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第2章 街に出てみよう
51話 腕輪
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「おう、エルフだぞ、下等種」
指をさすスレイくんを偉そうに見やるアッキー。
そのまま呆然と指を指し続けていたスレイくんだったけど、ハッとした顔をすると慌ててソファを降りて床に膝をついた。
「し、失礼をいたしました、高貴なる方。
私はクラウベルド・シヴ・モノケロス侯爵が第二子、スレイフルド・シヴ・レム・モノケロス。
ご、ご無礼をお詫びいたします。
平に、平にご容赦の程をお願いいたします」
「うむ、よい。
突然邪魔をした我も悪かった。
気にするでない」
「ありがたきお言葉痛み入ります」
平身低頭しているスレイくんと、スレイくんから見えてないからって指さして『我すごいだろ?』ってはしゃいだ顔をしているアッキー。
それがバカみたいで可愛かったのでアッキーを抱き寄せて頭を撫でる。
アッキーは急に抱き寄せられて少し不思議そうな顔してたけど、やがてどうでも良くなったのか嬉しそうに撫でられ続けてる。
そうか、そういえばアッキーは……というか、エルフは気位が高くて想像を絶するほど強い怖い種族扱いなんだっけか。
アッキーもミッくんも可愛かったからすっかり忘れてた。
しかし、これでエルフのアッキー>スレイくん、親分のスレイくん>子分の僕とヒエラルキーが確定してしまった。
あ、アッキー、もっと撫でてほしそうにしているところ悪いけど、スレイくんがチラチラこっち見てるからここまでね。
目で語りかけると、不満そうにしてたけど、1度ギュッて抱きしめると大人しく離れていく。
それを見てツヴァイくんが甘えたくなったのか少しずつ近づいてきているけど、ステイ。
流石に今は不味いからね?
後で椅子並べて隣りに座ってあげるから今はステイ。
今日のドア番はノインくんだったはずだから、久しぶりにツヴァイくんを寝室に呼ぼう。
だからステイ、お願いだから落ち着いて。
僕が口には出さないけど必死のせめぎあいをしていたら、チラチラとアッキーと僕のことを見ていたスレイくんが顔を伏せたまま口を開く。
「高貴なる方、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「うむ、差し許す」
「ありがたき幸せにございます。
不躾な問いで申し訳ありませぬが……高貴なる方とハルは一体どのようなご関係で……?」
あー、それ聞いちゃうかぁ……。
アッキーのことだから返事は目に見えている。
「うむ、恋人同士だ」
だーよーねー。
「…………は?」
だよね、スレイくんそんな顔になるよね。
どうやって収集つけよう。
――――――
とりあえずここでの収集はあっさりついた。
アッキーが『ここではそれ以上聞くな』といったので、スレイくんは黙るしかない。
後で色々聞かれるんだろうなあ……。
「とりあえず話はわかった」
向かいのソファに座っているスレイくんに見せつけるように、これみよがしに隣りに座ってる僕にベタベタ触れながらいうアッキー。
僕がこれまでの話をしている間も、腕に抱きついたり、手を取って指を絡めあったり、内ももの際どい辺りを撫でたり撫でさせたりとやりたい放題のアッキーだった。
挙句の果てにはチューしようとしてきたのでさすがにデコピンしておいた。
やたらと絡んでくるアッキーだけど、アレクさんの時みたいな嫉妬とかではなくて、なにかするごとに赤くなってうつむくスレイくんをからかうのが楽しいだけだと思う。
とうとう赤くなって俯いたまま動かなくなっちゃったから、いたいけな子をからかうのは止めてあげてほしい。
「そう言う事なら、お前にこれをやろう」
「なにこれ?」
草を編んで作った輪っか?を渡された。
プレゼントなら普通に嬉しいけど、そういう話の流れじゃなかったしな。
「要はお前がお前として認識されなければいいんだろ?
その腕輪には軽い認識阻害の魔法がかけてあるから、それをつけておけばお前と初対面のやつはお前を『なんか人』としか認識せんし、それを不思議とも思わん」
おおう、それはすごい。
翻訳のネックレス以来、久しぶりにすごいの来たな。
「それはすごいけど、そんなすごいのもらっちゃっていいの?」
「かまわんかまわん。
それは我がこの街で暮らすにあたって、暇つぶしを兼ねて作ったものだからな。
またすぐに作れるからそれはお前にやる」
なんかかんや言っても流石はエルフ、すごいことするなぁ。
「ありがとう。
その魔法はどれくらいもつの?」
「ん?知らん。
知らんが、向こう100年は問題なくもつぞ」
……今日1日持ってくれればいいなと思ったら桁が違った。
さすがアッキー。
「あ、ただし必要でない時は外しておけよ。
つけっぱなしが癖になったりしたら、誰かと知り合ったとしても全部無かったことになるからな」
なるほど、初対面の人には僕だって認識されないんだから誰かとなにかあっても全部なかったことになるのか。
………………あれ?これって、犯罪に使ったらとんでもないことになるんじゃ?
気づかなかったことにしよう。
そして絶対になくさないようにしよう。
「本当にありがとう。
大事にするね」
本当に大事に大事に絶対なくさないように大事にするね。
しまっておくのも不安だし肌身放さず持っているしかないな。
「うむ。
お、お礼は次の夜でいいからな。
ではさらばだっ!」
アッキーは真っ赤になってそれだけ言い捨てると、転移魔法で帰っていった。
了解、今度はすっごいサービスするね。
アッキーを見送ると、言われた通り腕輪を腕にはめてみる。
これで魔法の効果出てるのかな?
この場に初対面の人がいないからよく分からない。
会談に挑む前に誰かで試してみたほうがいいかな?
誰か使用人さんを呼んでもらおうかと思って、スレイくんの方を見たらなんか恐ろしいものを見る目で僕のことを見てた。
「お前……いえ、貴方は一体何なんですか?」
「やだなぉ、親分の子分だよ?」
すごいのはアッキーで、僕はアッキーに仲良くしてもらっているだけのただの日本人だ。
そんな怯えたような目で見ないでほしいな。
せっかく縮めた距離がはるか遠くに開いてしまった気がする。
頑張って縮め直さねばっ!
とりあえずはスキンシップだっ!
そう思って、震えるスレイくんの手を両手で取ったらビクッとされた。
ちょっとショックー。
泣きそう。
――――――
アッキーがすごいだけで僕はなんでもない一般人だから、って手を変え品を変え言い続けてたら何とかスレイくんも元の親分に戻ってくれた。
握り続けてた冷たくなっちゃってた手も暖かくなってきたし一安心。
とりあえず逃さないためにしばらく握っとこう。
その後、スレイくんにさっきとは別の使用人さんを呼んでもらった。
入ってきた当然ながら見たこともない使用人さんはスレイくんの向かいでソファに座る僕を見ても、一切不思議そうな表情をせず、僕には何も触れずに紅茶を置いて出ていった。
腕輪は完璧に機能しているみたいだ。
ただ、握り続けた手を不思議そうに見ていたから、目立つようなことはしないほうが良さそうだ。
「大丈夫そうだな。
本当にすごいなエルフの魔具は」
「これが暇つぶしだって言うんだからすごいよね」
次元が違いすぎて、恐れられるのもわかった気がした。
何にせよこれで僕を連れてきたせいでスレイくんが怒られる心配はまず無くなりそうだ。
あとは会談まで時間をつぶすだけだ。
スレイくんと次に会うときの相談でもしておこう。
スレイくんと2人で次遊ぶ計画を立てていたら、ドアがノックされた。
「入れ」
「失礼いたします。
ユニコロメド様とのご会談のご用意が整いました。
談話室の方にお越しくださいませ」
「分かった。
すぐに行くと母上に伝えてこい」
やっぱり偉そうなスレイくん。
もうこれは彼のチャームポイントだと思うことにしよう。
アッキーに丁寧に対応しているスレイくんとか違和感すごかったし、もうこっちのほうが見慣れてしまった。
とりあえず頭なでておこう。
「な、何すんだっ!」
「あ、ごめん、なんとなく」
振り払われた。
残念。
さて、気を取り直して談話室とやらに行こうか。
まあ、場所わかんないんだけどね。
そういえば未だにスレイくんの護衛の人たちは戻ってきてないけどまだ庭を探しているんだろうか?
一応ツヴァイくんは向こうに残ってるドライくんと連絡取ってるみたいだけど、ルキアンさん言葉通じないし大丈夫かな?
「それじゃ、談話室に行くぞ」
「え?護衛の人たちは?」
「待ってるだけ時間の無駄だ。
どうせいていもいなくても変わらんし、俺たちだけで行くぞ」
そ、それでいいのかな?
まあ親分がそう言うなら子分はそれに従うだけだ。
部屋を出ていくスレイくんに続いて僕たちも歩いていく。
大失態だろうけど、怒られるのはスレイくんじゃないからまあいいか。
……逆恨みして嫌がらせとかしてこないといいけど。
なんかスレイくんちはそういう事ありそうで不安。
廊下で行き違う使用人さんたちの中で、たまにツヴァイくん達を見てびっくりした顔をする人がいる。
スレイくんが先頭にいるから特に何も言ってこないけど、そういう人は無遠慮にジロジロ見てくる。
大体の使用人さんは、ユニさんちと同じくスレイくんが目に入ったら頭を下げて一切動かなくなるけど、それが出来ない……もしかしたらしない?使用人さんがたまにいるみたいだ。
……うーん、なんだかなぁ。
厳しすぎない気風って言えば聞こえはいいんだけど……。
もにょりながらスレイくんについて行ってたら、前に警護の人が立っている大きなドアが見えてきた。
雰囲気的にあそこが談話室だろう。
予想通りスレイくんはそのドアの前に立つ。
警護の人はスレイくんに敬礼をするとツヴァイくんたちを見て口を開く。
「スレイフルド様、そちらの者たちは?」
「警護の騎士の下僕共だ。
かまわんから中に入れろ」
「しかし……」
ツヴァイくんたちを談話室に入れることに躊躇する警護の人。
まあ、そりゃそうだよなぁと思う一方で、見慣れないはずのタブダブの明らかに他人の服を着ている僕のことは全く気にしていないことにアッキーの腕輪の効力ってすごいんだって実感する。
『入れろ』『しかし』と揉めているスレイくんと警護の人たちの後ろで中からドアが開く。
顔を出した女性の使用人さんは揉めている警護の人に耳打ちをしている。
うーん、小声でよく聞こえなかったけど『奥様が早く入れるようにとおっしゃられてます』……かな?
それを聞いて警護の人は渋い顔のままだけど、ようやくドアの前からどいてくれた。
「ふん、さっさと入れろと言ってるだろうがっ!」
「親分」
警護の人は何も悪くないよ。
むしろ凄くよくやってる人だ。
「む……まあ、任務ご苦労。
これからも励むように」
渋い顔をしている僕を見たスレイくんが慌てて言い直す。
うんうん、それなら良し。
「はっ!」
警護の人は少しびっくりした顔をしていたけど、すぐにビシッと敬礼を返してた。
さっきの使用人さんが開けてくれたドアから中に入っていくスレイくん。
僕も警護の人に軽く会釈をしたあと中に入っていく。
「何をやってるのっ!こんなに遅くなってっ!!」
中に入った途端にヒステリックな女の人の声が響いて思わず身をすくめてしまう。
「……申し訳ございません。お母様」
スレイくんが椅子から立ってこっちを睨みつけている女性に頭を下げる。
あの人がスレイくんのお母さんか。
スレイくんと同じ黒髪黒馬耳で、顔のつくりも少し似ている気がする。
思ったより若そうで凄い美人さんだけど……気が強そうというか、なんかイライラした感じの人だなぁ。
まあ、今はスレイくんを怒っているからかもしれないけど。
呼ばれてすぐにきたし、それほど遅れたってわけじゃないのになぁ。
そんな事を考えながらスレイくんのお母さんを見ていたら、なんかすごい視線を感じることに気づいた。
ユニさんを始め、スレイくんのお母さんの向かいにいる人たちがすごい驚いた顔で僕のことを見ていた。
あのイヴァンさんですら、眉毛を上げて驚いた顔をしている。
やばい、こんな雰囲気なのにちょっと笑いそう。
「……?
………………ぶふっ!」
あ、僕の様子に気づいてユニさん達を見ちゃったスレイくんが吹き出した。
「なに笑ってるのっ!
真面目に聞きなさいっ!」
お母さんに怒鳴りつけられて。慌ててシュンとうつむくスレイくん。
肩が小刻みに震えてるけど、怒られて泣いてるんじゃなくて笑ってんな、これ。
「まあまあ、お継母様、スレイフルドは別に遅れてはいませんよ。
スレイフルドも遠慮せずに座ってください」
「……ぶふっ!」
今度は僕が駄目だった。
だって、落ち着いた声で優しく言っているユニさんの方を見たら、さっきまで驚いた顔してた人たちがみんなスンッてなんでも無かった顔してるんだもん。
あっという間の落差に吹いた。
「………ぶふっ!」
それを見てたスレイくんが時間差で吹いた。
「スレイフルドっ!!」
「まあまあ、お継母様、落ち着いて落ち着いて」
怒鳴りつけるお母さんと、なだめようとするユニさん。
2人を横目に僕とスレイくんは肩を小刻みに震わせながら席についた。
そして。テーブルの下で隠れて手を軽く叩き合わせる。
悪戯成功だ。
指をさすスレイくんを偉そうに見やるアッキー。
そのまま呆然と指を指し続けていたスレイくんだったけど、ハッとした顔をすると慌ててソファを降りて床に膝をついた。
「し、失礼をいたしました、高貴なる方。
私はクラウベルド・シヴ・モノケロス侯爵が第二子、スレイフルド・シヴ・レム・モノケロス。
ご、ご無礼をお詫びいたします。
平に、平にご容赦の程をお願いいたします」
「うむ、よい。
突然邪魔をした我も悪かった。
気にするでない」
「ありがたきお言葉痛み入ります」
平身低頭しているスレイくんと、スレイくんから見えてないからって指さして『我すごいだろ?』ってはしゃいだ顔をしているアッキー。
それがバカみたいで可愛かったのでアッキーを抱き寄せて頭を撫でる。
アッキーは急に抱き寄せられて少し不思議そうな顔してたけど、やがてどうでも良くなったのか嬉しそうに撫でられ続けてる。
そうか、そういえばアッキーは……というか、エルフは気位が高くて想像を絶するほど強い怖い種族扱いなんだっけか。
アッキーもミッくんも可愛かったからすっかり忘れてた。
しかし、これでエルフのアッキー>スレイくん、親分のスレイくん>子分の僕とヒエラルキーが確定してしまった。
あ、アッキー、もっと撫でてほしそうにしているところ悪いけど、スレイくんがチラチラこっち見てるからここまでね。
目で語りかけると、不満そうにしてたけど、1度ギュッて抱きしめると大人しく離れていく。
それを見てツヴァイくんが甘えたくなったのか少しずつ近づいてきているけど、ステイ。
流石に今は不味いからね?
後で椅子並べて隣りに座ってあげるから今はステイ。
今日のドア番はノインくんだったはずだから、久しぶりにツヴァイくんを寝室に呼ぼう。
だからステイ、お願いだから落ち着いて。
僕が口には出さないけど必死のせめぎあいをしていたら、チラチラとアッキーと僕のことを見ていたスレイくんが顔を伏せたまま口を開く。
「高貴なる方、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「うむ、差し許す」
「ありがたき幸せにございます。
不躾な問いで申し訳ありませぬが……高貴なる方とハルは一体どのようなご関係で……?」
あー、それ聞いちゃうかぁ……。
アッキーのことだから返事は目に見えている。
「うむ、恋人同士だ」
だーよーねー。
「…………は?」
だよね、スレイくんそんな顔になるよね。
どうやって収集つけよう。
――――――
とりあえずここでの収集はあっさりついた。
アッキーが『ここではそれ以上聞くな』といったので、スレイくんは黙るしかない。
後で色々聞かれるんだろうなあ……。
「とりあえず話はわかった」
向かいのソファに座っているスレイくんに見せつけるように、これみよがしに隣りに座ってる僕にベタベタ触れながらいうアッキー。
僕がこれまでの話をしている間も、腕に抱きついたり、手を取って指を絡めあったり、内ももの際どい辺りを撫でたり撫でさせたりとやりたい放題のアッキーだった。
挙句の果てにはチューしようとしてきたのでさすがにデコピンしておいた。
やたらと絡んでくるアッキーだけど、アレクさんの時みたいな嫉妬とかではなくて、なにかするごとに赤くなってうつむくスレイくんをからかうのが楽しいだけだと思う。
とうとう赤くなって俯いたまま動かなくなっちゃったから、いたいけな子をからかうのは止めてあげてほしい。
「そう言う事なら、お前にこれをやろう」
「なにこれ?」
草を編んで作った輪っか?を渡された。
プレゼントなら普通に嬉しいけど、そういう話の流れじゃなかったしな。
「要はお前がお前として認識されなければいいんだろ?
その腕輪には軽い認識阻害の魔法がかけてあるから、それをつけておけばお前と初対面のやつはお前を『なんか人』としか認識せんし、それを不思議とも思わん」
おおう、それはすごい。
翻訳のネックレス以来、久しぶりにすごいの来たな。
「それはすごいけど、そんなすごいのもらっちゃっていいの?」
「かまわんかまわん。
それは我がこの街で暮らすにあたって、暇つぶしを兼ねて作ったものだからな。
またすぐに作れるからそれはお前にやる」
なんかかんや言っても流石はエルフ、すごいことするなぁ。
「ありがとう。
その魔法はどれくらいもつの?」
「ん?知らん。
知らんが、向こう100年は問題なくもつぞ」
……今日1日持ってくれればいいなと思ったら桁が違った。
さすがアッキー。
「あ、ただし必要でない時は外しておけよ。
つけっぱなしが癖になったりしたら、誰かと知り合ったとしても全部無かったことになるからな」
なるほど、初対面の人には僕だって認識されないんだから誰かとなにかあっても全部なかったことになるのか。
………………あれ?これって、犯罪に使ったらとんでもないことになるんじゃ?
気づかなかったことにしよう。
そして絶対になくさないようにしよう。
「本当にありがとう。
大事にするね」
本当に大事に大事に絶対なくさないように大事にするね。
しまっておくのも不安だし肌身放さず持っているしかないな。
「うむ。
お、お礼は次の夜でいいからな。
ではさらばだっ!」
アッキーは真っ赤になってそれだけ言い捨てると、転移魔法で帰っていった。
了解、今度はすっごいサービスするね。
アッキーを見送ると、言われた通り腕輪を腕にはめてみる。
これで魔法の効果出てるのかな?
この場に初対面の人がいないからよく分からない。
会談に挑む前に誰かで試してみたほうがいいかな?
誰か使用人さんを呼んでもらおうかと思って、スレイくんの方を見たらなんか恐ろしいものを見る目で僕のことを見てた。
「お前……いえ、貴方は一体何なんですか?」
「やだなぉ、親分の子分だよ?」
すごいのはアッキーで、僕はアッキーに仲良くしてもらっているだけのただの日本人だ。
そんな怯えたような目で見ないでほしいな。
せっかく縮めた距離がはるか遠くに開いてしまった気がする。
頑張って縮め直さねばっ!
とりあえずはスキンシップだっ!
そう思って、震えるスレイくんの手を両手で取ったらビクッとされた。
ちょっとショックー。
泣きそう。
――――――
アッキーがすごいだけで僕はなんでもない一般人だから、って手を変え品を変え言い続けてたら何とかスレイくんも元の親分に戻ってくれた。
握り続けてた冷たくなっちゃってた手も暖かくなってきたし一安心。
とりあえず逃さないためにしばらく握っとこう。
その後、スレイくんにさっきとは別の使用人さんを呼んでもらった。
入ってきた当然ながら見たこともない使用人さんはスレイくんの向かいでソファに座る僕を見ても、一切不思議そうな表情をせず、僕には何も触れずに紅茶を置いて出ていった。
腕輪は完璧に機能しているみたいだ。
ただ、握り続けた手を不思議そうに見ていたから、目立つようなことはしないほうが良さそうだ。
「大丈夫そうだな。
本当にすごいなエルフの魔具は」
「これが暇つぶしだって言うんだからすごいよね」
次元が違いすぎて、恐れられるのもわかった気がした。
何にせよこれで僕を連れてきたせいでスレイくんが怒られる心配はまず無くなりそうだ。
あとは会談まで時間をつぶすだけだ。
スレイくんと次に会うときの相談でもしておこう。
スレイくんと2人で次遊ぶ計画を立てていたら、ドアがノックされた。
「入れ」
「失礼いたします。
ユニコロメド様とのご会談のご用意が整いました。
談話室の方にお越しくださいませ」
「分かった。
すぐに行くと母上に伝えてこい」
やっぱり偉そうなスレイくん。
もうこれは彼のチャームポイントだと思うことにしよう。
アッキーに丁寧に対応しているスレイくんとか違和感すごかったし、もうこっちのほうが見慣れてしまった。
とりあえず頭なでておこう。
「な、何すんだっ!」
「あ、ごめん、なんとなく」
振り払われた。
残念。
さて、気を取り直して談話室とやらに行こうか。
まあ、場所わかんないんだけどね。
そういえば未だにスレイくんの護衛の人たちは戻ってきてないけどまだ庭を探しているんだろうか?
一応ツヴァイくんは向こうに残ってるドライくんと連絡取ってるみたいだけど、ルキアンさん言葉通じないし大丈夫かな?
「それじゃ、談話室に行くぞ」
「え?護衛の人たちは?」
「待ってるだけ時間の無駄だ。
どうせいていもいなくても変わらんし、俺たちだけで行くぞ」
そ、それでいいのかな?
まあ親分がそう言うなら子分はそれに従うだけだ。
部屋を出ていくスレイくんに続いて僕たちも歩いていく。
大失態だろうけど、怒られるのはスレイくんじゃないからまあいいか。
……逆恨みして嫌がらせとかしてこないといいけど。
なんかスレイくんちはそういう事ありそうで不安。
廊下で行き違う使用人さんたちの中で、たまにツヴァイくん達を見てびっくりした顔をする人がいる。
スレイくんが先頭にいるから特に何も言ってこないけど、そういう人は無遠慮にジロジロ見てくる。
大体の使用人さんは、ユニさんちと同じくスレイくんが目に入ったら頭を下げて一切動かなくなるけど、それが出来ない……もしかしたらしない?使用人さんがたまにいるみたいだ。
……うーん、なんだかなぁ。
厳しすぎない気風って言えば聞こえはいいんだけど……。
もにょりながらスレイくんについて行ってたら、前に警護の人が立っている大きなドアが見えてきた。
雰囲気的にあそこが談話室だろう。
予想通りスレイくんはそのドアの前に立つ。
警護の人はスレイくんに敬礼をするとツヴァイくんたちを見て口を開く。
「スレイフルド様、そちらの者たちは?」
「警護の騎士の下僕共だ。
かまわんから中に入れろ」
「しかし……」
ツヴァイくんたちを談話室に入れることに躊躇する警護の人。
まあ、そりゃそうだよなぁと思う一方で、見慣れないはずのタブダブの明らかに他人の服を着ている僕のことは全く気にしていないことにアッキーの腕輪の効力ってすごいんだって実感する。
『入れろ』『しかし』と揉めているスレイくんと警護の人たちの後ろで中からドアが開く。
顔を出した女性の使用人さんは揉めている警護の人に耳打ちをしている。
うーん、小声でよく聞こえなかったけど『奥様が早く入れるようにとおっしゃられてます』……かな?
それを聞いて警護の人は渋い顔のままだけど、ようやくドアの前からどいてくれた。
「ふん、さっさと入れろと言ってるだろうがっ!」
「親分」
警護の人は何も悪くないよ。
むしろ凄くよくやってる人だ。
「む……まあ、任務ご苦労。
これからも励むように」
渋い顔をしている僕を見たスレイくんが慌てて言い直す。
うんうん、それなら良し。
「はっ!」
警護の人は少しびっくりした顔をしていたけど、すぐにビシッと敬礼を返してた。
さっきの使用人さんが開けてくれたドアから中に入っていくスレイくん。
僕も警護の人に軽く会釈をしたあと中に入っていく。
「何をやってるのっ!こんなに遅くなってっ!!」
中に入った途端にヒステリックな女の人の声が響いて思わず身をすくめてしまう。
「……申し訳ございません。お母様」
スレイくんが椅子から立ってこっちを睨みつけている女性に頭を下げる。
あの人がスレイくんのお母さんか。
スレイくんと同じ黒髪黒馬耳で、顔のつくりも少し似ている気がする。
思ったより若そうで凄い美人さんだけど……気が強そうというか、なんかイライラした感じの人だなぁ。
まあ、今はスレイくんを怒っているからかもしれないけど。
呼ばれてすぐにきたし、それほど遅れたってわけじゃないのになぁ。
そんな事を考えながらスレイくんのお母さんを見ていたら、なんかすごい視線を感じることに気づいた。
ユニさんを始め、スレイくんのお母さんの向かいにいる人たちがすごい驚いた顔で僕のことを見ていた。
あのイヴァンさんですら、眉毛を上げて驚いた顔をしている。
やばい、こんな雰囲気なのにちょっと笑いそう。
「……?
………………ぶふっ!」
あ、僕の様子に気づいてユニさん達を見ちゃったスレイくんが吹き出した。
「なに笑ってるのっ!
真面目に聞きなさいっ!」
お母さんに怒鳴りつけられて。慌ててシュンとうつむくスレイくん。
肩が小刻みに震えてるけど、怒られて泣いてるんじゃなくて笑ってんな、これ。
「まあまあ、お継母様、スレイフルドは別に遅れてはいませんよ。
スレイフルドも遠慮せずに座ってください」
「……ぶふっ!」
今度は僕が駄目だった。
だって、落ち着いた声で優しく言っているユニさんの方を見たら、さっきまで驚いた顔してた人たちがみんなスンッてなんでも無かった顔してるんだもん。
あっという間の落差に吹いた。
「………ぶふっ!」
それを見てたスレイくんが時間差で吹いた。
「スレイフルドっ!!」
「まあまあ、お継母様、落ち着いて落ち着いて」
怒鳴りつけるお母さんと、なだめようとするユニさん。
2人を横目に僕とスレイくんは肩を小刻みに震わせながら席についた。
そして。テーブルの下で隠れて手を軽く叩き合わせる。
悪戯成功だ。
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