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第1話 オールFランク

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「オールFは高校を辞めればいい」

 鬼道勇也キドウユウヤが馬鹿にするような言い方で言った。

 鬼道勇也は俺と同じ冒険者学校のクラスメートで、嫌な奴だ。
 青い髪と青い瞳は冷たい心を現したようで、黒縁メガネは更にその冷たさを引き立たせている。
 しかも冒険者の成績が良く、家は金持ちだ。

「才能もオールFだから昇格試験に受かる事が出来ない」

 鬼道はしつこい。

「鬼道、いつも言っているが人に喧嘩を売るような発言はするな」

 先生は流れ作業のように注意する。
 先生も鬼道が変わるとは思っていない。
 そして俺達は冒険者学校の高校3年生で冬休みが近い。

 もうすぐ卒業する鬼道を先生の立場はあっても力を入れて注意する事は無いだろう。
 何度言っても変わらず、癖が強く、もうすぐ卒業する相手だ。
 俺も先生の立場だったら熱心な対応はしないだろう。
 
 俺は自分の席に戻って成績表を開いた。

「試験に落ちたんだ。見ても結果は変わらない」

 鬼道がしつこい。
 相手にしても話が噛み合わない相手だ。
 出来るだけスルーする。

 学科は問題無い。

 問題は冒険者としての成績だ。



   仙道優也センドウユウヤ
 
 ファイター Fランク
 ガンナー  Fランク
 ウィザード Fランク
 錬金術師  Fランク
 ファーマー Fランク
 スキル:生活魔法・バリア・シールド


 俺はため息をついた。

 そして全部の昇格試験を受けてすべて落ちた。

 ランクはSからFまであり、実質最高はAランクだ。
 どんなに出来の悪い生徒でも何かの才能があってEランクには受かる。
 ちなみに鬼道はファイターのDランクだ。

 俺は毎日剣を振り、魔法訓練を続け、銃の練習をしたが、覚えたのはサポート用の生活魔法とバリア、シールドだった。
 モンスターを倒せるスキルを持っていないのだ。
 そして凡人のスキルは3枠が限界だと言われている。 

 しかも枠の内2枠はバリアとシールドを覚えてしまった。
 普通なら『バリア魔法』の1枠だけでバリアとシールドを使えるようになる。
 だが俺は『バリア』と『シールド』で枠を2つも埋めている。

 5年前に異界に繋がる魔法陣が出現してから職業は大きく変わった。
 日本の失われた30年は終わり、好景気を迎えている。

 多くの者が少しの努力で冒険者か冒険者の関連会社、それか錬金術師やファーマーの生産職に就く事が出来る。

 だが、俺には何の才能も無かった。
 毎日努力をしてきた。
 でも駄目だった。

 結果がついてこない。



「静かにしろ!明日の異界探索が終われば冬休みだが気を抜くなよ!いつもと違って奥まで探索するんだ!それと集合時間に遅れるなよ!」

「「はい!」」

「気を付けて帰れ。以上だ」

 先生の合図で先生に礼をしてみんなが帰っていく。

 鬼道は俺の顔を見て馬鹿にしたように笑っていた。

 あいつの笑顔が気色悪い。

 あいつの言葉が気色悪い。

 同じ名前なのも嫌だ。

 俺は鬼道の目を見ないようにして教室を出た。



 ◇



 アパートに帰ると魔道スマホが震えた。
 科学の代わりに錬金術が発達し、スマホに変わる物を錬金術で作り出せるようになった。
 なので異界の出現前と比べて生活レベルは落ちていない。
 それどころか日本は好景気を迎えている。
 魔道スマホを眺める。

『お兄ちゃん、帰った?』
『今家にいる』
『今から行くね』


 数分で東山あかりトウヤマアカリがアパートの前に来た。
 あかりは俺の事をお兄ちゃんと呼ぶが本当の妹ではない。
 幼馴染で俺の方が少し早生まれなのでお兄ちゃんと呼ばれている。
 同じ高校に通い、クラスは違うが同じ学年だ。
 うす紫色の髪色と瞳をしていていてセミロングのシャギーカットが光の反射具合で桃色っぽくなったり淡い青色っぽく見えたりする。
 淡いアジサイのようにきれいな色をしている。
 凹凸がはっきりしているスタイルとおっとりとした話し方で高校内での人気も高い。
 あかりが高校で男性人気ナンバーワンだ。


「食べ物、持って来たよ」
「ありがとう。いつも助かるけど、無理しなくていいんだぞ」
「いいの!お兄ちゃん、明日は気を付けてね」
「そうだな、異界の奥まで探索するんだ。気を付けるさ」

 いつもなら異界に入る魔法陣から離れすぎないようにモンスターと闘っている。
 自衛隊がいても気を抜いてはいけない。

「うんう、違うよ。なんだか、嫌な予感がするの」
「気を付けよう。自衛隊の後ろについていくさ」
「その方がいいと思う。じゃあね」
「おう、ありがとな」

 俺とあかりは手を振って別れた。



 ◇



【次の日】

 学校に集合すると校舎に垂れ幕がかけられている。

『サラリーマンから冒険者へ!科学から錬金術へ!』

 国が掲げたスローガンだ。
 才能の無い俺はこの文字を見るたびに気が滅入る。

 クラスのみんなと先生が全員揃うと先生が自衛隊の引率役に進行を譲った。

 5人の自衛隊が引率役を務める。
 その中で一番目立つ大男が前に出て大きな声で言った。

「Cランクファイターの自衛官大河雄大タイガユウダイだ!今日一日みんなの引率役を任されている!よろしく頼む!」

 ちなみに冒険者ランクは国の共通資格だ。

 大河さんの身長は180を超えているだろう。
 腰に付けた剣に目が行く。
 魔道剣……剣さえあれば、俺も戦えるんだけどな。
 でも剣は才能のある冒険者や自衛官優先で売られる。
 魔道武器の生産は足りず、才能の無い俺には回ってこない。
 まともな装備は100万円以上するのでそもそも買えない。

 ファイターの適性がある生徒には中古品が売られているけど俺には声すらかからない。
 
 自衛官5人の自己紹介が終わると全員で行進しつつ魔法陣を目指す。
 魔法陣に入ると異界に転送され、そこにはモンスターが出てくる。

 全員が魔法陣を通って異界に入ると奥に進んで行進していく。

 クラスメートは緊張を紛らわす為か落ち着きがない。
 無駄に話を始める。

「早く卒業してたくさん稼ぐぜ!」
「俺は早く金持ちになって引退するんだ!」

「私語を慎んでくれ!モンスターに発見される!」

 スライム7体が現れた。
 スライムは俺の腰くらいの高さで丸くて青いモンスターだ。

 モンスターの上に『スライム』の文字が見える。
 モンスターを見れば一発で名前が分かるのだ。

 大河さんが筒状の武器を握ると筒から魔法剣が発生する。
 大河さんが一瞬で距離を詰めてスライムを斬るとスライムが黒い霧に変わった。

 倒した1体からキューブの形をした光る石が落ちた。

「お、当たりだ!魔石がドロップしたぞ!」

 生徒がパチパチと拍手をする。

「静かにな」

 地面が揺れた。

「何だ?地震か?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 地面が更に大きく揺れる。
 周りを見渡すと複数の魔法陣が出現した。

 魔法陣からモンスターが次々と出てくる。


 自衛官が叫んだ。

「まさか!モンスターパレードか!」
「一回起きただけで!何千万人が死んだあの!」
「ああああ、ただの地震じゃなかった!」

「撤退だ!モンスターパレードが発生した!繰り返す!今すぐに撤退する!繰り返す!今すぐに撤退する!」


「うああああああああああああ!!!」

 生徒がパニックを起こして走り出した。
 みんながばらばらに逃げ、異界から出る魔法陣を目指す。

 あかりの勘が当たった!

「待て!離れすぎるな!パニックを起こすな!隊列を組め、くそ!うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 自衛官の大河さんがスライムの群れに飛び込んで円筒形の武器を握った。
 筒から魔法剣が発生し、スライムを切り倒していく。

「わ、私について来てください!バラバラに動かないで!」

 鬼道と数人のクラスメートがスライムに囲まれて混乱する。
 スライムならクラスメートでも倒せるが100を超えるスライムに包囲されてはなぶり殺しにされてしまう。

 母さんの言葉が頭に浮かんだ。

『みんなを守れる立派な人間になりなさい』

「バリア!」

 俺の体を光が覆った。
 バリアは1回だけ敵からの攻撃を防いでくれる防御魔法だ。
 俺にはこれしか出来る事が無い。

「うあああああああああああああああ!!」

 バリアを発動させてスライムを殴る。
 スライムはボウリングのピンのように飛ばされて後ろにいるスライムにぶつかった。

「バリア!バリア!バリア!バリア!早く避難してくれ!」

 俺は攻撃を受けながらバリアが切れるたびにバリアを張った。

 鬼道を含めたクラスメートが包囲を突破した。
 鬼道は包囲されそうになる俺を見て不気味な笑みを浮かべていた。

 鬼道は俺が死ねばいいと思っているんだ。
 鬼道はいつも俺の事をゴミを見るような目で見ていた。
 無能は死ねと思っているんだろう。

 俺は完全に包囲された。
 モンスターは攻撃した相手をターゲットにする習性がある。
 俺は完全に狙われていた。

「うああああ!バリア!バリア!バリア!バリア!」






 あとがき
 新作、胸糞NTR有りの現代ダークファンタジーです。

 作風としては前に書いた『NTRエロゲ』に近い感じとなっております。
 導入部は暗めですが、コメディ多めで最後まで見る事が出来るよう工夫する予定です。

 ではでは、よろしくお願いします。
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