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第2章 街に出てみよう

35話 買い物

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 日が変わって、談話室での朝食の時間。

 イヴァンさんとユニさんとアッキーと僕で今日の街見物の最終打ち合わせをやっている。

 ちなみに、僕の使用人としてミゲルくんがついているんだけど、今日もアッキーに近寄るなって言われて壁際に立って待機している。

 もうミゲルくんに買い戻してもらわなきゃいけないアッキーへの借りはなくなってるんだけど……。
 
 それを言うわけにはいかないからなぁ。

 一応隠しておくけどバレちゃったんなら仕方ないとアッキーも言ってるんだけど、今のところユニさんにもミゲルくんたちにもバレた様子はない。

 イヴァンさんには絶対にバレてると思うんだけど、アッキーの意向を汲んでユニさんには報告してないんだろうか?

 ユニさんはユニさんで聞かれたら靄で一発でバレちゃうと思うのに、聞いてくる気配すらないし……。

 なんか急に仲いいし、怪しいとは思われてると思うんだけどなぁ。

 僕、6股かけておいて初めて浮気の何とも言えない気まずい気分を味わい中である。

「ということで、ハルと師匠は当家の使用人として食材の買い出しに来た体をよそおってもらいます」

 僕が馬鹿なことを考えているうちに話が進んでた。

「あっ、う、うん、分かった。
 食材の買い出しだね」

「近々使う食材で足りないものが出てしまったので急遽2人に買い出しに出てもらったという設定です」

 そんなとこまで決めなきゃいけないのかとも思うけど、もしもの時にそういう設定が決められてるかも大事なんだろう。

 とりあえず設定は理解したので頷く。
 
「二人共極力正体がバレないようにしてくださいね。
 特に師匠はもし一般人にバレたら大事になりますから注意してください」

「うむ、よく分かっておる」

 青い顔になって身震いするアッキー。

 人里嫌いって言うし昔街で何かあったのかな?

「商品の代金については、出る時にうちの手形を渡しますからそれを使ってください。
 ルバッハ商会に行ってもらうので、イヴァンのメモ書きと手形を渡せばそれですみます」

 ルバッハ……どこかで聞き覚えがあると思ったら、多分モレスくんの実家か親戚さんだ。

 商家の出だったはずだから実家かな?

「あとはお小遣いを少し渡しておきますから、これで好きに買い物してきていいですよ」

 そう言って、こういっては悪いけど、今まで屋敷の中で見た中で一番こ汚い革の袋を渡された。

 大した金額が入ってないと思わせるためだろう、と思って開けてみたらなんか金貨が一杯入ってた。

「ユ、ユニさんっ!?
 こ、これはっ!?」

「足りませんでしたか?
 もう少し入れておきましょうか?」

 袋を開けた途端慌てだした僕を見て、つつつと音もなく移動してきたイヴァンさんが袋の中身を覗き込む。

「……坊ちゃま、市での買い物にこれは多すぎます」

 ですよねっ!?

 この前アッキーが金貨10枚のお茶で顔青くしてたのに、なんかパッと見金貨が2、30枚は入ってるよっ!?

「サクラハラ様、そちらは部屋にでもおしまいになっておいてください。
 出発の時までに適切な金額をお渡しいたします」

「はい、おねがいします。
 …………って、いやいやいやっ!しまっといてくださいじゃなくって、これ返しますからっ!!」

 慌てて返そうとするけど、もう僕の側にイヴァンさんはいない。

 なんか、ユニさんと『イヴァンお願いしますね』『かしこまりました』とかやってるし。

 これ、どんなに返すって言っても受け取ってくれないやつだ。

 絶対に一切手を付けずに大事にしまっておこう。

 いっその事ミゲルくんたちに預けちゃうのも手かもしれない。

 むしろ、ミゲルくんからうまいこと言ってイヴァンさんに返してもらえないかな?

 今度相談してみよう。

「さて、では、実際の今日のスケジュールですが。
 ひとまずこの屋敷からルバッハ商会や市のある商人街には馬車で行ってもらうことになります」

「あれ?馬車を使うの?
 目立たないほうがいいんじゃない?」

 馬車で移動とか目立って仕方ないと思うけど。

「それはそのとおりなんですが、下手に貴人街を徒歩で移動するとそちらのほうが目立ったりしますから。
 屋敷のお使いとして馬車で移動したほうが意外と目立たないんですよ」

 なるほどね。

 そういやこの屋敷にも通いの使用人さんとかいないし、徒歩でここら辺歩いてる人って意外といないのかもしれない。

「馬車で、貴人街と商人街を隔てる橋まで行ってもらって、そこで本日の案内をお願いした人との合流になります。
 いいですか?ハル」

「うん、大丈夫だと思う」

「案内などいらんと言っておるのに」

 アッキーがご不満顔。

 まあ、ぶっちゃけ、僕も半分デートのつもりだったからなぁ。

「そうは言いましても、師匠、言うほどこの街のことを知らないでしょう?」

「ぐっ……いや、まあ、それはユニ坊の言う通りなんだが……」

 あー、本人が人里嫌いって言ってるくらいだし、この街のこともあんまり知らないのか。

 そうなってくると、アッキーには悪いけど案内人がいてくれるのは嬉しいなぁ。
 
「それで案内の人って誰が来てくれるの?」

 僕の立場が立場だから知らない人ではないと思うんだけど……。

 お屋敷の人は僕の使用人含めて例の書類仕事に追われてるし、空いてる人員がいるとは思えないんだよなぁ。

 僕のためだけに時間を取らせちゃうのは悪いと思うし、案内の人が必要なら今回は延期したほうがいいんじゃないかなぁ。

 そんな事を考えていたら、ユニさんの口から思いもよらぬ人の名前が飛び出してきた。

「アレクですよ。
 騎士詰め所でハルと私を引き合わせてくれた、騎士アレクです」

「えっ!?アレクさんっ!?」

 アレクさんに会えると知って、ちょっとテンションが上がる。

 あのあとユニさんから聞いたんだけど、城壁の側で倒れている僕を見つけてくれたのも任務帰りのアレクさんだったそうで、もしアレクさんが寄り道してくれて無かったら僕はまず間違いなく死んでただろう。

 まさしく命の恩人だけど、自由に出歩ける日がいつ来るかわからない僕としてはきちんとお礼を言うのは無理だと思ってた。

 それがこんなところで会えることになるとは思わなかったなあ。

「……ちっ、7人目か」

 なんか不機嫌そうにつぶやくアッキー。

 いやいやいや、アレクさんはそういうんじゃないから。

 でもイケメンではあった。

 そういう意味でも、アレクさんと会えるのは楽しみだなぁ。



 ――――――



 さて、朝食を食べ終わったあと、ミゲルくんに手伝ってもらって変装タイム。

 と言っても、身体測定の時以来、半分部屋着感覚で来ている運動着みたいなものと殆ど変わらない。

 半袖シャツの丈がお尻が隠れるくらいまで伸びて、ハーフパンツが長ズボンになっただけって感じだ。

 ああ、とりあえず今日は僕の臭い消しのための香水はつけていない。

 女疑惑を持たれるより、香水をつけた使用人=着飾った使用人というイメージを持たれて目立たないほうがいいという判断だ。

 アッキーはアッキーで、普段のヒラヒラした服と違って、特徴的な耳と金髪を隠すために頭からすっぽり被る、良くファンタジーで見る魔法使いみたいな服を着ている。

 ちょっとうつむきがちになれば、あの絶世の美貌も見えなくなるのでお忍びにはちょうどいい。

 僕からみると怪しくて仕方ないけど、イヴァンさんもなにも言わないところからすると問題はないのだろう。



 一通り準備も終わって、いよいよ出発の時。

 ユニさんが用意してくれた馬車は前に乗ったのと違って地味な感じだけど、御者さんは確か前と同じ人だ。

 またお世話になります。

「気をつけて楽しんできてくださいね。
 私は甘いものが好きです」

 見送ってくれているユニさん達。

 なんか今、スルッとお土産要求されたな?

「迷子になったら王城の方に歩いてくれば貴人街のお堀につきますからね。
 僕はみんなで食べられるものがいいです」

 ミゲルくんの言葉に、なんとなく王城を見る。

 少し高台に建っている王城はここからでも威容を誇っている。

 確かに良い目印になるな。

 お土産も忘れずに買ってこよう。

「それではこちらが注文を記したメモと手形となります。
 これをルバッハ商会のマークという者に届けていただければ話は伝わりますのでご安心ください。
 私は久方ぶりに冒険者用の塩っ辛い干し肉が食べとうございます」

 イヴァンさんからメモ……っていうか封書を預かった。

 この中に注文書と手形が入っているらしい。

 イヴァンさんは干し肉……と。

「それじゃいってきまーす」

「夕食時までには帰る」

 馬車に乗り込んでみんなに手を振ると馬車が動きだした。

 いよいよ、僕の初冒険(街の中)の始まりだ。



 ――――――



 貴人街……まあつまりお金持ちの住んでる地区なんだと思う。

 ユニさんのお屋敷もあるここは、果ての見えない石造りの塀や、ユニさんちほどの大きさはないけどそれでも日本の僕の家よりは相当でっかいレンガ造りの家なんかが並んでる。

 貴人街の中では小さい方に見える家でも日本なら小さい家が入っちゃいそうな庭がついている。

 今僕らの馬車が通っている道も馬車2台がゆうゆうとすれ違えれるくらい広くて綺麗だし、いかにもお金持ちが住んでますっ!って感じの街並みだ。

 基本的に住宅しかないせいか、道を歩く人の姿は殆ど見られない。

 たまにユニさんちとは少し違った使用人の格好をしてる人が歩いているだけしか人影もなくて、たしかにここを僕とアッキーが歩いていたら目立ったと思う。

 建物も建物ごとに特徴があって、しかも、全部豪華できれいなので見てて飽きない。

 窓からの光景を堪能してたら馬車がゆっくりと止まった。

 ついたらしい。

「サクラハラ様、つきましてございます。
 今、案内の方を探しに出ておりますので、今しばらく馬車の中でお待ち下さい」

「分かりました。
 ありがとうございます」

 とりあえず、ここで少し待機らしい。

 あんまり目立ってもいけないので、窓を閉めて、アッキーに習って目を閉じて静かにしておくことにする。

 待つことしばし、ドアがノックされて開かれた。

「お待たせいたしました。
 案内の方が見えられましたので、どうぞお降りください」

 御者さんの手を借りて馬車を降りると、目の前にアレクさんがいた。

 アレクさんは僕とおんなじような格好をしているけど、腰に差した剣を隠すためか更に上にマントを羽織っている。

「アレク様っ!」

 思わず抱きついた。

 この人に見つけたもらえなかったら僕はどうなっていたことか。

 どうなってというか、普通に死んでたな。

 ユニさんに並んでいくら感謝してもし足りない。

「ハ、ハル様っ!?
 ……目立ちますのでお離れください」

 た、たしかに……。

 周りには僕らの他にも使用人や貴族が乗ってきたらしき馬車が止まっているけど、大きな声をあげて抱きついた僕を何事かと見てる。

「ひとまず細かい挨拶はあとにして、商人街に入ってしまいましょう。
 あちらでしたら人目もましになるかと」

「はい、すみませんでした」

 馬車はいつの間にかアッキーが帰してくれてたので、アレクさんについて堀にかかった橋を渡る。

 アッキーがなんか手を握ってくる。

 恋人つなぎだった。

 こっちにもあるのかな?恋人つなぎ。

 って、なにやってるのっ!?アッキーっ!?

 どうしたのかとアッキーの顔を見ようとするけど、プイッとそっぽを向かれてしまう。

 なんかご機嫌斜めだ。

 え?もしかしてさっきので嫉妬した?

 …………うわぁ。

 可愛いのでギュッと強く手を握ったら握り返してきた。

「……どうやら、上手くやっているようですね」

 そんな僕らのことをアレクさんが微笑ましいものをみるような目で見てた。

 恥ずかしい。

「はい、これもアレク様が私を見つけてくださったおかげです。
 アレク様にはいくら感謝してもしたりません。
 モノケロス卿も良くしてくださっていますし、何ら不自由なく過ごさせていただいております」

 不自由どころか……ねぇ?我が世の春が来ている気分である。

 ……相変わらず家には帰りたいけどさ。

 とはいえ、家のこともこっちに大事な人が増えてきてからは思い出すことも減ってきた。

 全然思い出さなくなったって言ったら嘘になるけどね。

「それは良かった。
 ところで、そちらの方は?」

「えっと、こちらは……」

「警護のものだ」

 アッキー落ち着いて、漏れてる、僕でも分かるくらい敵意漏れてるから。

 まさかアッキーがこんなに嫉妬深いとは……後でしっかり違うって説明しておこう。

「そうですか。
 立ち止まると目立ちますので歩きながらにて失礼いたします。
 私はアレクレイ・シヴ・リム・エルグリンと申します。
 本日はおふた方のご案内の任を拝命いたしました」

 あれ?その名前アレクさんも貴族様だったんだ?

 前にユニさんにちょっとだけ習ったけど、ミドルネームに『シヴ』って付く人は貴族様かその身内らしい。

 ついでに『アーク』だと王族になるらしくて、今まで見たことないけどもし会ったら対応に注意しろって言われた。

 しかし、貴族様に道案内をさせるとか……申し訳ないな。

「今日はお手間をおかけして申し訳ありません。
 お忙しいところに無理を言ってしまったのではないといいのですが……」

「ああ、先程のは冗談で、今日は非番で暇を持て余しておりましたのでお気になさらなくて大丈夫です」

 それなら良かった、と胸をなでおろしていると。

「おい、アレクとやら、貴様こやつとはどんな関係だ?」

 アッキー!?

 アレクさんも驚いた顔してる。

 そりゃ、お忍びで来た人がこんなところで痴話喧嘩を始めたらねぇ。

「私は行き倒れていたサクラハラ様を見つけたことで縁を得ただけでございます。
 こたびのこともモノケロス卿よりたまたま『事情』を知るものとしてお声掛かりいただきましただけのこと。
 若様のご心配なさるようなことは一切ございません事を主神に誓います」

「ふん、ならばよい」

 ちょっと微笑ましげにしながらも、誠実に対応してくれるアレクさん。
 
 と言うか、『若様』ってアッキーをお忍びの貴族と思ったのかな?

 まあ確かにどう見てもアッキーのほうが偉そうだし、格好もお忍び感はアッキーのほうが強いもんなぁ。

 なんか、アレクさんが色々勘違いしている気がするけど、訂正はまた今度の機会にしよう。

 アッキーと手を繋いでいる状態で何を言っても無駄な気がする。
 
 

 気づけばいつの間にやら石造りの建物が所狭しと並んでいる道に入っている。

 アレクさん曰く、大店の商会が軒を連ねる通りなのだそうな。

 そのせいかみちゆく人も使用人然とした人が多くて賑わっているという感じじゃない。

「意外とローブ姿の人もいるんですね」

 一応人も増えてきたので小声でアレクさんに話しかける。

 アッキーはもう人酔いでもしたのか黙りっぱなしだ。

「そうですね、様々な理由で姿を晒したくない方はいますし、そもそも私服としてもそこまで風変わりというわけでもありませんから。
 特に今日のように天気の良い日だと日除け代わりに着ている方もいらっしゃるかと」

 小声で返してくれるアレクさん。

 なるほどな、たしかに今日は日差しが強くて少し暑いくらいだし日除けがほしいかもしれない。

「さて、ではあちらがルバッハ商会になります。
 私は外でお待ちしていますので、御用がお済みになられましたらお声がけください」

「ありがとうございます」

 アレクさんにお礼を言って、アッキーと二人、道に向かって大きく口を開けた石造りの建物に向かう。

 白い石で作られた大きな建物で、隣にはさらに大きな倉庫が併設されている。

 建物の壁に大きな看板がかかっているけど、多分『ルバッハ商会』とか書かれているんだろう。

 ……読めないけど。

 ここからはお仕事ということで、アッキーの手を一度キュって握ってから離した。

 気温は全然暖かいのに、手がちょっと寒い気がする。

「モノケロス家からのお使いでまいりました。
 マーク様はいらっしゃいますでしょうか?」

「あ、ば、番頭ですね、今すぐ呼んできますっ!」

 大きく開いた入り口から入って、手近な人に話しかけたら慌ててどこかに行ってしまった。

 悪いことをしちゃったな。

 こういう時スムーズにやるにはどうしたらいいんだろう?

 今度イヴァンさんに教わっておこう。

 しばらくアッキーと二人で大人しく――なんかアッキーは隠れてお尻触ってきたけど――待っていたら、奥の方から恰幅のいい馬耳のおじさんがこちらに小走りで寄ってきた。

 ケンタウロス種の人だから長身な上に恰幅が良くて、殆ど巨人に見える。

「いやー、すみませんすみません。お待たせいたしました。
 本来でしたらモノケロス卿のご対応は会長が行うのですが、なにぶん今は隣町へ商談に出向いておりまして。
 代わりに私マークがご対応させていただきます。
 なんでもお申し付けください」

「こちらこそ急なお話で申し訳ありませんでした。
 当家家令よりルバッハ商会様への封書を預かっております。
 ご確認をお願いいたします」

 店頭で渡しちゃっていいのかな?とちょっと思ったけど、使いっ走りならこんなもんだろう。

 マークさんは封書を開けると注文書と手形を確認してひとつ頷く。

「はい。たしかにご用命承りました。
 スティグレッツ様には必ずご指定の期日にお届けいたします、とお伝え下さい」

「ありがとうございます。
 今後ともよしなにお願いいたします」

 無事済んだと、深々とお辞儀をしたらなんかマークさんが少し驚いた顔をしている。

「いえいえ、こちらこそお引き立てくださりありがとうございます。
 失礼ですが、少々こちらでお待ちいただけますか?」

「はい、かしこまりました」

 なんだろう?

 マークさんはそう言うと奥に小走りで奥に行って、なにか小さな袋を持って帰ってきた。

「いやぁ、坊っちゃんもうちの若さんと変わらない年なのに大したもんですな。
 これは新しく仕入れた砂糖菓子なのでお駄賃代わりに食べてくださいな」

「あ、ありがとうございますっ!」

 ペコリとお辞儀をして袋をふたつ受け取る。

 やっぱり身長が違うせいか、モレスくんあたりと同い年に見えるらしい。

 ちょっとショック。

 とは言え、好意は素直に嬉しい。

「えっと、ひとつはモレス……さんにお渡ししますね」

「おや?坊っちゃん、若さんを知っているので?」

「えーと……はい、その……仲良くさせていただいています」

 そりゃもうすごくお世話になってます。
 
「広いお屋敷と言っても、ひとつのお屋敷の中だしそりゃそうか。
 ならちょっと待ってくださいな」

 また奥に小走りで行って戻ってくるマークさん。

 袋が6つに増えた。

「お友だちと一緒に食べてくださいね」

「ありがとうございます。
 それでは失礼いたします」

「若さんに、今度の休みを心待ちにしてるって伝えてくださいな」

「はい、分かりました」

 もう一度お辞儀をしてからお店を出ていく。

 最後は店頭にいた人たちみんなが頭を下げてくれてた。

 家族っていいなぁ。
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