上 下
58 / 179

第58話

しおりを挟む
【王国歴999年冬の月73日】

 夜に目が覚める。
 日付は、まだ、変わっていない。
 俺は、半日も眠っていたのか。

「目覚めましたのね」
「ファルナ、今、どんな状況だ?」

「いい状態ではありませんわ。みんな疲弊していますの」

 俺はテントの外に出た。
 皆疲れている。
 顔を見ればすぐにわかる。
 今奇襲を受けたらまずい。

 トレイン娘が斥候から帰って来る。
 トレイン娘は特にボロボロだった。

 今サポートの要は……

 ポーションを作れるヒメ。
 紋章装備を作れるエリス。
 そして斥候能力があり、レベルも高いトレイン娘だ。

 回復が足りないか。
 ケガがそのままの者も居る。
 シスターちゃんも頑張っているはずだが、レベル不足だ。
 今レベル15で皆の中で最弱クラスとなる。

 特にシスターちゃんはレベルが低いだけじゃなく、ジョブチェンジが可能な【儀式】のスキルに多くのスキルポイントをつぎ込んでいる。
 皆の為にサポートスキルを取った者は、その分戦闘力が弱くなるのだ。

 更に聖魔導士は弱い。
 倒される前に一気に倒した方が有利なこのダンジョンで、【攻】ではなく【防】に特化している聖魔導士は弱いのだ。

 ヒメも、エリスも、シスターちゃんも、そしてトレイン娘も、みんな優しいよな。
 優しくて皆をサポートするスキルを取ると、弱くなる。
 それが嫌だと思った。

 頭を切り替えよう。
 今はどうするかだ。

「シスターちゃん、頼みたいことがある」
「分かったのです」
「まだ何も言っていない」
「大丈夫なのです」
「だから何も言ってないんだ」

 シスターちゃんは疲れた顔で笑って「大丈夫なのです」と言った。

 シスターちゃんは、どんなに苦しくなることを言っても、大丈夫ですとしか言わないだろう。



 シスターちゃんはただ疲れているだけだったが、ハヤトは行動する臆病者だ。
 シスターちゃんの事を深刻に考えていた。

 俺は説明を始める。

「シスターちゃんと俺だけでパーティーを組んでシスターちゃんのレベルを上げたい。3人だけシスターちゃんの護衛をしてくれ。ついでに周りに居る魔物を狩って来る」
「分かったのです」

「大丈夫ですの?」

 ファルナが渋い顔をした。

「すまない、シスターちゃんが疲れているのは分かっている。だが、今はシスターちゃんに負担をかけてでも、無理してシスターちゃんのレベルを上げておきたい」
「そうではありませんわ!あなたは大丈夫ですの?あなたは疲れていませんの?」

「俺は、回復力が高い」
「過労で寝込んだばかりですわ!」
「大丈夫だ。無理はしない」
「約束ですわよ」

「分かった」

 嘘に決まっている。
 全力で戦ってみんなのレベルを上げる。
 俺は死ぬのも死なせるのも嫌なんだ。

「早く行きたいのです。私がフェロモンポーションを被って魔物を引き付けたいのです」
「それは……すまない、危険になるが、頼む」

「私がやりますよ!」

 トレイン娘が手を上げた。

「いや、今日は休んでくれ」

 トレイン娘は皆にも止められる。

「駄目だよ。今日は休むんだ」
「トレイン娘、今はあなたが一番疲れていますわよ」
「休もうよ」

「あ、あははは!大げさすぎますよ!大丈夫ですよ!」
「駄目だ!エリス、ヒメ、トレイン娘を休ませてくれ!」

 俺は強引にトレイン娘を休ませた。

 今する事は2つだ。
・周りの魔物狩り
・シスターちゃんのレベルアップによるサポートの強化だ。

 俺はステータスを開いた。




 ハヤト 男
 レベル:1
 固有スキル きゅう:LV8
 ジョブ:サムライ
 体力:1+100  
 魔力:1+150  
 敏捷:7+350  
 技量:1+100  
 魅力:0+100 
 名声:0+100  
 スキル・闇魔法:LV10・刀剣術:LV10・超人体:LV10・罠感知:LV10・敵感知:LV10・偽装:LV10・ステップ:LV10・カウンター:LV10 ・儀式:LV10 ・リカバリー:LV10
 武器 漆黒の刀:250 ・防具 漆黒の衣:150 
 斥候の紋章 ・耐性の紋章 




 皆とは違い、攻撃重視のスキルに苦笑いを浮かべた。
 魔力を消費して【儀式】のスキルを使いスキルを入れ替えたくなる。
 駄目だ、今は全魔力をアーツスキルに使う。
 今スキルの入れ替えをすればMPを100ポイントも消費する。

 ブレるな、俺の特性は攻撃特化だ。
 魔物を倒してみんなのレベルを上げる。
 今はマジックポーションも貴重だ。
 バンバン魔力を回復する事が出来ない。

 皆と離れすぎるのも危険だ。
 俺だけ別の階に行く選択肢も無い。

 俺は、アタッカーだ!
 みんなのレベルを上げる!

 シスターちゃんのレベルを上げて、シスターちゃんに休んでもらえば明日はよくなる。

 俺はシスターちゃんとだけパーティーを組んで周囲を回る。
 シスターちゃんの周りには3人の兵士が護衛をする。
 シスターちゃんにはフェロモンポーションを使ってもらった。
 リスクはあるが、急ぐ必要があると感じた。

 スティンガーが攻めてきたわけではないが、追い詰められている感覚があった。
 不安を振り払うように魔物を倒す。
 魔物を倒していく。


 グオオオオオオオオオ!
 
 アサルトボアのボスか。
 もう、3階のボスは普通に倒せる。

 俺は走ってボスに接近する。

「月光!斬月!」

 アーツスキルを叩きこみ、通常攻撃を連撃した。
 ボスが倒れる。

「あっという間に倒したのです!」
「2つのスキルだけで簡単に倒したの!」
「すごい!ハヤト君はどんどん強くなってるわ!」

「どんどん行こう!」

 こうして、朝になる前にシスターちゃんのレベルは30になった。

 俺は気になって日付を確認する

【王国歴999年冬の月74日】

 ダンジョンが明るくなってきた。 

「ダンジョンに入って、丸2日か」

 

 行動する臆病者であるハヤトは、深刻に物事を考えていたが、ファルナ兵は急速にスティンガー率いる英雄騎士団への力を蓄えつつあった。
ハヤトは絶対に勝てる状況にしないと安心しない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

<完結済>画面から伸びて来た手に異世界へ引きずりこまれ、公爵令嬢になりました。

詩海猫
恋愛
「今日こそ、クリアしてやるんだから……!」 そう意気込みながら手にしたコントローラを振りかざしてモンスターをぶっ飛ばしていたら、突然画面が真っ暗になり、のびてきた手に画面の中の引きずりこまれた女子高生・紫亜は目が覚めたら知らない場所にいた。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

彼は誰

Rg
BL
戸嶋朝陽は、四年間思い続けていた相手、高比良衣知がとある事情から転がり込んできたことを“最初で最後のチャンス”だと思い軟禁する。 朝陽にとっての“愛”とは、最愛の彼を汚れた世界から守ること。 自分にとって絶対的な存在であるために、汚れた彼を更生すること。 そんな歪んだ一途な愛情が、ひっそりと血塗られた物語を描いてゆく。

[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します

紅月
恋愛
突然の事故死の後、なんでこんなアニメか乙女ゲームのヒロインの様な子に転生してるの?しかもコイツ(自分だけど)事故物件。 家とか周りに迷惑かけない様にしようとしたら……。 可愛い悪役令嬢様とも出会い、ヒロインなんてしたくないので、私、暗躍します。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...