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第154話

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 セイコウコウボウがデーブとハゲインを一瞬だけ見ると、2人の顔が引きつった。
 多分、こんなに強いって分からなかったんだろうな。
 デーブもハゲインも人を見ていないように思う。
 2人とも教会ギルド長に向かないと思った。

 セイコウコウボウの機嫌はまだ悪く、デーブとハゲインを一瞥した後帰って行った。
 俺は帰るのを止めないし、カムイですら止めない。
 機嫌の悪いセイコウコウボウには近づかない方がいいのだ。

「全員防壁の中へ!お疲れさまでしたわ。後は見学ですわ!」

 ファルナが俺達を防壁の中に入るように指示を出した。
 ファルナも危険な予感を感じているようだ。

 俺達は防壁の上に上って見学する。

「次は我だ!」

 デーブの教会騎士団が前に出て、それよりかなり後ろに離れてデーブが止まる。
 出された椅子に当然のように座り、4人の護衛がデーブの周りを囲む。

 デーブの教会騎士団は、4人の重鎧と大楯を装備した4人が前に出て、その後ろに隊列を組んだ魔導士が杖を持って並ぶ。

 エクスファックが歩いてくると、デーブが叫ぶ。

「神の4騎士よ!女神の名の下使命を全うするのだ!」

 重装備の前衛4人がエクスファックを包囲して攻撃する。
 その瞬間にデーブが叫んだ。

「総攻撃開始いいいいいい!」

「「カースウォー!」」

 全員が一斉にカースウォーを使った。

「ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!」
「ウインド!ウインド!ウインド!ウインド!ウインド!」

 後衛の魔導士が一斉に攻撃魔法を放つ。

 エクスファックと4人の重騎士は魔法攻撃を浴びつつ、地面に倒れる。
 エクスファックは転倒した後すぐに起き上がろうとするが、魔法の集中攻撃により、消えてドロップ品と魔石に変わった。

 4人の重騎士は誰なのか判別できないほどの傷を負い、鎧ではなくなった鉄の塊から血が流れだす。
 4騎士はもう、生きていない。

 絶対に4人を犠牲にする勝ち方。
 俺は、このやり方が好きじゃない。

 椅子に座っていたデーブが上機嫌で椅子から立ち上がり、俺達の方を向いた。
 両手を横に大きく開いて自慢するように言った。

「がはははははははは!どうだ!教会ギルド長にふさわしいのはこのデーブだ!わずか4人が女神の元へ旅立ったが、それ以外の犠牲は無い!あのエクスファックを瞬殺してやったわ!がははははははは!」

『神風特攻隊』

 自爆攻撃と本質は同じだ。
 重騎士は死ぬ前提でエクスファックに突撃してターゲットを取る。
 その隙に重騎士もろともカースウォー&攻撃魔法で瞬殺か。
 気に入らないな。

 デーブの騎士団を見ると、デーブに怒られながら魔力ポーションを贅沢に飲んでいた。
 資金にも余裕があるようだ。

「次は我だ!」

 ハゲインが教会騎士団を前に出した。
 教会騎士団は全員杖を構える。
 全員魔導士か。

 ハゲインは後ろから出された椅子に座る。
 デーブと同じ性格だな。

 エクスファックが歩いてくると、ハゲインが指示を出す。

「総攻撃!開始いいいいい!」

 教会騎士団の全員が魔導士か。

「「カースウォー!」」

 またカースウォーからの攻撃魔法か。
 だが、攻撃魔法の隙を縫うようにエクスファックがステップを踏んで魔導士部隊に突撃した。

 エクスファックのHPが半分になり、魔導士部隊の中心で黒い霧の状態異常攻撃を放つ。

 そして黒い霧に紛れるように魔導士を惨殺していった。

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいい!」

 ハゲインが後ろに下がろうとすると、デーブが指示を出す。

「命をかけて戦う教会騎士団の指揮を放棄し一人だけ逃げ出そうとするその姿!奴は悪魔だ!ハゲインもろとも総攻撃を仕掛けろ!」

「カースウォー!ファイア!ファイア!ファイア!ファイア!」
「カースウォー!ウインド!ウインド!ウインド!ウインド!」
「カースウォー!ライト!ライト!ライト!ライト!」

 魔導士がカースウォーの後に攻撃魔法を放ち、ハゲイン・エクスファック、そして逃げる教会騎士団を殲滅させた。

 デーブが大声で叫ぶ。

「これは可及的速やかに行うべき緊急事態であった!我だけが素早く動き、エクスファックの脅威から民を救ったのだ!咄嗟に動けなかったセイコウコウケンは教会ギルド長の器ではない!そして、自らが防壁の中に退避し、安全な場所に居るだけのファルナには我を批判する権利は無い!」

 デーブ。
 自分は遠くの安全圏から騎士団を犠牲にして戦い、教会の脅威を対策する為に防壁の中に入ったファルナを批判するか。
 言っている事がめちゃくちゃだな。

 結果を出しはしているが、奴は自分の欲望の為なら虫を踏み潰すように人を殺し続けるだろう。

「ハゲインを殺す必要はありませんでしたわ!」
「奴は悪魔だ!それに射線上に居たのだ!ここで躊躇すれば被害は拡大していたのだ!防壁の内側にいただけの王に言われたくは無いわ!最後のエクスファックが来た!見学を続ける!」

 デーブは人を批判するのがうまい。
 常に人を批判して、自分ではできるだけ動かず、踏み台にしてきたんだろうな。
 自分のことを棚に上げて人を批判し続けてきた百戦錬磨のように見える。

 日本の会社によくある話だ。
 デーブは社内闘争だけは強いボス猿だ。
 奪うのは上手でも、利益を生み出す能力は無いから会社の利益を上げられず、ボス猿社長の影響で会社が傾いていく。
 剛腕でうまくいくケースもあるが、デーブの場合会社の資産を自分に集める為に力を使い、利益を上げないだろうな。

 いや、そう考えると悪質な寄生ウイルスの方が近いのかもしれない。

 セイコウコウケンが前に出てくる。
 デーブと違って自分だけが前に出る。

 だが、歩いてくるエクスファックの動きに違和感を感じた。

「なん、だ?エクスファックと違う?」

 エクスファックと同じ見た目ではある。
 だが、動きがいつもと違う。

 アオイが叫んだ。

「あれはエクスファックではないわ!エクスファック改よ!通常のエクスファックより強いわ!」

 エクスファック改?
 改ってなんだ?
 まるで改造されたかのような呼び名だな。

 周りがざわつき、その事でアオイの声が聞こえなくなる。

「みて!エクスファック改が走ったわ!」
「セイコウコウケンに向かっていくううう!」

 セイコウコウケンとエクスファック改が打ち合う。
 セイコウコウケンはカムイに近い力を持ってるように見えた。
 俺より強い。
 行けるんじゃないか!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 セイコウコウケンがアーツを使ってエクスファック改を追い詰める。
 エクスファック改のHPが半分になると、異常が起きた。

 エクスファック改は黒いオーラをまとわず、体が光り出したのだ。

「傷が!回復している!」

 俺はアオイの至近距離に近づいた。

「超再生よ、MPを消費しながらHPを回復しているわ!ハヤトのリジェネと同じよ!」

 エクスファック改は機械的で感情が無く、だが異様に大きな声で言った。

「分析、完了。脅威優先順位①教会騎士団、②セイコウコウボウ、③カムイ、④セイコウコウケン。脅威優先④、セイコウコウケン、排除成功率98%、排除、可能と、判断。作戦、遂行。ダミーファック改、4体、すべて投入」

 向こうから4体のダミーファックが。いや、ダミーファック改が走って来る。
 隠密スキルを解除して更にスピードを上げた。
 遠くに隠れて隠密スキルを使っていたか!

 ダミーファック4体の動きが速すぎる!

 セイコウコウケンはエクスファック改1体とダミーファック改4体に囲まれた。
 セイコウコウケンの騎士団と、俺達が慌てて動こうとするが、それよりもデーブが早く動いた。

 デーブは邪悪な笑みを浮かべた。

「エクスファック改!ダミーファック改を攻撃しろ!セイコウコウケンもろとも滅ぼせ!」

「「カースウォー!」」

 この後は悲惨だった。

 助けに駆け寄ったセイコウコウケンの教会騎士団は問答無用で魔法攻撃で殺され、セイコウコウケンを狙うように魔法が放たれた。

 セイコウコウケンも、エクスファック改も、ダミーファック改も、すべて魔法で倒し、デーブ以外のギルド長候補者はデーブの指示によって殺された。

 その後抗議するファルナにデーブの教会騎士団が杖を向けた。
 俺とアオイがファルナを止めて、強引にデーブの元から引きはがし、全員を帰還させる。

 デーブは、あいつは俺達を殺す事に躊躇していなかった。
 セイコウコウボウがいたとしても、ファルナ陣営のほとんどが死ぬ。

 俺達は、逃げるように撤退した。
 いや、逃げたのだ。



 だが、逆転の機会が来るまで時間はかからなかった。




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