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第75話

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 俺は奪う者を追い出した後、ライターと握手をした。

「ライターのアドバイスと協力のおかげで村の治安は大きく向上した」
「奪う者を排除した村は私の理想でもあるのだ。日本にいた頃から、奪う者の存在によって、嫌な思いをしてきた」

 ライターの言いたいことは分かる。
 ライターがどんな嫌な思いをしてきたかは分からないが、日本の会社は簡単に首を切ることが出来ない。
 その事自体は弱い者にとってはメリットもある。
 正確に言えば派遣など末端の首は簡単に切れるようになりつつあるが企業のトップはどんなに会社を傾かせても変えられず良くない状況に変わりつつある。

 ダストの様な者を簡単には排除できない問題も抱えており、まともな者は奪う者を管理する為に睡眠時間を奪われ、自分の事しか考えない者は、奪う者の管理を人にやらせて自分は一切かかわらないようにする。
 ライターは必要以上に仕事を押し付けられてきたのかもしれない。

 まともな者が生み出した利益を奪う者が吸い続ける仕組みにもなっている。
 しかも日本の会社は、誰がどの程度の仕事をしたか、だれが作業したかを把握していないケースが多い。

 IT化して従業員の仕事量を視覚化している会社と、従来通りのやり方を続ける企業は二極化しているように思う。

 だがこの世界は日本より法が厳密に整ってはいない。
 そして、民の学力は低い。

 俺はその隙間を突くように強引な手を使ってでも奪う者を排除するよう準備してきた。


 ライターが持ってきた案はほとんど採用してきたし、案を追加して改善し続けてきた。
 もう、家族を奪わせる事はしない。

『国を守ろう、世界を守ろうなどと、大きなことは考えなくていいんじゃ。じゃが、自分と、その家族だけは守ってほしいんじゃ。それだけは頭の片隅に入れておいてくれんかの?』

 最近、気を抜くとゼスじいの言葉を思い出す。
 俺は、豪華ではない、しかし住んでみると良さが分かるような村を目指した結果、皆が住みやすくなってきたと思う。



 ゲットとライターは気づいていない。
 思ったよりもノースシティの人間から嫌われている事実に。 
 何かを進めることで、必ずメリットとデメリットが生まれる。
 ライターとゲットは、批判を受けても物事を進める道を選んでいた。

 後にノースシティから形だけの抗議の手紙が届く事になり、ノースシティの領主に上手く利用された事実を後で知ることとなる。



「所で、いいのかね?」
「なにがだ?」
「最近、仕事ばかりだろう?後ろを見るのだ」


 ジト目のアリシアがいた。

「あ、アリシア、斥候お疲れ様だったな」

 アリシアはジト目のまま俺を見続けた。
 怖いんですけど!?

「ど、どうした?」
「忘れてるにゃあ、結婚した事、忘れてるにゃあ」
「これはこれは、ゲット卿、後の事は私がやっておきますので今日の所はお休みください」

 ライターは大げさに礼をして見せた。
 ライターと仲良くなったが、結婚した皆とは仕事以外の話をしていなかった。

「デートに行くにゃあ」

 そう言ってアリシアが俺を引っ張った。

 村を歩くとみんなに声を掛けられる。
 俺が小さい頃から知っているおばさんだ。

「珍しいねえ。今日はデートかい?」
「一緒に食事に行くにゃあ」
「そうかい、楽しんでおいで」

 クレアの元副長も俺に声をかけた。

「ゲット殿!お疲れ様です!」
「いや、皆の方がお疲れだろ?俺は今日休んでいる」

「ええ!連日仕事漬けのゲット殿が!いえ、これも皆が心置きなく休むためのアピールでしょう。まずは統治者自らが休まねば皆安心して休めませんからな!」

 元副隊長は勘違いしている。
 そんな意図はない。

「今日はデートにゃあ」

「なるほど、ゲット殿のお考えも分かりますが、本当の意味でゲット殿が休めるよう我ら兵士も日々努力を続けます!」
「休める時は休んでくれよ。真面目に仕事をしすぎると、民にピリピリしているのが伝わるからな」

「笑顔を偽装しつつ立派に務めを果たします!」

 そう言って元副長は歩いて行った。

「いや、そうじゃなくて!」


 クレアだけでなく、クレアの元副長もこの村に住むことになった。
 わざわざ兵士を辞めて、始まりの村でまた兵士に志願してきたのだ。
 どうやら昔ゼスじいの世話になったようで、この村に特別な思いがあるようだ。

 ゼスじいが亡くなった時、泣いてくれたのも元副長だった。

 元副長は人望があり、後を追うように部下がこの村にやってきた。
 更にクレアの人望もある。
 優秀な兵士が王都から抜けすぎている。
 大丈夫なのか?

 

 更にエステル派やエステルの治療で家族を救われた者や食料を分け与えられた者の一部も恩返しの為に集まってきた。

『与える者』の周りには人が集まって来るのだ。 
 皆『与える者』に恩返しをしようとして集まって来た者の為、金や権力ではなく、善意で集まってきた。
 彼ら、彼女らの中にも『与える者』が多いのかもしれない。

 俺は、『与える者』ではなく『バランスを取る者』だ。
 奪う者には悪意で返すし、与える者には善行で返す。

 俺は普通の人間。

 多数派の人間だ。

 ライターの言葉を思い出す。

『奪う者が成功するのは最初だけだ。
 最初は与える者を食い物にして、得をしているように見えるだろう。

 だが、多数派である『バランスを取る者』が奪う者を排除しようとする。
 『バランスを取る者』は不当に利益を得ようとする者を許さない
 私の役割は、そこにあるように思えるのだ』

 俺はライターのその言葉が胸に刺さった。

 俺の役割はそこにあると思った瞬間だった。
 悪には、悪でぶつかる。
 汚れ役は全部俺がやる。
 どんな手でも使おう!

 奪う者物は他の街に押し付け、追放しする。
 それでもダメなら脅し、更にそれでもダメなら殺す。

「ゲット、また仕事の事を考えてるにゃあ」
「すまない、食事にしよう」

 俺はとアリシアはテラス席に腰かけて料理を注文した。

 ぬるっとエムルが隣に座った。

「ふ、ふふふふ、今まで中々高度な放置プレイだったよ。
 でも、そろそろいいんじゃないかな」

「エムル黙れ!黙れエムル!今はアリシアとデート中だ!空気を読めよ!3日間魔物を狩りに行ってこい!それまで戻って来るな!」

「はふん!はあ、はあ!小さなご褒美、受け取ったよ。スケルトン部隊!出陣するよ!」

 エムルはスケルトンを連れて村の外に出て行った。
 エムルまで出陣しなくても良かったのだが、エムルは定期的に俺の仕事にぬるっと入って来る。
 俺を怒らせるように誘導されているような気がしてそれもまた腹が立つ。

「今日は2人だけでデートだ。食事を楽しもう」

 食事が終わると。俺は残った仕事を片付けるため席を立った。

「残った仕事を片付けて来る」

 歩いて立ち去ろうとする俺を、アリシアが掴んだ。
 背中のローブを掴まれてローブが伸びる。

「デート中だにゃあ」
「仕事が残ってるんだ」

「ライターがやるから大丈夫にゃあ」
「気になることがあるんだ」

 アリシアが俺に抱きついてささやいた。

「ベッドに行くにゃあ」
「今から!」

 アリシアを見ると笑顔のまま見返してくる。



 ◇



 チュンチュンチュンチュンチュン!

 朝日は昇り、もう昼近い。
 ベッドの周りには衣服が散乱し、丸1日近くここで過ごした。
 ベッドの隣に置いてある1リットル以上入る水差しが3つ空になっていた。

 アリシアはやっと眠り出す。
 その寝顔は安心したように見えた。

 領主として村を良くし、何日も奥地に進んで魔物を狩りに狩って過ごしてきた。
 俺はステータスを開いた。




 ゲット 人族 男
 レベル:  85
 HP:  850   SS
 MP:   850   SS
 物理攻撃:680    A
 物理防御:850   SS
 魔法攻撃:850   SS
 魔法防御:425    D
 すばやさ:680    A
 固有スキル:炎強化
 スキル:『メイス☆』『盾☆』『ファイアLV☆』『ハイファイアLV☆』『エクスファイアLV85【10UP!】』『ヒールLV33【2UP!】』『リカバリーLV12【1UP!】』『トラップLV22』『宝感知LV29』『ストレージLV45【5UP!】』『ファイアエンチャントLV☆』『ファイアシールドLV91【20UP!】』『再生の炎☆』『努力LV50【30UP!】』
 武器 炎のメイス:250 炎魔法+30%
 防具 守りの円盾:150(HP微回復) 再生のローブ:150(HP微回復) 再生のブーツ:100(HP微回復)
 エステル:好感度88【1UP!】
 クレア :好感度73
 アリシア:好感度84【10UP!】
 エムル :好感度90【3UP!】(奴隷) 


 一気にアリシアの好感度が上がってる!

 いや、それよりも、エムル、あいつの好感度が3も上がっている!
 80台まで上がると変化が少なくなるはずなのに!




 あとがき
 質問Q&A

 Q
『本来複雑な人間をはっきり3種類に分けてる』
『後天的な性質の獲得が無視されてる』

 A
 そうですね。
 1番の理由は分かりやすさ重視の為です。

 本来物事は多面的です。
 後天的に変わる事はありえますし、『与える者』『奪う者』『バランスを取る者』の要素を人はすべて持っておりその中で飛びぬけて現れた部分を見て判断しているというのが正確な所です。
 なので主人公以外変化を描いていません。

 ただ、正確に書くと次のような問題が出てきます。

『キャラがブレている!違和感しかない!』

『文章の意味が分からない!』

 性格が変わった経緯を描写しても、それでも理解されないケースがあるんですね。
 もちろん複雑にしてもOKと言う方もいると思いますが、ネット小説という特性上会社や学校から帰り疲れた状態で流し読みをするような方にも出来るだけ分かるよう意識して言い切る形の文章で書いております。


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