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「企業舎弟の遥かな野望」ー42(勝負)
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第四十三話ー「勝負」
小野田は病室のベッドで、テレビから流れて来るニュースにクギ付けになっていた。
―――政府は、今週初めにインターネットサイトに投稿された、所謂ゴシップ写真に関して、当初は悪質な悪戯と静観していましたが、その信憑性がインターネットユーザーの間で追及されはじめ、非常に信憑性が高いとして認知し始めたのを重く見て、調査チームを立ち上げる、と表明しました……
小野田は、手元のスマートフォンで検索サイトに「官僚・ゴシップ・写真」と打ち込んで開いてみると、もの凄い量の投稿記事が並んでいた。
各省庁の高級官僚が、醜悪な姿で女を抱く写真がとめどなく流れていた。関係部署の人間が削除依頼しても次から次へと“魚拓”を取られたネタ元が、雨後のタケノコのように表に出ては拡散されていった。小野田は、改めてネット社会の恐ろしさを知ったが、同時に口元の緩みをどうしても止められなかった。
――やってくれたね……あの刑事さん
結局、対応に苦慮した各省庁では真偽はともかく、該当する人間から事情聴取するに至り、釈明できずに辞めて行くもの、また家庭崩壊に追い込まれ、今まで歩んで来たエリート街道から真っ逆さまに転げ落ちて社会から抹殺される者――それら全てがネットで晒され、行き着いた果てまで克明に晒さた。
それは、――掴み所のない目に見えぬ力で、今までずっと地下深くで燻っていたマグマが何かのきっかけで轟音とともに吹上げ「法と権力」に守られてきた醜悪なものどもを、一気に飲み込んで葬り去った――そんな風に面白おかしく評論された週刊誌の記事が、連日のように踊った。
願わくば、こんな形で奴らを葬りたくは無かった小野田だが、自分一人の非力さを思い知った今では、それは「最善の策」だったのかもしれないと、冷ややかな笑みを浮かべ、まだ痛む背中の傷を庇うこともなく酒を呷った。
―――――――――
松平公平は五年振りの東京の空気を吸った。
街はクリスマスのイルミネーションに煌めき、歩く人々の足取りは、青森の片田舎とは違い、危うくその波に乗れず弾き出されそうになって、田舎から初めて東京に出て来たものが零す戸惑いさえ覚えた。
しかし、これから自分にとっては「一か八」かの大勝負に出るという高揚と緊張で全身の筋肉が弛緩し、久しぶりに味わう心地よい心臓のリズムをスーツの下で感じ取って、松平はしっかりした歩みで「警察庁」庁舎に入っていった。
再びこのビルを出て来る時、それが「凱旋」となるのか「敗北者」となるのか、それは松平にとっても、橙子や小野田にとっても、大きな賭けであった。
十二月の東京の北風は青森のそれに比べれば、随分優しかった。
第四十三話「勝負」ー了
小野田は病室のベッドで、テレビから流れて来るニュースにクギ付けになっていた。
―――政府は、今週初めにインターネットサイトに投稿された、所謂ゴシップ写真に関して、当初は悪質な悪戯と静観していましたが、その信憑性がインターネットユーザーの間で追及されはじめ、非常に信憑性が高いとして認知し始めたのを重く見て、調査チームを立ち上げる、と表明しました……
小野田は、手元のスマートフォンで検索サイトに「官僚・ゴシップ・写真」と打ち込んで開いてみると、もの凄い量の投稿記事が並んでいた。
各省庁の高級官僚が、醜悪な姿で女を抱く写真がとめどなく流れていた。関係部署の人間が削除依頼しても次から次へと“魚拓”を取られたネタ元が、雨後のタケノコのように表に出ては拡散されていった。小野田は、改めてネット社会の恐ろしさを知ったが、同時に口元の緩みをどうしても止められなかった。
――やってくれたね……あの刑事さん
結局、対応に苦慮した各省庁では真偽はともかく、該当する人間から事情聴取するに至り、釈明できずに辞めて行くもの、また家庭崩壊に追い込まれ、今まで歩んで来たエリート街道から真っ逆さまに転げ落ちて社会から抹殺される者――それら全てがネットで晒され、行き着いた果てまで克明に晒さた。
それは、――掴み所のない目に見えぬ力で、今までずっと地下深くで燻っていたマグマが何かのきっかけで轟音とともに吹上げ「法と権力」に守られてきた醜悪なものどもを、一気に飲み込んで葬り去った――そんな風に面白おかしく評論された週刊誌の記事が、連日のように踊った。
願わくば、こんな形で奴らを葬りたくは無かった小野田だが、自分一人の非力さを思い知った今では、それは「最善の策」だったのかもしれないと、冷ややかな笑みを浮かべ、まだ痛む背中の傷を庇うこともなく酒を呷った。
―――――――――
松平公平は五年振りの東京の空気を吸った。
街はクリスマスのイルミネーションに煌めき、歩く人々の足取りは、青森の片田舎とは違い、危うくその波に乗れず弾き出されそうになって、田舎から初めて東京に出て来たものが零す戸惑いさえ覚えた。
しかし、これから自分にとっては「一か八」かの大勝負に出るという高揚と緊張で全身の筋肉が弛緩し、久しぶりに味わう心地よい心臓のリズムをスーツの下で感じ取って、松平はしっかりした歩みで「警察庁」庁舎に入っていった。
再びこのビルを出て来る時、それが「凱旋」となるのか「敗北者」となるのか、それは松平にとっても、橙子や小野田にとっても、大きな賭けであった。
十二月の東京の北風は青森のそれに比べれば、随分優しかった。
第四十三話「勝負」ー了
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