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「企業舎弟の遥かな野望」ー27(明石)

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第二十七話ー「明石」

明石の元に、衆議院議員 袴田幸太郎の秘書、朝倉から電話が入った。

ーーー明石さん、ちょっと尻尾に火が点いてきたようです。
ーーーと、、、申しますと?
 
 明石は、朝倉の声音にいつもの冷静さがないことに不安を感じた。

ーーー鹿島さんと、先生の関係を地検がかなりのとこまで追い込んでるらしくて、近く私は特捜部に呼ばれる可能性が高くなったきました。

ーーーしかし、「鹿島」さんとこに、立入捜査でも入らない限り、確証は出てこないでしょう。鹿島社長もそこんとこはかなり神経使って先生の身に及ばないようにされてるはずですが。

ーーーええ、それは万全だと鹿島さんはおっしゃってますが、特捜は同時にFDCさんサイドからも追ってるらしいんですよ。私が心配するのはこっちなんです。
 大丈夫なんですか?明石さん、、、

ーーーいや、うちも万全に手を打ってます、ご心配には及びません。

ーーーオタクと大川さんとの関係が表に出ても?、、、ですか?

ーーーえ?、、、それは

 明石は瞬間に悟った。そっちの線は甘い、、、と 「FDC開発」は部下の木下を通じてコントロールさせているが、「FDC開発」は元々、名古屋地盤の中堅不動産開発会社を買収して出来た会社であり、実務は元の社員の殆どが担っていたので、目の届かないこともあるのは事実だったのだ。

ーーーそっちから火が点けば、芋つる式に、こっちまで火の粉を被りかねませんよ?

 朝倉の声は抑揚が無い分、迫力があった。

ーーーわかりました、私が責任もって綺麗にしておきます。
ーーーお願いしますよ?事態は急を要します。県警のマル暴が動くという情報も入手してます。

 今、マル暴に動かれたら、万事窮すだ。あそこは一番守りが甘い

ーーー私は、万が一事情聴取されても黙秘で通します。絶対に先生を守らねばなりませんので。ただ、、、

ーーーただ?

ーーーその為には、我々はなんでもする覚悟だと、だけお伝えしておきます。

 電話を切った明石は、朝倉の「なんでもする」という言葉が不気味で直感的に身の危険さえ感じた。
 
 明石は、急ぎ背広を羽織り「FDC開発」へ向かおうとしたが、役員室のドアの前で踵を止めた。
 そしてデスクに戻り木下を呼び出し、すぐに部屋に来るように命じた。

 木下は、明石の配下でFDCでは財務部長という役職にある男だった。明石はこの男の生来の「渉外能力」を高く買っていて、「裏の仕事」にも使っていた。

ーーーすぐに「FDC開発」に飛んでくれ、家宅捜査ガサが入る前提でヤバいもんを全部処理して来てくれ。

 「FDC開発」は岐阜に事務所を構えていた。
木下は、ザビエル禿げの頭をチョコんと下げて、役員室を出て行った。

 明石は、袖机の上の引き出しの裏に貼り付けておいた メモリーチップを剥がし、そっと財布にしまって部屋を出た。

         (第二十七話ー了)

 
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