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第74話

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【奪う者・冒険者視点】

「やっとノースシティに着いたぜ」
「まずは飯と宿屋だ」

 始まりの村から移民した冒険者は食事処に向かった。



「おいおいおいおい!何で飯が2000ゴールドもするんだよ!」
「そうだぜ!始まりの村じゃ500ゴールドでこれより良い飯が食えた!」

「あんたたち、冷やかしなら帰ってくれねーかな?今年は不作でその分値段が上がってるんだ!始まりの街は辺境で物価が安いに決まってるだろ!」

「ち、他に行くぜ!ここじゃ食わねーよ!ぼったくりが!」



 他の場所を探す冒険者だったが、どこも高かった。

「ち、どうなってやがる!どこも飯が高すぎる!おまけに宿屋の値段も王都とそれほど変わらねえ、始まりの村なら小部屋の素泊まりで1000ゴールドだった。でもここじゃぼろい所でも5000ゴールドを取られちまう」

「おめえら!手分けして宿屋を探せ!」
「お前は探さねえのか?」
「俺はお前らの世話で忙しいんだよ!」



 こうして喧嘩をしつつも宿屋を探すが、いい宿屋は見つからなかった。
 良心的な値段設定にしている宿屋は、ガラの悪い冒険者を嫌い、まともな冒険者を宿屋に泊め、部屋を満室にする事で、長期的に友好な関係を築いていた。

 残る宿屋は、とにかく客から多くの金をむしり取ろうとする奪う者である点、更に、一気に始まりの村から多くの冒険者が流れた為宿屋が不足し、需要と供給の関係で宿屋が優位な状況となっていた。

 更にすぐに商業ギルドに噂は広まった。

『始まりの村から来た冒険者はトラブルばかりを起こす』

 これにより冒険者は更に足元を見られて生活する事になったのだ。

「ち!おかしい。ここは思ったより居心地が悪い。魔物を倒した時の報酬は出るが、報酬額がどんどん減っていきやがる」
「ここも冒険者が多すぎなんだよ!」
「それに報酬は始まりの村より良いのに金が貯まらねえ」
「ここは宿屋も飯も武器も全部高い!高すぎるぜ!」

「なあ、始まりの村に戻らねえか?」
「だがよう、街道には魔物が多く居やがる!」
「ち、無能のゲットが!領主の仕事位きっちりしろよ!」

 文句を言いつつも、冒険者達は始まりの村を目指した。



「あああああああああ!助け!助けろおおおおおおおおお!」

 冒険者は街道で出くわしたゴブリンの群れから逃げ出す。
 そしてお互いに罵り合いを続ける。

「お前が始まりの村に行くって言ったからこうなったんだろうが!お前がおとりになれよ!」
「はあ!最初に言いだしたのはお前だろうが!」

 冒険者達は追いかけられ、ゴブリンに後ろから石を投げつけられ、罵り合いながらノースシティに戻った。
 その後責任のなすりつけ合いが始まり、パーティーは分裂し、更に苦しい生活を送る事となった。



 奪う者の特徴を持つ冒険者は自分で魔物を倒して街道を安全にしようとは思わない。
 何か悪い事が起これば人のせいにし、自分では動かない為レベルも低い。
 そして、最低限の読み書きと計算が出来ない為、物価高を考慮に入れる事も出来なかったのだ。
 目の前に出された30万ゴールドに目がくらみ、追放された事に気づく事も無い。

 奪う者の多くは自分は優秀だと思い込んでいる。

 そして馬鹿ほど自分の事を優秀だと思い込む。

 追放された冒険者は奪う者であり馬鹿でもあった。

 つまりダストと同じで失敗を繰り返しやすいのだ。
 始まりの村から移民した冒険者達は苦しい生活を続ける事となった。

 その頃ルンバも同じノースシティにたどり着き、魔物を狩って過ごしていた。



【ルンバ視点】

 最近冒険者の数が増えた。
 ち、競争相手が多くなると報酬が下がってしまう。
 需要と供給の関係があるのになぜ街に冒険者が集まって来るんだ!

 私の取り分が減ってしまうじゃないか!
 頭の悪い冒険者共は計算すら出来ないのか!

 ゴールデンオークを見た。

 よだれを垂らしながら『食わせろ!食わせろ!』と何度も言い続けている。
 毎日後ろで言われ続けると気が滅入る。

 テイムを解除して逃げるか?
 いや、解除したら私は食われる。
 この街の人をうまくおとりにして自分だけ助かる方法は無いか?
 鉄の牢獄は怪力で簡単に壊して脱出されるだろう。
 自殺させる命令は出来ない。
 状態異常も効かない。
 常に私の後ろについてくる。
 私一人では勝てないし、1回でもテイムを解除すれば、もうテイムする事は難しいだろう。
 ……詰んでいる。

 やはり誰かに金を出させてこいつを落ち着かせるしかないか。
 こいつは常に私の後をついて来て宿屋にとまる事も難しい。
 何か食べに行こうとすればまるでブタのように食べ物に突撃して食べ物を口に入れていく。

 くそ、ブタが!
 お前のせいで野宿だ!

「食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!食わせろ!」
「うるさい!」

 そう言った瞬間にゴールデンオークが俺を睨んだ。
 そしてゆっくり近づいてくる。

「わ、わかりました!悪かったです!仲良くしましょう!さ、魚を取ってきます!」

 くそ、全部ガルウインのせいだ。
 アミュレットが死んだのも、私がこんなひもじい生活をしているのもガルウインのせいだ!
  北に行くしかないか。



 ルンバがボス転移へのスイッチを押し、アミュレットをおとりにするように逃げた事でアミュレットが命を落としたが、自分が悪いとは一切思っていない。

 なぜならルンバは『奪う者』なのだ。



 ルンバが来たに向かった頃、変化があった。

 ノースシティに住む白髪交じりのシスターは炊き出しの為、農民や飲食店に頭を下げて回る。
 店では出せない野菜の切れ端を貰い、寄付を集め何とかパンとスープを用意し、広場で配っていく。

 孤児院の子供達にも手伝ってもらい、週に1度、無償で炊き出しをするのがシスターの日課だ。

 子供に手伝ってもらうのは、与える喜びと愛を知ってもらう為。
 孤児院の子供は父や母が無く、シスターが母代わりを務める。

 列に並んだ者は、スープ1杯とパンを1つ貰い、食べ終わるとシスターに感謝し、子供を褒めて帰っていくのがいつもの風景だが今日だけは違った。

 始まりの村から来た冒険者が列に割り込み、パンとスープを貰いに来たのだ。

 シスターは前に出て言った。

「列に割り込まないでください」
「ああ!こっちは魔物狩りで疲れてんだよ!」
「魔物狩りを出来るならお店で食べてください」

「腹が減ってるんだよ!」

 そう言って冒険者は自分でスープをすくい、パンを3つ持って行こうとする。
 本来は1つまでのパン。
 しかも困った者を助けるための炊き出しの為、働ける冒険者に炊き出しは行っていないのだ。

「冒険者の方は食べないでください!」
「へ、うるさい奴だ」

 そう言ってパンを口に入れた瞬間冒険者の顔が歪む。

「まず!まずい!ちゃんと脱穀してんのかよ!殻が多いんだよくそが!しかもスープの具がほとんどねえじゃねえか!飯位まともに作れよ!」

 パンは安く多く作る為麦の殻を多めに残して粉にしてある。
 その為味より栄養を重視して作っていたのだ。
 スープの具が少ないのは少ない寄付の中でそれでも多くの人に行き届かせる為。
 冒険者はそんなシスターの苦労など知らずスープとパンを勢いよく口に入れていく。

「ああ!パンを返してください!それは困った方の為に用意したものです」
「てめえ!話聞けよ!まずいっつってんだろうが!」

 そう言いながら冒険者は食事を辞めない。
 全部口に入れると立ち上がり、シスターの胸倉を掴んで持ち上げた。

「てめえうるせえんだよ!あーまずい!俺はよお!まずい飯を作るてめえにアドバイスしてやってんだぜ!ありがたく思えよ!」
「ぐう、やめて、下さい」

 周りの者は小さい子供と体の弱い者ばかりだった。
 おどおどするばかりで止める事は出来ず、孤児院の子供は泣きだした。
 特に5才になったばかりの女の子はボロボロの人形を抱きしめて号泣している。
 だが冒険者は構わず続ける。

「俺はよお!この街を守る為に命をかけて戦ってやってるんだよ!そんな俺にまずい飯を食わせてんじゃねえぞ!」

 そう言った後シスターを投げつけた。
 シスターはテーブルにぶつかり、その上にあった熱いスープ鍋がシスターにかかった。

「ああああああああああああああああああああああああああああ!」

 シスターは熱湯で叫び声を上げ地面にうずくまる。
 孤児院の子供たちは『シスター!シスター!』と言って更に泣き出す。

 これにはさすがに冒険者も焦り、逃げるように去って行った。

 この後兵士が駆け付けシスターは手当てを受けるが、炊き出しはしばらく中止となり、飢える者はさらに飢え、孤児院の世話が回らなくなり、何とか苦労して炊き出しをしていたシスターはしばらく寝込む事となった。

 炊き出しはシスターが苦労して皆に頭を下げ、シスターの人柄を見込んで寄付が集まり、シスター自身が無償で働く事で何とか維持してきた。
 決して完璧ではないが、少ない寄付をやりくりし、皆に行き届かせる為のシスターの努力を知ろうとも助けようともせず、奪うだけでは飽き足らず、怒って胸倉を掴んで投げ飛ばしたのだ。



 シスターがスープの熱湯を浴びた時駆け付けた兵士はシスターの孤児院で育った。
 兵士になり自立してからも多くは無い給金からシスターに寄付を渡しており、シスターを母のように慕っていた。
 その兵士はシスターが熱湯を浴び、治療を受けた後すぐに地面を蹴るように走り、狂気の表情を浮かべノースシティ領主の元へと向かっていった。



【次の日】

 始まりの村から追放された冒険者が魔物狩りに出かける。
 その後ろには外套を羽織った4人が後を追うように歩いていく。

 それを見送る2人の兵士は話を始めた。

「なあ、あの冒険者って多分死ぬよな?」
「多分と言うか、奇跡でも起こらない限り助からないだろうな」

「だよなあ。追っているのは孤児院で育った奴らだし、領主も知らない振りをする。これから行方不明者が増えるな」
「ああ、シスターの話は聞いたよな?」

「聞いた聞いた。ひどい話だよな。無償で困った人の為に働いているシスターに『飯がまずい』って言って投げ飛ばしたんだろ?」
「ただ飯を食らった挙句アドバイスだ、ありがたく思え、と言っていたらしい」

「始まりの村から30万ゴールドを貰って追放された奴らか。大きな声では言えないが、あっちで殺しておいて欲しかったよな」
「英雄、ゲットか。俺のイメージは下がったわ」



 奪う者は厄介だ。
 奪う者の厄介な点は奪う者本人だけでなく、他の者から批判が出る点である。

 奪う者を殺せば批判が出る。

 奪う者を放置すれば批判が出る。

 奪う者を追放しても追放先から嫌われる。

 奪う者を教育して変えようとしても変えることは難しい。
 何故なら奪う者は自分がまともな人間だと思っているからだ。



 ノースシティの領主は奪う者を殺す決断をした。
 奪う者を放置し、悪評が広まるまでじっと待ち、兵士が直談判して来たタイミングで暗殺の許可を出したのだ。

 そのおかげか領主が暗殺に関わっている事を皆がうすうす分かってはいてもそこまで批判は出なかった。
 そして便乗するように前から問題を起こしていた者も行方不明になり、治安は向上した。






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