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第3章 学園に通おう

80話 値段

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 何とも言えない表情になってしまった僕に、奴隷商さんは紅茶を一口飲んで話を変えてくる。

「話はそれますが、経済奴隷、特に借金が払えずに経済奴隷になった商品の値段がどのように決まるかご存知ですか?」

 借金のカタの人の値段?

 そういえばどうやって決まるんだろう?

 借金の値段?

 知らないので首を横に振って答える。

「まず借金を払えなくなった者を商品として仕入れる場合、我々が商品の負っていた借金を肩代わりし仕入れることになります。
 そして、その商品を売りに出す場合のお値段ですが、肩代わりした借金の金額に我々の利益を上乗せした額が最終的なお値段となります」

 なるほど、そりゃ、奴隷商さんの利益も乗っかってるよな。

「……あれ?それだと、あの2人の借金って2人合わせて金貨50枚以下ってことですか?」

 もっといえば、借金の額に奴隷商さんの利益が乗っかってるんだから、借金自体は金貨50枚よりもっとずっと少ないはずだ。

「そこら辺が我々が商売をしていく上でのテニックでございまして」

 そう言って、もったいつけるように紅茶をひとくち飲む奴隷商さん。

 なるほど、企業秘密ってわけか。

 確かに奴隷さんたちの値段にかかわることだから、客に教えちゃまずいよな。

「あの2人の仕入れ額は金貨10枚でございました」

「え?教えてくれるの?」

「サクラハラ様にお隠しすることなどなにもございませんが?」

「え、ならさっきの意味ありげな間のとり方は……」

「気のせいでございましょう、ただ喉が渇いただけでございます」

 シレッとした顔で言う奴隷商さん。

 からかわれてる……。

 思わずジト目になるけど、それより気になることがあった。

「2人の仕入れ額、金貨10枚って少なすぎません?
 借金払えないから奴隷になったんですよね?」

 一般的な平民さんの年収が金貨30枚って言ってたから、平民さんでも頑張れば支払える額だ。

 利息で増えたりするとしても分割でもそう長いことかからずに払えたんじゃないだろうか?

「そこが、先程も申しました通り我々奴隷商の腕の見せ所でございまして。
 まず、あの2人が負っていた借金は2人合わせて金貨1,000枚ほどでございました」

 金貨1,000枚っ!?

「タイミングの悪いことに、大口の取引が入ったところだったようでございます」

 うわぁ……ついてない。

「で、でも、なんで金貨1,000枚が、急に金貨10枚に?」

 一気に100分の1だ。

 なにがあったらそうなる。

「借金の肩代わりをする場合、借金の金額そのままを肩代わりするということはまずございません。
 借金を支払わせるのを諦めて我々に売りに出すということは、その商品にはその金額分の価値はない、ということでございますからな」

 なるほど、たしかにそのとおりだ。

「え?それじゃ、クラウスさんたちには金貨10枚の価値しか無いってことですか?」

 そんなバカな。

 見るからに有能そうな人たちだったし、実際有能だから家令とかもやってたんだろうし。

「さようでございます。
 あの2人は、生涯かけても金貨10枚は稼げないだろうと判断されたのでございます。
 今後一生、2人を雇うところはないだろうと」

 『なんで』と言いかけて口をつぐむ。

 そうか、ユニさんに目をつけられると思ってか。

「なにせ、スカルドーニ家関係者は我々奴隷商ですら買い取りを拒否するくらいでございますからな。
 私も彼らを買うといったときは同業者から気が狂ったのかと言われたものでございます」

 そ、そこまで……。

「ということで、お安くいたしますので、サクラハラ様にお買い上げいただけないかと」

 ニコニコ笑顔でそういう奴隷商さん。

「あ、あの、僕ユニさん……モノケロス家の関係者なんですけど……」

「よーく存じ上げております」

 よーく存じ上げられてた。

 ニコニコ笑顔を崩さない奴隷商さんに引きつった笑いを返す。

 流石に僕だけじゃ決められない。
 
「お、お家に帰って親とよく相談してみます……」



 ――――――



 屋敷に帰って1番にイヴァンさんにユニさんの居所を聞くと、今は執務室で仕事中というので急いで駆け込んでいく。

 仕事中に良いのかな?と思ったけど、イヴァンさんがいいって言ってるんだから、大丈夫なんだと思う。

「ユニさん、僕やらかしたっ!」

 執務室に入るなりそう叫ぶ僕をユニさんは驚いた顔で書類から顔を上げて見て、僕に抱っこされながらチュッチュッと僕の顔中にキスしているバナくんを見て2度驚いてた。

「おかえりなさい、ハル。
 確かにやらかしましたね、流石にそれはダメだと思いますよ」

 キスをやめようとしないバナくんを見てからかうように言うユニさん。

「い、いや、これはね……」

 いや、帰りの馬車の中で今日頑張ったご褒美としてムーサくんとツヴァイくんとイチャイチャチュッチュッしていたら、それを見ていたバナくんも覚えちゃって……。

 気に入っちゃったみたいで、1度はじめたらなかなか止まらない。

 ちなみに、僕の方から唇にキスすると、恥ずかしそうに顔隠しながらふにゃふにゃするのでしばらく止まる。

 バナくんのことどう説明したものかとしどろもどろになっていると、そんな僕を見て楽しそうにユニさんが笑った。

「あはは、冗談ですよ。
 使用人探しに行ったと思ったら、ハーレム要員増やして帰ってきたので一瞬驚きましたが、ラビィ種の方ですよね?
 話には聞いたことがあります。
 実際にはおいくつなんですか?その方」

 ね、年齢か……。

 ユニさんの側に寄ってって、小声でゴニョゴニョ耳打ちする。

「……やらかしましたね、流石にそれはダメだと思いますよ」

 今度は深刻な声で言われた。

「ま、まだ、やらかしてないから……」

「あはは、これも冗談です。
 まあ、本人たちが良いなら問題ないですよ」

 あ、相変わらず僕の恋人は僕の浮気に寛容だ。

 って、そうじゃない。

「あ、いや、今話しに来たのはバナくんの件じゃなくってね」

 僕が真剣な顔をしていることに気づいて、ユニさんも真剣な顔になってくれる。

「では、そちらのソファで話を聞きましょうか」



 執務室に備え付けられたソファに座ってユニさんにクラウスさんたちについて話した。

 さすがにチュッチュッしながら話していい話じゃなかったので、バナくんにはキスをして離れてもらった。

 今は僕の隣でふにゃふにゃしてる。

「なるほど……」

「ごめん、僕が軽率だった」

 下手すると、奴隷商さんは僕に買わせるために僕がクラウスさんたちを買う気だというような噂を流してしまうかもしれない。

 実際に紹介してもらって、顔合わせもして、値段の話までしてしまったのだ、噂の下地はできてしまっている。

 そういう噂を流されてどうなるのか……僕程度にはそれはよく分からないけど、貴族みんなが知っているような話題みたいだし、ろくなことにはならないんじゃないかって思う。

「いえ、政治の話だからとハルを巻き込まないように話をしていなかった私が悪かったんです。
 しかし、どうしたものですかね?イヴァン」

「はい、坊ちゃま。
 これは、かえって良い機会なのではないかと愚考いたします。
 サクラハラ家というのも、ある意味都合がよろしいかと」

 なんか真剣な顔で話しているけど、思ってた様子と違う。

 『困った、どうしよう』って話になると思ってたのに、なんか2人ともむしろ喜んでるっぽい。

 貴族の世界は難しくて分かりません。
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