上 下
147 / 179

第147話

しおりを挟む
【王国歴1000年春の月72日】 

 俺とアオイは昨日の夜も一緒に寝た。
 早めに起きて人のまばらな食堂でアオイと一緒に朝食を食べる。

「ふふふ、いい時間だわ……ハヤト、下に隠れなさい!」

 俺は瞬時に隠れた、だがアオイは隠れない。
 ああ、ヒメが来たからか。

「ヒメ、おはよう。たまには一緒に食事でもどうかしら?」
「そう、ね」

 ヒメが座るまで隠れていたが、アオイの合図で姿を現す。

「よ!ヒメ、たまには話をしようか。ほら、きゅうもいるぞ~!」
「……ハヤト君」
「どうした?」

「私を小動物みたいに思っているよね?」

 その瞬間にアオイが笑い出した。

「ヒメは小動物を超える可愛さだぞ」
「ふ、ふふふふ。ヒメ、ハヤトはね。好きな子をからかいたい小学生と一緒よ」
「す、好き!」

「ヒメ、きゅうだぞ。最近抱いてないだろ?」

 ヒメは無言できゅうを受け取った。

「ヒメ、アドバイスをしておくわ」

 アオイが急にヒメに向き合った。

「な、何?」
「いつまでも恥ずかしがっていると、ハヤトのSな部分を刺激してしまうわ。そうね。例えば、ヒメを恥ずかしがらせる為にお姫様抱っこをしたり」

「それ!やられたよ!」
「あれ?二人は前から仲が良かったか?」
「ハヤト、私が変わったのだから、ヒメの態度が軟化しただけよ」
「今日は久しぶりにたくさん人と話した気がする」

 アオイが俺の頭を撫でる。

「そうね。私がたくさん話をしてあげるわ。それと、レベルを100に上げましょう」
「急にどうした?」
「トレイン娘は、ハヤトのレベルが100になれば目覚めると思うわ。確実ではないのだけれど、私の目にはそう見えるのよ」

「分かった。と、その前に、カムイ、ファルナ。用があるんだろ?カムイとファルナがいる時は大体悪い事があったか軍を動かす時だからな」

 カムイとファルナはプライベートでは話をそこまでしない。
 仲が悪いわけではないけど、カムイがファルナに遠慮しているように見える。

「楽しそうだったので見ていたのですわ。ですが、場所を移動して話をしますわよ」

 やばい案件確定か?


 会議室に5人で座り、話を聞くが、ヒメはピリピリした雰囲気に飲まれてきゅうをしきりに撫でて落ち着こうとしている。

「結論から言いますわね。3人でダンジョンに籠って欲しいのですわ」
「ヒメを逃がしたファングから守るためよね?」

「そうですわね。今犯罪者は疲弊していますわ。今このタイミングで一気に叩きたいのですわ」
「ヒメを護衛する必要が無いように隠れてダンジョンに向かえばいいのか」
「その通りですわ」

「何日したら戻ればいい?って言うのも、その気になれば俺は30日以上ダンジョンで暮らせる。今はセーフゾーンがあるんだ」
「春の月、75日、それまでは、攻め続ける」
「すみませんわ。犯罪者の出方次第ですわね」

 犯罪者がどう動くか、どこまで鎮圧できるかはやってみなければ分からない。
 対人は特にどう動くか予想しにくいか。

「じゃあ、76日の朝に、何事も無ければ戻って来る。これでどうだ?その時にまた話し合いをする」
「そう、ですわね。そう、しますわ。一応兵をダンジョン前に付けますわね」
「すぐ出発する」

 俺達はすぐにダンジョンに向かった。



【ダンジョン3階】

「おお!ダンジョン3階か」
「一応言っておくわ。ガードスライム・ガードオーク・アサシンゴブリンがいるわね」
「全部魔導士潰しじゃないか」

 しぶといガード系の魔物は魔導士のMPが切れるまで耐えてその後反撃する。
 アサシンは素早く魔法攻撃を避けて急接近してから魔導士に攻撃を仕掛けたり、奇襲を仕掛ける事で優位に戦いを進める。

「そうね、ヒメが魔導士で私は槍使いの戦士。ハヤトがハイブリットなのだから、問題無いわね。ただ、出来れば4人パーティーの方が安定するのだけど」
「そこでトレイン娘の復活か」
「ハヤト、トレイン娘と私、それにヒメを抱きましょう」

「わ、わた、私!」

 俺とアオイは焦るヒメの頭を撫でた。

「ヒメは可愛いわね」
「ヒメ、可愛いぞ」

 ヒメが真っ赤になる。

「そう言うの、やめて欲しいなぁ」

 消え入りそうな声でヒメが言った。

「ごめんなさい。さあ、3階は苦戦する事が無いのだから、先に進みましょう」

 ガードスライムが3体か。

「ライト!」

 ヒメが光の球体を作りだしてガードスライムにヒットさせた。
 だがまだ倒れない。

「ライト!」

 2発のライトでガードスライムを倒した。

 俺とアオイは一瞬で1体ずつ倒していく。

「敵が弱すぎるわね」
「先に進むか」
「ええ!私は2回当てないと倒せないよ!」

「いや、悪くないぞ。こいつら魔導士潰しだしな。倒しにくいようになってるんだ」
「ヒメはしっかり2発命中させているわね。プレイヤースキルは悪くないと思うわ。4階に行きましょう。4階の魔物も3階と同じ種類が出てくるわ」

 俺達は目につく敵だけ倒して4階に進んだ。



【ダンジョン4階】

「ここも問題無さそうね」

 アオイがアサシンゴブリン4体を突き倒した。

「セーフゾーンを見に行かないか?人が多そうなら、5階に行くことも考えたいんだ」
「そうね、行ってみましょう」
「2人とも気が合うよね」

「あら、ヒメはハヤトと逆の性格なのだから補い合う事で相性はいいと思うわ」
「そ、そんな話じゃなかったよ」
「ふふふ、そうね」



 俺達はキャンプにたどり着く。

「誰もいない。丁度いい」
「キャンプを張るわ」

 アオイは素早くキャンプを設営した。
 早い!
 
「さあ、ヒメ、少し中で休みましょう。少し横になった方がいいわ」
「ありがとう」

 ヒメは横になった。

「ハヤトも少し休みましょう」

 アオイがにやにやしている。
 でも、乗っかってやるか。
 俺はヒメの隣に横になった。

「え!え!」
「ヒメ、休息は大事だ。休む時には休む!これは鉄則だ!目を閉じて、体を休めよう。明日に響くぞ」

 ヒメはむくっと起き上がり、火を起こすアオイの元に向かった。
 やっぱり、逃げられるよな。
 分かってた。
 思えば温泉の時から逃げられっぱなしだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ
ファンタジー
日本の社会人として暮らす|大倉潤《おおくらじゅん》は女神に英雄【ジュン】として18才に若返り異世界に召喚される。 ジュンがチートスキルを持たず、他の転移者はチートスキルを保持している為、転移してすぐにジュンはパーティーを追放された。 ジュンは最弱ジョブの投資家でロクなスキルが無いと絶望するが【経験値投資】スキルは規格外の力を持っていた。 この力でレベルを上げつつ助けたみんなに感謝され、更に超絶美少女が俺の眷属になっていく。 一方俺を追放した勇者パーティーは横暴な態度で味方に嫌われ、素行の悪さから幸運値が下がり、敵にマークされる事で衰退していく。 女神から英雄の役目は世界を救う事で、どんな手を使っても構わないし人格は問わないと聞くが、ジュンは気づく。 あのゆるふわ女神の世界管理に問題があるんじゃね? あの女神の完璧な美貌と笑顔に騙されていたが、あいつの性格はゆるふわJKだ! あいつの管理を変えないと世界が滅びる! ゲームのように普通の動きをしたら駄目だ! ジュンは世界を救う為【深刻な女神力不足】の改善を進める。 念のためR15にしてます。 カクヨムにも先行投稿中

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉

菊池 快晴
ファンタジー
入学式当日、学園の表札を見た瞬間、前世の記憶を取り戻した藤堂充《とうどうみつる》。 自分が好きだったゲームの中に転生していたことに気づくが、それも自身は超がつくほどの悪役だった。 さらに主人公とヒロインが初めて出会うイベントも無自覚に壊してしまう。 その後、破滅を回避しようと奮闘するが、その結果、ヒロインから溺愛されてしまうことに。 更にはモブ、先生、妹、校長先生!? ヤンデレ正ヒロインストーカー、不良ヤンキーギャル、限界女子オタク、個性あるキャラクターが登場。 これは悪役としてゲーム世界に転生した俺が、前世の知識と経験を生かして破滅の運命を回避し、幸せな青春を送る為に奮闘する物語である。

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...