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第112話

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「エリス」
「あ、あのね、ハヤトの部屋でもう少し話をしたいんだ」
「そうだな。話をしよう」



 2人で部屋のベッドに座る。

「す、少し暑いね」
「そうだな」

 気温が高いわけではない。
 俺の体が内側から熱くなる。
 そしてエリスも赤くなっているのだ。

「ハヤトがいなくて、僕はさみしかったんだ」

 エリスが俺の背中を触る。

 俺は今まで無視して見ないようにしていた事があった。
 命がかかっているから後回し、そう思って今まで来た。
 でも、転生した今は違う。

 俺は、トレイン娘の事が1番好きで、今エリスを抱いてしまうと、エリスになぐさめてもらう事になる。
 言わない方がいいとも思った。
 でも、嫌な思いをされても、エリスや皆には誠実でいたい。

 今は命のやり取りをする状況ではない。
 伝えよう。

「俺は、トレイン娘の事が1番好きで、今エリスを抱くと、トレイン娘の代わりに抱くことになってしまう」

 エリスが俺の口を塞いだ。
 そして耳元に口を近づける。

「大丈夫だよ。みんな分かっているんだ。分かっていてそれでも一緒に夜を過ごしたいんだよ」

 エリスの甘い声が体の芯に響くように感じた。

「エリ、ス」
「僕を、もっと抱いて欲しいんだ。温泉でも、ダンジョンでも抱いて欲しいんだ」

「分かって、いたのか?」

 俺はトレイン娘と温泉でシテ、ダンジョンでもシタ。

「分かっていたよ。はあ、はあ、僕は何度もしたいと思っていたんだ。でも、今までハヤトに余裕が無くて言えなかったんだ。僕とするのは嫌かい?」
「嫌な訳がないだろう。エリスも、好きなんだ」

 エリスがゆっくりと立ち上がった。

 そして紋章装備を解除して俺に向き合う。



 ◇



【王国歴1000年春の月10日】

 目覚めると日の光がまぶしく感じた。

 俺の横にはエリスがいる。

「もう、お昼だよ」
「そうだな、食事にしよう」

「ハヤト」
「ん?」
「トレイン娘の代わりでも僕はいいよ。皆も同じ気持ちだと思うんだ」
「でも、聞いてみないと分からない」

「僕が皆に聞いてもいいかな?」
「いいけど、自分で聞いておきたい」

 エリスは首を横に振った。
 そして耳元でささやく。

「ハヤトはレベル上げに専念して欲しいんだ。僕も温泉やダンジョンでシタいんだよ」
「ダンジョンは俺のレベルが上がって安全になってからな」
「今日はダンジョンが終わったら2人で温泉に行かないかい?」

「分かった」

 俺は午後ダンジョンに行って魔物を狩った。
 そして温泉に行ってきて、更に俺の部屋で2人過ごした。



 ◇



【王国歴1000年春の月11日】

 チュンチュンチュンチュン!

 エリスのが寝る横で、ステータスを開いた。
 


 ハヤト 男
 レベル:4
 ステータスポイント:0
 スキルポイント:1
 ジョブ:ハイブリッド
 体力:2
 魔力:12
 敏捷:7  
 技量:7  
 魅力:12  
 スキル・攻の紋章LV3・防の紋章LV2・銃の紋章LV1・収納の紋章LV2・カートリッジの紋章LV3・リジェネLV0・経験値取得増加LV0・強化の紋章LV0・きゅう???
 武器 刀:90 ハンドガン:10(最大10発) 防具 ミリタリージャケット:40

 
 今回はレベルアップし、ポイントを『カートリッジの紋章』を検証するために使った。

 検証の為魔力に全振りした。
 その中で分かった事がある。
『カートリッジの紋章LVとMPが上がれば武具と銃弾の回復効果が増す』
 
 次の方針に迷う。

 今取れるハイブリッドスキルをすべてLV3に上げれば『リジェネ』のスキルを解放できる。
 となればLVの低い『銃の紋章』LVを上げて、銃の検証も出来る。

 だが安定して強くなれる攻の紋章と防の紋章を強化する道も捨てがたい。
 それと1つだけ空いたスキル枠がある。
 基本スキルを取ってしまいたいという思いもある。
 能力値で見ると体力が少なすぎる点も気になっている。

 徐々にレベルが上がりにくくなってきた。
 序盤の決断は今後を大きく左右する気がする。



 パアン!
 勢いよく扉が開けられた。

 シスターちゃんが部屋の中に入って来る。

「いいのです!気にしなくて良いのです!私を抱いて元気になるのです!」

 目が完全に覚めた。

「どういう事?」
「シスターちゃんはハヤトが言っていた『今他の人を抱くと、トレイン娘の代わりに抱くことになってしまう』の事を言っているじゃないかな?」

「その通りなのです!」
「シスターちゃん、今日はこれから学園で講義が始まるんだ」
「ま、まだ時間はあるのです!これからスルのです!」
「いや、無いだろ」
「くう、学園が終わってからなのです!」

「学園が終わって、ダンジョンに行ってきて寝るだけになってからでも良いか?」
「……そうするのです」

 シスターちゃんが子犬のように見える。

「とりあえず食事に行こう、その後は講義室だ」

 シスターちゃんは無言で俺の腕に絡みつき、反対側にはエリスがいる状態で食事を摂る。

 この数日でダンジョン調査が大幅に進んだ。
 ダンジョンの地形は一気に変容したが、魔物の変容は下の回から徐々に進行しているようだ。
 午前は学園で講義を受けて午後はダンジョンに向かう。
 それが学園のルーティンになる。

 俺達は一緒に食事を摂って学園の講義室に向かった。

 俺の左右に美女がいる事で講義中アサヒは俺を睨むように見ていたが無視した。
 ヒメは俺達をちらちらと見ていたがこっちに来ない。

 俺はヒメに話しかける。
 少しでも話をすると決めたのだ。

「ヒメ、おはよう」
「お、おはよぉ」

 ヒメがすっと視線を外して俺から離れる。

「どうしたんだ?」
「気にしなくていいよ。恥ずかしがっているだけなんだ」
「そ、そうか」

 椅子に座ると、両隣にシスターちゃんとエリスが座る。
 シスターちゃんが頬を擦りつけるように俺にもたれかかってきたが、その時アサヒが持っていたペンを2つに折った。
 怒ってる怒ってる。
 だが、講義が始まり女性教師が話し始めた事でこちらには来なかった。

「それでは抗議を始めます。
 現状高レベルの者限定で『ソウルスキル』の存在が確認されています。
 ソウルスキルは固有スキルに変わる役割を担うとの見方が有力ですが、現状ソウルスキルの発現方法はよく分かっていません。

 ソウルスキルにはエリスさんの使う『次元工場』などがありますが、もっとも有名なのは何と言っても皆の憧れであるファルナ様が使う『ヒーリングフィールド』でしょう。
 あの神々しく、そして美しく、その上で凛とした女神のような美しいお姿が女神のように輝き、周りにいる皆を癒します。
 そして……」

 あの教師はファルナをひいきし過ぎじゃないか?
 ソウルスキルか。
 今の所覚えているのは高レベルな者だけで、それ以外の共通点はよく分かってないんだよな。
 高レベルになれば必ず覚えるというわけでもないようだし、習得条件が良く分からないのだ。
 俺にはまだ関係ないか。

「ファルナ様の話はこれくらいにして、続いては基本スキルに移ります」

 ソウルスキルの講義だったよな?
 途中から趣旨変わりすぎじゃね?

「基本スキルに耐性スキルがすべて消滅した事で、それに付け込んだ事件も発生しました。現在その点は私達の行動ルールを含めて検討する必要があります。そして斥候スキルの多くが統合され、基本スキルに移動しました。特に罠感知、敵感知などの感知スキルはすべて『感知』に統合され、有用度が増しています。そして……」

 俺のスキル枠は残り1つだ。
 基本スキルを1つだけ取得できるけど、どれを取得するかは厳選する必要があるだろう。
 今、同じ系統のスキルをカンストさせれば自動的に発動していたスキル統合は確認されていない。
 スキル振りの難易度は上がっているのだ。

 気配を感じアサヒを見るとまだ俺を睨んでいた。
 俺は小声でエリスに聞いた。

「アサヒって停学になったはずだよな?」
「今日から通えるようななったんだよ」

 よりによって今日からか。
 運が悪い。
 いや、俺は苦難の道を選んだんだ。
 このくらいならいい方か。

 シスターちゃんは小型犬のように俺に甘え続け、早めの講義が終わった。
 これは、アサヒが来るな。

 アサヒが俺に向かって歩いてきた。
 ほらな。

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