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方針会議

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 俺は3日間ほど休んだ。
 俺は今ベリーと一緒にコーヒーを飲んでダラダラしている。
 スピードホースのトラウマで元気が出なかった。
「俺に懐かないけどあのエムルには懐くのか」

「まだ言ってる」
 ベリーが呆れた顔で俺を見た。

「スピードホースは俺じゃなくエムルを選んだんだ。俺は一生心の傷を負って生きていくだろう」
「気持ちは、分からないでもないわ」

 ベリーはベリーでエムルの事が苦手だ。
 ベリーだけではなくセイラもエムルが苦手だ。

 セイラとベリーはまじめで純粋な性格だ。
 エムルの下ネタ的な発言とクレイジーな性格は合わないだろう。

「それはいいとして、そろそろ会議の時間よ。もうアーサー王はもうここに到着しているわ」
「そうだな、行こう」


 会議室に向かうとディアブロ王国とアーサー王国の重要人物が揃い、みな席についていた。
 俺とベリーが席につく。
 会議室というより講演室と言った方がしっくりくる。
 ホープ大臣だけが前に立ち、他の全員が生徒のようにホープ大臣を向いて座っていた。

「すまない、遅刻したか」

 ホープ大臣が首を横に振る。
「いえ、時間丁度です。私が張り切って早めに席についたら、全員が集まってきたのです」
「遅刻じゃなくて良かったわ」

「それでは早速始めます」
 ホープ大臣は早速本題に入った。
 効率を重視し儀式的なやり取りは一切無かった。
 ホープ大臣らしい。

「まずは結論から言います。ゴブリンキングバグズがデイブックに侵攻を開始する事がほぼ確実となりました」
 ホープ大臣が周りを見渡す。
 意見が出ない事を確認して次に進む。

「それと、バグズの他に、ゴブリンの名前持ちが3体確認されています。グラブ、ブレイブ、マリーの3体です」
「ブレイブとマリー?」
 ベリーが首を傾げた。

「そうです、デイブックの元勇者パーティー、勇者ブレイブと聖女マリーがゴブリン化したと思われます」

 なんだと!
 ブレイブとマリーか!
「厄介だな、あいつら危なくなるとすぐ逃げるしこっちが弱いと分かれば徹底的に攻めてくる」

 奴らは魔物のように直線的な行動はしない。
 通常の魔物なら俺達を見つけると突撃してくる。
 行動が読みやすいのだ。

 だが、ブレイブもマリーも、それにゴブリンキングバグズも、危なくなれば撤退し、こちらの弱みを見つければ徹底的に突いてくるだろう。

 奴らは名前持ちの強さ。
 そして軍を動かす人間の結束力。
 そして、ゴブリンを駒のように使う非道さを兼ね備えている。

「その通りですな。そして、両国の文献を探してみましたが、元人間の魔物が二段階目に移行するかどうかはまだ分かりません」

「うむ、二段階目があると考えておいた方が良いだろうな」
 魔王が眉間に皺を寄せた。

 当然の反応だ。
 4体の名前持ちが居る。
 たった1体でも倒して二段階目に移行すれば呪いや状態異常の固有スキルで戦況を逆転される可能性があるのだ。
 その上ゴブリン軍団を率いている。

「その通りです。聞けばウイン殿が倒した【メツ】によって最強のウイン殿が一カ月眠り続けたとか」
「そうだな、呪い攻撃で完全回復まで二カ月かかった。名前持ちの怖さは倒して二段階目になった時だ。特性がガラッと変わり、こちらの圧倒的優位を覆される可能性もある」

 こちらが万全の準備をして名前持ちに臨んだとしても、二段階目で特性がガラッと変わり、対策が無意味になる事は十分に考えられる。
 更にメツほどではなくとも、レベル差を超えて英雄を殺したり、大量に兵を殺す大規模攻撃をしてくる可能性すらある。

 ウォールが俺の方を向いた。
「ウイン、聞きたいと思っていたのだが、今まで会った中で最強の名前持ちは誰だと思う?サーベルベアのベアード・スケルトンのメツ・ゴブリンキングのバグズと3体の名前持ちに勝利したウインの意見を聞きたい」

 俺は間髪入れず答えた。
「バグズだ」
「メツではなくてか?メツの呪いで一カ月昏睡状態に陥ったと聞いたが?」

 ウォールの疑問はよく分かる。
 アンデットの名前持ちの伝説は有名だ。
 多くの場合二段階目に移行すると、圧倒的な優位を覆されたり、最強の英雄を殺す状態異常を仕掛けてくる。

 アンデットの二段階目は呪いでレベル差を覆す力を見せてくる。
 英雄殺しのアンデットの名前持ちは最強の最有力候補。
 それが多くの者の認識だろう。

「それでもバグズが今までの名前持ちの中で最強だ。最強で厄介だな」

 そう、バグズが1番厄介で強い。
 ゴブリンは弱い魔物と思われがちだ。
 だがそれはレベルの低いゴブリンの話だ。
 人間でも村人と英雄クラスでは強さが全く違う。
 それと同じだ。
 
「バグズはゴブリンの【軍】を使い戦略を使ってくる。危なくなれば撤退し、優位な状態になるまで戦力を練り上げて今デイブックに侵攻しようとしている。それと、俺はバグズを倒せなかった。魔力が空になるまで戦ったのはバグズ戦だけだった」

「確かに、バグズにだけは逃げられました。ふむふむ、確かにバグズが最強かもしれませんな」
 その後もゴブリンの戦力など様々な質問が続いた。
 俺は何度もバグズの強さを説明する。

 その結果、警戒すべきはバグズ率いるゴブリン軍団の認識で一致した。

 バグズ自体の強さとまだスキルを見せていない不気味さ。
 4体の名前持ちが連携して動く上に軍を使う厄介さ。
 軍を捨て石にして結果を求める残虐性。
 危なくなれば撤退する狡猾さ。
 全部皆に伝わっただろう。

 その後ホープ大臣おシンクで会議は続く。



 ◇



「質問も出尽くしましたな。今東方の島国ヤマトから救援要請が入っております。ヤマトの救援を行うか、それともバグズを打倒するか、それとも他の案があるか、方針のすり合わせを行いたいのです。まずガルゴン様とアーサー王の意見を伺いたいですな」

 魔王が前に出た。
「ヤマトの救援については熟慮している最中だが、バグズは一旦放置したい。デイブックには何の恩も無いどころか怒りすら感じている。特にマスコミギルドが支配しているあの国は異常だ。それが現時点での私の考えだ」

 魔王が席に戻るとアーサー王も前に出た。
「私もガルゴン殿と同じ意見だ。デイブックにバグズを討伐して欲しいと思っている」

「良く分かりました。最期にウイン殿、お考えをお願いします」
「ん?俺も同じだ。助けに行ってまた魔物をなすりつけられるのは勘弁だ」
「分かりました。ではデイブックは放置する方針でよろしいですな?」

 皆が頷いた事を確認し、ホープ大臣は更に方針を詰めていく。
「では、次はヤマトについて報告します。ヤマトに居る名前持ちの討伐を手伝って欲しいと救援要請が来ました」

 魔王が質問した。
「【キュウビ】と【オロチ】だな?だが、その2体の名前持ちは1000年前から居る。なぜ今になって救援要請が来たのだ?」
 
 きつねの名前持ちのキュウビと大蛇の名前持ちのオロチか。
 有名だ。
 だけどその2体は積極的に人里に現れないからそこまで被害は大きくないはずだ。
 それと、気になったのはベリーの表情が暗くなっている事だ。

「ベリー、どうした?」
「な、何でもないわ」
「そうか」
 何でもないわけではないと思うが、無理に聞く事でもない。
 俺は話を切り上げた。

「確かにその通りです。しかし、名前持ちの影響で住処を追われた魔物が人里に移動し攻撃を仕掛けてきているようです。その影響できつね族に飢餓が発生しています」
 その話を聞いてベリーの表情が明らかに曇った。

「名前持ちの討伐ときつね族の飢餓問題、両方を解決出来ればベストです。ですが、名前持ちを1体倒すだけでもきつね族の飢餓問題は緩和されるようです」

 恐らく、ベリーはきつね族の事を気にしている。
 ならやる事は1つだ。

「俺がヤマトに行きたい」
「わ、私も行くわ!」
「僕も行くよ!」
「わたくしも行きますわ」

「ウイン一行がヤマトに行く。これでよろしいですかな?」



 会議は続き、数日後にヤマトに行く事が決まった。
 行くメンバーは俺・ベリー・エムル・ルナの4人のみ。



 会議が終わっても俺はベリーの事が気になっていた。
「ベリー、俺に出来る事があれば言ってくれ」
「ありがとう。でも大丈夫よ」
「分かった」

 ベリーは何かを抱えている。
 その時俺は、ベリーの悩みの原因が分からなかった。




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