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 雨が降り出したのは、お店を出て、目的のコンビニへと車で向かい始めた時。天気予報通りなのに、不安と緊張を抱えて気分が重いわたしは、悪い暗示かもしれないと勝手に解釈して、さらに落ち込みつつワイパーを作動させた。

 五分も走れば着くコンビニ。
 来店客の邪魔にならないように、駐車場の隅に停車してエンジンを切り、福永さんを待つ。

 仕事関連の話なら、お店で話せばいいことだ。場所を変えてなんて、やっぱり十五年前のことにしか思えない。福永さんはたぶん、わたしが正体を知ったことを、姉からでも伝え聞いたのだ。
 妹さんのことで責められるのかもしれない。
 責められて当然の立場とはいえ、とても正常な精神でいられる自信がなかった。

 息が詰まりそうな時間を過ごしていると、一台の乗用車が駐車場に入ってきた。
 白いハッチバック。店舗に向かってバックする形で隣に並ぶと、助手席側のパワーウインドウが下がった。雨の奥に見えたのは、福永さんだ。

 その瞬間、頭からのし掛かっていた重いものがすべて吹き飛んで、会えた嬉しさだけがわたしを支配した。
 
 そんな立場でも場合でもないのに。
 人を好きになるとは、なんて厄介なのだろう。
 
 福永さんは目配せをした。こちらに乗れということらしい。
 目の前に、ここにいない琴音の顔がちらつく。
 もし今偶然に通りがかったなら、ものすごい剣幕で駆け寄ってきて、乗ってはだめと止めるに違いない。あれほど男性の車に一人で乗るなと、福永さんはやめておけと言ったでしょ、と。

 でも、ごめん。琴音。
 わたしはバッグとスマートキーを手に車を降りた。

「待たせてすまない」

 遠慮がちに乗り込んですぐ、福永さんは謝ってきた。

「い、いえ」

 車内は、社用車の中よりもずっと福永さんの香りに満ちている。全身がぎゅうと搾られるような、甘い痛みを感じた。

 音楽も、ラジオのパーソナリティーの声も流れていない。フロントガラスを雨が叩く音すら届かない、静かな車内。福永さんはハンドルに右手を乗せて、前を向いたまま切り出した。

「店でも言ったが、別の場所に移動したい。俺の車で行こう。コンビニの店長には話を通しておいたから、君の車はここに置いたままで大丈夫だ」
「あ、はい」
「俺の知る店でいいか?」
「え?」
「長くなりそうだからな。腰を落ち着けられる場所がいいだろう。そしてお互い、退勤したばかりで夕飯がまだだ。どうせなら、ついでに腹を満たせられる場所がいい」
「はい……」

 バッグの持ち手を握る手に、ぎゅっと力を込める。

「心配するな。社長の娘なのだから奢って当然などと言わない。それとも、俺なんかと向かい合っては、食事なんて喉を通らないか」
「い、いえ」

 恋は本当に厄介だ。
 だめだと言われても、その声がわたしの身を案じるものだとわかっていても、想う相手に憎まれていたとしても、一緒に時間を過ごしたい気持ちのほうがまさってしまう。

 だから、なおさら。わたしはわたしの罪に、想いに、一人で決着をつけなければならない。

「大丈夫です」
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