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第1章 異世界で暮らそう

10話 お風呂

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 とりあえず一通り僕の身の回りの話が終わった後、明日以降の僕の予定については2刻後の夕食の時に話をする、ということになってお茶会はひとまずお開きとなった。

 明日以降、どうすればいいか……何をされるのかわからない僕としては生殺しもいいところだけど、ユニさん含めてみんな夕食までに済ませなければいけない用事もあるんだろう。

 後半、真面目な打ち合わせになってしまったせいで日本のものを触り足りないユニさんがまだもう少しとぐずっていたけど、イヴァンさんにやんわりと叱られて諦めていた。

 なにか貸そうかと――全て献上するっていう僕の意見はユニさんに強硬に却下された――少し思ったけど、説明役でつきあわされる面倒くさい未来が目に見えていたので思いつかなかったことにした。

 仲良くなるチャンスだとは思ったけど、あのテンションのユニさんに付き合うのは今日はもう無理だ。

 今日のところは夕食まで寝室で大人しくしていよう。

「それではハル、また後ほど……」

 なんか目に見えて沈み込んでいるユニさんの姿を見ると、もう少し付き合ってあげようかなという気もしてくる。

 だけど、今日のところは僕も色々限界なので申し訳ないけどまだ後日にしてもらおう。

「はい、また夕食の時に……あ」

 ユニさん一行を見送ろうとしたところで、思いつく。

「あの、そういえば、お風呂って入るわけにはいかないのでしょうか?」

 夕食の前にせめて汗だけでも流せたらなと思ってイヴァンさんに問いかける。

 と言うか、そもそもこの世界にお風呂ってあるんだろうか?

「ご入浴ですか?
 大変申し訳無いのですが、まだ替えのお召し物のご用意ができておらず……。
 夕食後までには当座のものをご用意いたしますので、大変申し訳ありませんがそれまでお待ちいただけないかと……」

 あー、そういえばそうだった。

 でも、流石にいい加減体を洗いたい。

「あー、服に関してはまたこの制服を着るってことでは駄目でしょうか?
 いい加減、気持ち悪くなってきてしまっていて……。
 服はともかく体を洗わせてもらえるだけでだいぶ違うのですが……」

「そういうことでしたら、当方では何も問題ありません。
 なにかと不自由な思いをさせてしまい申し訳ありません」

「いえいえ、僕は皆さんにお世話になっている身ですから。
 色々と良くしてもらって感謝しています」

 曲がりなりにも僕がこの世界で苦痛を感じることなく生きていられるのはユニさんたちのおかげだ。

 それに関しては本当に感謝しか無い。

 ……対価が怖いけど。

「それでは、案内をするものをすぐにご用意しますので少々お待ちください」

 案内なんてしてもらわなくても、と一瞬思ったけれどこの世界のお風呂がどんなものなのかそもそもわからない。

 僕の思い描くお風呂とはかけ離れたものである可能性が高い以上、教えてくれる人は必要だな。

「お手数をおかけしてすみません」

「それ私がやりましょうか?」

 イヴァンさんに頭を下げてお礼を言っていると、それまでイヴァンさんの後ろで黙っていたユニさんが話に入ってくる。

「え?『それ』ってお風呂係のこと?」

「はい。
 かまいませんよね?イヴァン」

「…………」

 問いかけるユニさんに無言のイヴァンさん。

 無表情のままだけど、いつもポンポンと打てば響くように返事をするイヴァンさんが黙っているということはかなり悩んでいるということだろう。

「あの……」

「坊ちゃまにできますか?」
 
 別の方で……と言おうとして口を開いたタイミングで、イヴァンさんがユニさんに問いかけた。

「もちろんですっ!」

 自信満々といった感じで胸を叩くユニさん。

 なんか不安だ……。

「…………サクラハラ様はそれでよろしいでしょうか?」

 イヴァンさんも不安なのか、少しの沈黙の後、僕に話を振ってきた。

 話を振られても、ユニさんが期待に満ちた表情でこちらを見ている以上、たとえ嘘は見抜かれてるとしても僕はこう言うしか無い。

「ぜ、ぜひお願い致します……」

 不安だ……。



 ――――――



「ふいー……」

 久しぶりのお風呂に思わずおっさんみたいな声が出てしまった。

 結局あの後、僕とイヴァンさんの不安をよそにユニさんはお風呂の案内という任務を完璧にやり遂げた。

 考えてみればユニさん自身もいつも入っているのだから説明できて当然だったのだろう。

 不安に思うのが失礼な話だった。

 驚いたのは、寝室にあったドアのもうひとつが脱衣室でその先が浴室だった――ちなみに、談話室にあるドアはキッチンと従者の控室らしい――ことと……。

「まさか普通にお湯が出てくるとはなぁ」

 浴室の中には日本のものとはちょっと違うけど陶器製のバスタブが置いてあって、そのそばの壁から生えているライオン?の顔の右目についている赤い宝石を撫でるとライオン?の口からお湯が出てきた。

 左目についている青い宝石を撫でると水が出るらしい。

 数年前に開発された魔法を使った最新技術で、このお屋敷にも去年導入されたってユニさんが興奮気味に自慢……説明してくれた。

 日本から持ってきたものの説明の時といい、こういう技術系が好きなのかもしれない。

 男の子だな。

 液状じゃないけれど石鹸もあって、しかも、体洗う用と髪を洗う用で分けられていた。

 一通りの説明とバスタオルの場所を教えてくれてユニさんは出ていった。

 洗いますって言われたけど、自分で洗えると言ったら素直に引き下がってくれた。

 裸を見られるのもそうだけど、さすがに体を洗ってもらうのは恥ずかしすぎるので助かった。

 久しぶりのお風呂だし、のんびりさせてもらうとしよう。
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