乗っ取って私に反旗を翻すようなことはないでしょう」

 なるほど、たしかにそれはそうか。

 元子爵さんと同調した人たちを雇うわけにいはかないし、雇おうとも思わないからなぁ。

「もし、そういう事態になるとしたら、預かったご子息とハルの関係が修復不可能なほどに悪くなった場合ですが……。
 まあ、これはハルでしたら問題ないでしょう」

 えっと……期待に応えられるように頑張ります。

「一応お伝えしておきますと、なかなか可愛い子ですよ、ご子息……いえ、エミールくん」
 
 それは必要な情報なのかな?

 ……僕の場合必要か。

 極力近寄らないように……いや、預かっている身としてはそれはだめか。

 惚れっぽいからなぁ、僕。
 
 間違いを起こさないようにしよう。
 
 ……頑張る。
 
「乗っ取りの心配が薄いことはわかりましたが、それだと乗っ取られることが利点という話と食い違いが出ます。
 どういうことなのでしょうか?」

 それかけた話をメファートくんが戻してくれる。

「そこがイヴァンの案の肝でして。
 スカルドーニ家に乗っ取られることはありませんが、確実に家の中のスカルドーニ色は強くなります。
 その事によって、後々エミールくんが家を再興する助けとなります」

 スカルドーニ家の家臣さんやら使用人さんやらが集まってるんだからそりゃそうか。

 なるほど、スカルドーニ家を再興することまで盛り込んで僕にエミールくんを預けようっていうのか。

「そして、これが2つ目にして最大の利点です。
 サクラハラ家イコール、スカルドーニ家に近い状態を作ることで、ハルが男爵をやめたくなった場合エミールくんを養子にすることでハルは引退することが出来ます。
 完全に平民と同じとはいえませんが、引退すれば少なくとも貴族のしがらみからは開放されますよ」

 お、おおう?
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