始まりの猫

朋藤チルヲ

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もみじとよもぎ

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「――――もみじ!? 見つけた! こんなところにいたんだ! あれ? よもぎもいる! 嫌だ、いつのまに家から出てきたの?」

 明日美ちゃんは僕たちを抱き上げた。そして、濡れた頬を擦りつけた。僕は、いつのまにか猫の姿に戻っていた。




 あれから。

 何度『逆さお星さま』の呪文を試しても、お星さまは二度と僕を人間の姿にしてくれることはなかった。

 もう一度だけ『紅葉』になって、明日美ちゃんにきちんと謝ろうと思ったのだけど、それはもう叶わないのだと知った。

 でも、それでいいのかもしれない。明日美ちゃんが悲しい気持ちを思い出すきっかけになるのなら、『紅葉』はもう現れないほうがいい。

 家には、初めて明日美ちゃんの『彼氏』だという男がやってきた。

 男は変な人間だった。僕たちを見ると、どういうわけか興奮して抱きしめようとする。たまたま外で会った時には追いかけてきて、無理やりに頬擦りしようとするんだ。

 ムカムカするからいつだって引っ掻いてやるのに、何度引っ掻かれても男はぜんぜん懲りない。泣きながらニコニコして、本当に変な人間。よもぎも呆れ返っている。

 でも、僕たちのそんなやり取りを眺める明日美ちゃんが、本当に幸せそうに笑うから、まぁ、もうしばらくは相手にしてやってもいい。




 明日美ちゃんとお話ができないのは、正直残念ではある。だけど、ネモフィラの絨毯に寝そべりながら、ある時よもぎが言ったんだ。

「本当に大切なことって、言葉じゃなくても伝わるんだよな」

 僕もそう思う。









(もみじとよもぎ~fin~)
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