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第3章 学園に通おう

81話 怒り

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「えっと、ユニさん、ごめん、イマイチ状況がわかんないんだけど……。
 とりあえず今良くない状況って認識は合ってる?」

 僕の言葉にユニさんとイヴァンさんは顔を見合わせる。

「いえ、むしろ渡りに船といいますか、私としては助かる状況になりました」

「ええっと?」

 ユニさんの怒りを買っている人をユニさんの愛人である僕が買おうとしちゃってるんだけど……。

 これがいい状況って?

「まず大本の話なんですが、私今回の件はここまで大事にするつもり無かったんですよ」

 苦笑をしながらそういうユニさん。

「大事にするつもりなかったって……お取り潰しにする気はなかったってこと?」

「はい、そうですね。
 私としては、現当主並びに共謀していた奥方には隠居して王都に住んでもらって、新当主にはまだ若い息子さんについてもらって、後見人として私の家臣送り込んで乗っ取り完了って目論んでました。
 後々、私に都合のいい貴族の娘さんと結婚でもしてもらって子供でも出来れば言うことなし、といった感じでしょうか」

 お、おおう。

 ユニさん、思ったよりあくどいこと考えてた。

 こんな事考えているユニさんが、夜はすごいかわいい……少し興奮してきた。

 いや、そんなこと考えている場合じゃない。

「それじゃ、なんでこんな事に?」

 ユニさんの苦笑いが深くなる。

「いやぁ、隠居して新当主という話の時に継母が悪あがきを始めまして……。
 あれやこれやと話がこじれていくうちに、いつの間にやらそんな事に」

 あ、あのババアのせいか……。

「いや、継母も実家が絡んでる件だっただけに必死だったんだと思いますよ。
 ただ、その必死さが悪い方に悪い方に働いて……」

 苦笑いしながら、ババアをフォローするユニさん。

 まあ、実家の言いなりらしいし必死になるのも分からなくはないけどさぁ。

 そのせいで罰が重くなった子爵家の人達が可哀想だ。

「話にあったクラウスという家令や、他にも多くの家臣たちが当主を諌めたといいますから、その言葉を聞かなかった当主に同情の余地は有りませんけどね。
 当主や奥方、それに賛同した家臣はともかく、その他のまともな家臣たちやなにも知らなかったご子息や使用人は完全なとばっちりです。
 まあ諌めきれなかった罪と言われてしまうと、どうしようもないですが……と言うか、世間では私がそういった事になってますね」

 な、なるほど、噂が独り歩きしている系の話だったのか。

「それじゃ、ユニさんが許します的なことをいえば解決ってこと?」

「それがそうもいかなくて。
 実際処分は私が激怒しているとしか思えない重たいものですし、これで中途半端に私が許したとなるとまた継母が騒ぎ出しちゃいますから」

 あー……。

 何かと面倒くさいなぁ、ババア。

「でも、そうなると、やっぱり僕とクラウスさんに面識ができちゃったのはまずかったんじゃ……」

 ユニさんの怒りが――表向き――解けないんじゃ僕が雇うってわけにはいかないし、そうなると奴隷商さんがなにか工作をしてくるかもしれない。

 いや、奴隷商さんもそこまであくどい事はやらないとは思うんだけど、まだまだ得体が知れないからなぁ。

 ちょっと信用もしきれない。

 なんとかうまいこと断らないと……。

 そこまで考えていたのに、ユニさんに完全に否定された。

「いえいえ、むしろここでハルの出番なんですよ」

 はぇ?

 どゆこと?

「先程も言ったとおり、私も意図して科した罰じゃありませんし、なにか出来ることはないかと思ってたんです。
 でも、罰を科したものとしては直接は何にも出来なくて。
 うちの家臣や寄り子たちについても跡取りである私が怒っている以上、子爵家にはアンタッチャブル状態ですし。
 もうこれは父に頭下げるしかないかな?と考えてたところだったんですが……。
 いやぁ、そうですよ、アンタッチャブルにはアンタッチャブルをぶつけましょう」

 え?晴れやかな顔しているところ悪いけど、まだ僕よく分かってない。

 ユニさんの家の人達がスカルドーニ家の事に触れられなくなってたのは分かったけど、それなら僕も触れちゃまずいんじゃないの?

「ハルならスカルドーニ家に手を差し伸べても、『また変なことやってるよ』ってみんな苦笑で済ませてくれますっ!」

 おいこら、ユニさんちで僕の扱いそんななの?

「そんな感じでございます」

 なにも言ってないのにイヴァンさんに肯定された。

 そうですか、そんな感じですか……。



 とりあえずユニさんの肩の荷を下ろす手伝いができるらしい。

 そう思うことにしよう。

「それじゃ、僕んちでクラウスさん雇っちゃってもいいの?」
 
「ええ、もちろんです。
 むしろ私からもお願いします」

 結構真面目な顔で頭まで下げられた。

「ハルの家でスカルドーニ家の者を拾ったとなれば、その程度には私も彼らを見逃しているというアピールになります。
 特に家令のクラウスといえば当主の無謀を先頭に立って諌めようとしていた者です。
 彼が見逃されたとなれば、元家臣、特に我が家に忠実だった者たちへの風当たりも、少しはましになるでしょう」

 なるほど、そういう宣伝装置として利用しようってことか。

 そういうことなら僕も大腕を振ってクラウスさんたちを雇うことが出来るな。

「坊ちゃま、この際でございますし、ご子息の件もサクラハラ家にお任せしてはいかがでしょう?」

「え……?
 …………ああ、なるほど、そうですね、サクラハラ家に預けるのが1番都合いいかも知れませんね」

 なんかユニさんとイヴァンさんの間で話が進んでる。

「あのー、サクラハラ家当主が話し分かってませんよー」

 今までなら僕の運命ごとき好きにいじってくれと拗ねてたところだけど、今の僕は曲がりなりにも何人かの生活を預かっているという自覚も出てきた。

 聞き流す訳にはいかない。

「ああ、ごめんなさい。
 あまりにも都合がいいので、そのつもりになっちゃってました」

「申し訳ございません、サクラハラ様」

 2人して頭を下げてくれる。

「いや、どうせ僕に分かる話じゃないから、ユニさんが決めてくれたとおりにするけどさ。
 僕にはミゲルくんたちもいるし、覚悟を決めるためにも話だけは聞かせてほしいな」

「ほんと、ハルの言う通りです。
 すみませんでした。
 この際ですから、ミゲルたちにも集まってもらって、正式にモノケロス家からの依頼として話しをさせてもらいましょうか」

 な、なんか話が大きくなっちゃったぞ。

 でも、これが一応とは言え男爵家当主である僕のやらなきゃいけないことだ。

 ……なんかだんだん男爵から逃げられなくなってる気がする。
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